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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第96話 笛吹きの最期

大陸を占領したシーノに追われたミンの亡命皇帝は海賊の支持を得てタカサゴ島で政権を築いた。

その拠点の街の住民を洗脳する謎の音楽。

シーノのスパイが使う洗脳魔法の手掛かりを求め、工業地区からリベルトを救出して街へ戻るエンリ王子たち。



街は騒然とした状態で、あちこちで集会が行われている。

キノコ雲のシャツに五毛ヘアの男がスローガンを連呼。

「ミン帝を倒せ」

「モータクサン万歳」

「中華は一つ」

演説というより同じ台詞の繰り返しだが、演台に立つ者も聴衆も目つきが尋常ではない。


亡命皇帝庁舎へ戻ると、ケンゴローが焦り顔でエンリに訴えた。

「街がどんどん大変なことになっています。とにかくあの音楽をどうにかしないと」

「街中から聞こえているようですが」とエンリ。


「あちこちに通信呪符が張られて、どこからか送られてくる霊派を音に変えているんです」とケンゴローの仲間の一人が言った。

「それを剥がせば?」とカルロ。

皇帝付きの武官の一人が「剥がそうとするとその場に居る民が抵抗します」

「元を断つしかありませんね」とアーサー。



「それで救出された職人たちなんですが・・・」

そう言って、工業地区の現状を説明するエンリ。


鄭が「そこが奴等の拠点か。すぐに海賊隊で制圧を」と意気込みを込めて言う。

皇帝付きの文官が「門の外は五毛ヘアの奴等が騒いでますよ」

「構わん、排除しながら工業地区へ行くぞ」とミン国軍の亡命将軍が気勢を上げる。

それに対してケンゴローは「奴等に感づかれて拠点を移されたら厄介です」


すると鄭が言った。

「我々は海賊です。港から船で街の外に出て工業地区の近くに上陸すればいい」

「俺たちも行きます」とエンリたち。



鄭とその部下数十名、ケンゴロウ、そしてエンリ達八名と案内役としてリベルトが、海賊船で港を出航する。

工業地区に近い砂浜が見える。


「あのあたりで上陸したらどうだ」と海賊たち。

タルタが「ボートでこの人数をピストン輸送かよ」

すると鄭が「いや、向うに直接船を付ける事が可能な場所があるんだ。入り江の断崖になっている所なんだが」


岸壁の上に広くない平坦面があって、船を岸に付けられるようになっている。

そこに船を付けて海賊たちが下船。



上陸しながらニケが「随分とおあつらえ向きの場所があるのね」

「この島を拠点にしていた海賊が居たんだ。そいつが岩場を削って、こんなふうにしたらしい」と鄭が説明する。


「ジパング海賊か?」とエンリ。

鄭は「西から来た奴だって聞いた。名前は・・・」

タルタが「もしかしてバスコとか?」

「確かそんな名前だったような」と鄭。


アーサーが「洞窟とかは?」

鄭が「あるぞ。そこを拠点にした奴も居たって聞く」

「案内してくれ」とエンリ。



海賊に案内されて洞窟に入るエンリたち。


奥に宝箱がある。

「秘宝の片割れだ」とタルタが歓声を上げた。

鄭は「いや、開けた奴は居るが、中は空だったと聞く」

「紙切れが入ってただけだっていうんだろ?」とジロキチ。


箱を開けると、一枚の紙。そこにはタカサゴ島とミン国の沿岸部が描かれていた。



秘宝の片割れを手に入れたエンリ王子たちは、鄭率いる海賊兵たちとともに工業地区に向かう。


職人たちの居る工業施設を前に、鄭が海賊たちに号令して言った。

「とにかく全員生きたまま拘束しろ」

「マーメイドボイスは使えませんか?」とリラ。

アーサーが「あれは催眠魔法の一種だからな。催眠魔法で動かされている奴には効かない可能性がある」


そして鄭は「それと、中心となってる奴が三人居る。そいつらは手強いので注意しろ。突入開始!」



五毛ヘアで洗脳状態の職人たちが釘バットを振るって激しく抵抗するのを、海賊兵たちが取り抑える。


ケンゴロウは高速の拳を振るいながら彼等の群れを駆け抜ける。

