十四段 青紅葉㊃
風波公園にある池で楓と双子が水切りをしている。双子が投げる石は、水にボチャーンとなるのに対し、楓の投げる石は、水面を何度も跳ね、向こう岸にまで達するので、双子は大興奮だ。
「もっと平たい石を使わないと。これとか。投げ方は、横から切るように……」
楓がアドバイスし、双子の手を取ってレクチャーする。
「やっぱり弟さんがいるだけあって、楓ちゃん面倒見がいいね」
「そういえばお母さん、保育士さんって言ってたっけ」
木陰にいるさくやと千代は、楓達が遊ぶ光景を微笑ましそうに見ていた。
双子は、アクティブな遊びが好きらしい。過保護なさくやと違い、運動神経の良い楓は、やんちゃにも付き合え、中々、懐いたようだった。
「あーあ。女の子なら、わたしの方が人気になると思うのになぁ……」
千代はちょっとへそを曲げ、しゃがみ込んだ。
「楓ちゃん……なんだかんだ言って男の子好きなんだよ」
ジトッとした目で楓を見ながら、千代が推測する。
さくやは、尊の事が好きだと、始めて二人に打ち明けた時の、楓の表情を覚えている。
「ふふっ。そうかもね」
―――――――――――――――――――――――――
夏の天気は変わりやすい。何時の間にか育った入道雲が空を覆い、やがて激しい雨を降らせて来た。さくや達は、慌てて公園内にある東屋に駆け込んだ。
「夕立っ。さっきまで晴れてたのに!」
「さくやちゃん、ブラジャー透けてるよっ!」
「あぁん、もうっ。あれ? 千代ちゃん、まさかノーブラっ!?」
「下着じゃないから恥ずかしくないもんっ///!」
どうも胸ポチが目立つと思っていたが、千代はハイパークールビスだった。
さくや、千代、楓はハンカチを取り出し、濡れた髪を拭いた。
「ブラジャー! ブラジャー!」
「なんで女の人はブラジャー着けてるの!?」
「こらっ、見るんじゃないの!」
こんな時でも楽しそうな双子を、やはりブラが透けてしまっている楓が窘める。それでも、風邪を引いたらいけないので、双子の髪も拭いてあげる。
公園には、あっという間に巨大な水溜まりが出来た。その水面に更なる雨が降り、激しく飛沫が上がる。
「すごい雨……。池の水とか大丈夫なのかな?」
千代が心配そうに言った。
「水いっぱいになるの!?」
「見に行こうよー!」
「だめ! 落ちたりしたら危ないでしょ! 二人共まだ泳げないんだし!」
危険な事が好きな双子が、勝手な行動を取らないように、楓が二人の手を捕まえる。
その時、水晶玉のおサキがさくやに緊急を伝える。
「……さくや。悪霊の気配を感じる! 近い……恐らくはさっきの、池の辺りじゃろう……!」
「うそっ。どうしよう……」
雨風に紛れて悪霊が出現した。さくやは千代と顔を見合わせる。
そして、お互いに頷く。
「楓ちゃん。二人をお願い!」
ここに好奇心旺盛な双子だけを残して行くのは危険だった。最悪のケースは、追い掛けて来て悪霊と遭遇してしまう事だろう。
「でもっ、千代先輩がいた方が……」
「うんん。楓ちゃんが一緒の方がいいと思う。可愛い二人をお願いね!」
何かあっても楓なら任せられる。千代はそう考え、従兄弟を託すと、さくやと共に降りしきる雨の中へ飛び込んだ。
「千代お姉ちゃん達どこ行くのー!?」
「ちょっと、大事な用事! いい子にしててねー!」
双子に手を振る千代の姿が、公園の木々の間に消えて行った。
「ねぇ、どこ行ったのー!?」
「心配しなくいいから……」
不思議がる双子にそう言ったが、楓は心配になる。最近はそうでもないが、あの二人の悪霊退治が危なっかしいからこそ、楓は巫になったのだ。
楓は、どうにかして二人をこの場に留めて置く方法を考えた。
「ねぇ、二人……」
変な意識をしてしまい、顔が赤くなる。
「後でいっぱいご、ご褒美あげるから、ここで大人しくできるかな……? あたし―」
「貴方はここにいなさい!」
言いかけた所で今宵の声に遮られる。
双子が再会を喜ぶ。
「あっ、エッチなお姉さんだ!!」
今宵はずぶ濡れで、白いワンピースが殆ど透明になっていた。
「私達の使命が町の人達を守る事なら、その子達を守る事が何よも大切な筈よ。例え、仲間に何があったとしても……!」
今宵が言った。
新しく現れた二人の守護悪霊は、巫を屈服させるのが目的と言っていた。どんな手を使って来るか分からない。もしかしたら、周りの人間を人質に取ったりするかもしれない。
絶対に二人を遭遇させる訳にはいかなかった。
「じゃあね。ここでいい子にしていたら、お姉さん後でちゅーしてあげるわ♡」
今宵はそう言って、さくやと千代が向かった池の方へと走って行った。
「……」
楓はその背中を見送ると、益々、お姉さん達が何処へ行くのか気になっている二人を、何処にも行かないように、しっかりと抱き寄せた。
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