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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第95話 洗脳の五毛

東の大国ミンの陶磁器を学ぶリベルトを乗せて、滅亡したミンの皇帝が逃れたタカサゴ島に来たエンリ王子たち。

彼等の活躍でシーノの再教育キャンプから救出された職人たちは、タカサゴ島に設定された工業地区で工場を建ててもらい、製造活動を開始した。

リベルトもまた、ケイトク出身の焼物職人たちの元で、陶磁器の製法を教わり、陶磁器職人としての修行を始めた。


彼等の事業が軌道に乗る様子を見て鄭成功は、エンリたちの前で胸を張った。

「製品は俺たちが海外で売りさばいて金を稼ぐさ。経済力をつければ大陸のシーノなんかに負けない」

エンリは「それじゃ、俺たちの用事も終わったね。そろそろポルタに帰るよ」


皇帝の元に挨拶に行くエンリ王子たち。

「それでエンリ殿、帝位を貰って頂く訳にはいきませんか?」と皇帝はエンリに・・・。

「要らないです。それに、もう交易で経済力をつけてシーノに対抗できる国になる算段はついたのですよね?」とエンリ。

皇帝は「ですが、民の支持が・・・」と言って目を伏せる。

エンリは怪訝顔で「あのシーノの方がいいと? それが嫌で逃げて来た奴等じゃないんですか?」



亡命皇帝庁舎を辞して、酒場で夕食を食べるエンリたち。

その二階が宿屋になっている。

「さっさとポルタに帰ろうよ」とジロキチ。

タルタが「その前に秘宝の片割れを探さなきゃ」


その時、隣のテーブルに居る人たちの話声が聞こえた。

「今の皇帝のままでいいのか?」

「いっそシーノの下に居た方が・・・」


そんな会話を怪訝に思ったエンリは店の人に訊ねる。

「街の人たちって、逃げてきた皇帝に不満があるの? 街は活気があるみたいだけど」

店の人は言った。

「防備に手いっぱいで支配は後回しですからね。けど、シーノが破滅兵器で脅しているんです。巨大な火矢に破滅の魔道具を載せて、街一つを吹き飛ばすんだとか」


互いに顔を見合わせる仲間たち。

「魔導戦艦の破滅の光みたいなもんか?」とタルタ。

「火矢って?」

そう問うリラにアーサーが「火薬を筒に詰めて燃える勢いで飛ばす武器さ。ルパンが造船所で予告状ばら撒く時に使った、アレだよ」


「けど、それで脅されて怖いから屈服しますは無いよな」とタルタ。

「だよね。そんなので脅す奴は猶更のさばらせちゃ駄目だろって話だよ」とジロキチ。

「けど、それはここに住む人たちの問題だものね」とニケ。

エンリが「とりあえず、秘宝の片割れを探して帰国の方向でどうよ」

「明日はそのための物資調達だね」とカルロ。



翌日、物資調達のための買い物で、通りを歩くエンリ王子たち。

街は活気にあふれ、自由な雰囲気に満ちている。


「お金の無駄遣いは駄目だからね」

そうニケが言ってる傍から、タルタが道端の屋台を見て「あれ、旨そう」

ファフが「いい匂いなの」


いつの間にか屋台でタルタが「おじさん、この串焼き肉」

ファフが「こっちのお饅頭」

ニケがハリセンで二人の後頭部を思い切り叩く。

そして「ほんとに油断も隙も無いんだから」



その時、通りの向うから来た大型馬車が止まり、幕が上がる。

タルタが「大道芸かな?」

「楽団馬車って奴だろ」とカルロ。


幕が上がって出て来たのは、三人のオッサン。全員同じシャツを着て帽子をかぶっている。

その中央に居るオッサンが大声で言った。

「みんなー、破滅の火矢で死にたいかー」


聴衆の中の四~五人が「死にたくなーい」

「皇帝と心中したいかー」