「お前達はもう眠っている」

バタバタと倒れて眠りにつく五毛ヘアの職人たち。


リラが水の縛めの魔法を繰り出す。水のワイヤーで何人もの職人を拘束する。

ニケは痺れ薬を仕込んだ吹き矢を連射。

ジロキチは四本の刀を振るい、嶺打ちで彼等を気絶させた。



抵抗する奴等をあらかた捕縛すると、海賊兵は残った者の捜索に移った。

中心人物らしき者は見つかっていない。


エンリはリベルトに訊ねた。

「奴等の拠点はどこだと思う?」

「職人会館だと思います」とリベルトは答えた。


エンリとアーサー、そしてタルタは、リベルトとともに職人会館の建物に入る。

タルタを先頭に廊下を歩いていると、いきなり天井からから釘バットを持って飛び降りる職人が居た。

鉄化したタルタがそれを受け止め、アーサーがスリープの呪文で眠らせる。


周囲のドアが一斉に開いて、多数の釘バットを振り上げた職人たちが襲って来た。

王子が炎の魔剣で威嚇し、怯んだ所をアーサーがスリープの魔法で眠らせる。



奥の部屋から、あの音楽が聞こえて来る。

全員、耳栓をつける。


中に三人の五毛ヘア。タルタが筆談の紙で「気を付けろ。こいつら職人じゃないぞ」

エンリが筆談の紙で「解ってる。あの楽団馬車の防爆中年軍だ」


一斉に襲いかかる三人。

タルタは殴って気絶させ、エンリ王子は風の魔剣で嶺打ち。

アーサーは風の縛めでもう一人を捕縛した。



部屋の片隅であの音楽を流しているのは、記憶の魔道具による再生音声だ。通信魔道具を接続している。

アーサーが記憶の魔道具を停止させ、全員が耳栓を外す。

そして「ここから街中の通信札に音声を送っていた訳か」


だが、彼等を見てリベルトが言った。

「あの・・・私が見た三人は彼等じゃないです。あの三人は普通に髪を生やしていました」

「そーいや三人ともミン人じゃないか。笛吹き男はどこだ」とエンリは周囲を見回す。


その時、上空で周囲を見張っていたファフから念話でアーサーに連絡。

「変な三人組が海岸の方に逃げて行くよ」

「今すぐ行く。そいつらを足止めしろ」とアーサーはファフに・・・。



エンリたちがケンゴローや鄭とその部下の一隊とともに現場に向かう。

ドラゴンの前に三人が居た。海賊たちが周りを囲む。

「お前らはシーノのスパイか」と鄭は彼等に言った。


その中に一人のユーロ人の男が居た。

エンリは彼に「お前はハーメルン事件の犯人だな? 笛の音で村人たちを催眠魔法にかけて誘拐した。彼等をどこにやった」

「そんな事を聞いてどうする」とそのユーロ人。

「その中に、友達の家族が居るんでな」とエンリ。

彼は「知れた事だ。鉱山奴隷に送られたさ。もう生きてはいまい。もうすぐあの世で会える。ここは破滅の火矢で死に絶えるのだからな」


そしてその男が笛を吹こうとすると、ニケの銃弾が笛を破壊した。

男は「俺の宝具に何てことを」と言って、いきり立つ。

ニケは男を睨んで「宝具くらい何だってのよ。あなたは大勢の家族を奪ったのよ」


彼は言った。

「そうさ。俺は罪人だよ。だから教皇猊下のために、この地の奴等を俺の笛の音で唯一神の信仰へ導く筈だった」

「それで寄進を集めて坊主を太らせるのが贖罪だってか?」とタルタ。

男は「唯一神の教えが生まれた西洋はアダムの民。東洋はエバの民として全ての富を捧げてアダムの民に奉仕すべきだ。地上の蔵に宝を蓄えるなかれ。富は天上の蔵に蓄えよ」

「お前の理屈だと神様ってのはただの追剥だな。お前がハーメルンの人たちにやった事と同じだよ」とタルタ。


「・・・まあいいさ。だが、詰めが甘かったな」

そう言って笛吹き男は、壊れた笛から黒い魔石を取り出した。

そして呪文を唱える。

「汝傀儡の魔石。我と契約せし魔物をここに導け。召喚あれ」

何体もの魔物が出現した。

「こんな奴等、屁でもねーや」とジロキチは叫び、そして戦いが始まった。



三人のうちのミン人の魔導士が、多数のキョンシーたちを召喚。それをエンリ王子の光の剣が薙ぎ払う。

魔導士はエンリに「お前、あの時の魔剣使いか。ここで会ったが百年目」

エンリは「あの病院に居た魔導士かよ。ケンゴローの仲間だったろーが。シーノに寝返ったのかよ」

魔導士は「お前らの足止めに失敗して責任取らされたんだ。お前らのせいだ」

「知るかよ」とエンリ。


魔導士は「とにかくキョンシーは効かないのは知っている。これならどうだ。鬼神召喚」

多数のゴーストを召喚する魔導士。それをエンリ王子の光の剣が薙ぎ払う。

「だからアンデッド系は駄目だってば」とエンリはあきれ顔。


「だがこれは効いたよな」

そう言って魔導士はエンリに向けて発勁の気を放った。生命力を硬質の塊に変えて打ち出すミンの魔導士の十八番だ。

構えるエンリ。その前にケンゴローが立ち塞がり、発勁の気を拳で跳ね返した。


「誰もお前に出て行けなんて言っていない」

そうケンゴローが言うと魔導士は「お前は弟の分際で俺から継承者の地位を奪った。俺はお前の兄だ。兄より優れた弟が居てたまるか」

立て続けに気を放つ魔導士。拳で跳ね返すケンゴロー。


「西斗皇拳はどんなに強力でも所詮は接近戦だ。離れた所から撃てる発勁には敵うまい。刀が鉄砲に勝てないのと同じさ」

そう言ってなお発勁を放つ魔導士を見て、エンリはケンゴローに「なあ、あれって生命力なんだよな? それをあんなに乱発したら」

「ああなるよね」とケンゴロー。


生命力が枯渇してふらふらになる魔導師。

「兄より・・・優れた・・・弟が・・・居て・・・たまるか」

そう言って、力尽きて倒れる魔導師。

「済まんな、見苦しい兄で」と、ケンゴローは残念そうに・・・。

「友達は選べても兄弟は選べないからなぁ」とエンリも残念そうに・・・。



三人のうちの一人、青龍刀を持って立つ男に鄭は言った。

「お前はシーノの軍人か」

男は「族長の一族に連なる者だ。海賊ふぜいとは身分違う。たとえ蛮夷でもな。我々はお前ら中華から見下されて、支配を受けて来た。だから見返してやるんだ」

鄭は「俺だって蛮夷だ」


「お前は中華の生まれだろ」

そう言う男に鄭は「祖先の事なんぞ知らん。東の海に住む自由の民さ。蛮夷上等だ」

男は「だったら何故、皇帝に味方する」

「ここは蛮夷の島だ」と鄭。

「違う。中華の民が住む中華の島。そして中華は一つだ」と男は叫ぶ。


鄭は言った。

「中華って何だよ。世界の御主人様か? そんな上から目線の中華なんぞ要らん」


互いに青龍刀を構え、激しく切り結ぶ二人。

刀を立て続けに上から振り下ろすシーノ軍人。

鄭はそれを受け、かわし、そして斜め下から切りつけた。

「馬上での戦いなら勝てたのだが」と男は呟いて倒れた。



笛吹き男が召喚した魔物たち。オーガがタルタたちを威嚇すると。後ろからドラゴンの前足でオーガを殴りつけた。

「ファフ、デカいのは任せた」とタルタが叫ぶ。


アーサーが攻撃魔法を笛吹き男に浴びせる。魔物たちを楯にする笛吹き男。

タルタ・ジロキチ・カルロが魔物の群れに突入。

タルタが鉄化した体でオークと狼魔獣の攻撃を受け止め、ジロキチがこれを切り倒す。

カルロは瞬足で魔物たちを攪乱し、ゴブリンやハーピーを次々にナイフで仕留める。

アーサーもファイヤーボールを打ち込み、笛吹き男の風の矢をリラが氷の楯で防ぐ。


「筋肉系の魔物が駄目ならこれでどうだ」

そう言って笛吹き男は氷魔と炎魔を召喚すると、それをニケの銃弾が次々に仕留めた。

そして「氷魔には炎の魔弾、炎魔には氷の魔弾。リガルディ教授に作ってもらったのよ」



召喚魔獣を使い果たした笛吹き男は、リラが水の縛めで捕縛し、アーサーが封魔の呪縛で魔法を封じた。

笛吹き男は観念すると「捕虜として扱ってくれるんだろうな?」

「俺たちはな」とエンリは言った。


背後に居たリベルトはニケから短銃を受け取り、笛吹き男の額を撃ち抜いた。

ニケは「どうせなら、なぶり殺しにしてやれば良かったのに」

「贅沢言っても、きりが無いですから」とリベルトは言い、憑き物が落ちたような表情で笑った。

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