さっきと同じ四~五人が「嫌だー」



そんな彼等を見て、エンリは怪訝顔で言った。

「あの、答えてる奴等って」

カルロは「サクラだろうね。あれは演説屋ですよ」



疑問顔のエンリや他の聴衆たちの前で楽団馬車の演説屋は叫ぶ。

「そんなお前らに朗報だ。死なずに済む方法がある。聞きたいかー」

「聞きたーい」と四~五人のサクラたち。


演説屋は言った。

「それは、俺たちで皇帝を倒して、シーノの支配を迎え入れ、奴隷として生かして貰う事だ。進んで奴隷を志願する奴は貴重だ。その需要に応えるなら、重宝されて俺たちは勝ち組だ。これぞバービー加山理論。即ち奴隷の尊厳」



「はぁ?」

聴衆たちがドン引きする中、四~五人のサクラの大声が響く。

「スゲーぞ。防爆中年軍」

「天才救世主」

「皇帝を倒せ。奴は人間じゃない。叩き切ってやる」


だが、サクラ以外の聴衆は口々に叫んだ。

「お前らふざけんな」

「自分たちだけ大陸に戻って奴隷やってろ」



その時、両脇に居る二人が演奏を始めた。右側が笛、左側が太鼓。

笛を吹く指と笛の音が微妙にズレている。

それは演奏と言うには単調な、メロディーというより、リズムの繰り返しだ。


そして中央の男は歌い始めた

「頭のテッペン毛が五本、裸一貫スッポンポン、嘘で上等針千本、金無いモテないお前らの代表、俺らが詩威流頭ヒャッハー」


三人一斉に後ろを向く。

シャツの背中にキノコのような形の雲の絵が織り込まれている。

「あのシャツの背中の絵って・・・」


そう言ったエンリに、隣に居る聴衆の一人が「破滅の火矢が街を滅ぼした時、あんな形の雲が立ち上るんだとさ」

「防爆中年軍とか言ってたよな?」とジロキチが・・・。

別の聴衆が「この楽団馬車でゲリラライブやってる、こいつらのバンド名だよ。詩威流頭ってのは奴等の別名で、五毛党とも言うんだとさ」

「ってかこいつ等、何言ってるんだ」とエンリ。

「意味なんて無いと思うよ」と彼等は口を揃える。


三人は一斉に帽子をとる。ほぼ全剃りした頭の上に、毛髪を五本だけ残している。

「意味不明過ぎなんだが」とあきれ顔でエンリは言った。



だが、次第に周囲の雰囲気が変化する。

野次を飛ばしていた人達がいつの間にか静かになり、目が精気を失い、ぶつぶつと何かを呟き始める。

呟きは次第に大きくなり、聴衆は口々に唱え始める。

「俺たち五毛党」

「皇帝を倒せ」

「シーノ万歳」


そんな異常に気付いたリラはエンリの上着の裾を握って言った。

「王子様、みんなが変です・・・って、王子様?」

エンリも他の仲間たちも、ぶつぶつ呟いている。

「俺たち五毛党」

「皇帝を倒せ」

「シーノ万歳」



リラは焦った。

「どうしよう。みんなが変だ。これって・・・」


リラは思考を巡らす。

(自分だけ何故平気なんだろう)

アラビアの海でマーリンのセイレーンボイスを聞いた時の事を思い出す。

みんなが眠り込む中、自分だけが眠らなかった。もしかして、あれと同じなのか。

セイレーンボイスは音による催眠魔法だ。同じ系統の魔法を使える自分には抵抗力があるのか。だったら・・・。


リラは仲間たちに耳栓をつけた。

目が覚めたような顔でエンリたちが「あれ? 俺たち何やってたんだ?」

「とにかくここを離れましよう」とリラはエンリの手を引く。



音楽の聞こえない場所まで来て耳栓を外す。

「なあ、あれって・・・」

そう言うエンリにアーサーが「間違いありません。音による催眠魔法です」

「それじゃ、あいつ等、シーノのスパイ?」とニケ。

「どうする?」とタルタ。

エンリが「とにかく鄭たちに知らせなきゃ」


亡命皇帝庁へと急ぐエンリたちは、街の変貌に唖然としていた。

あちこちに防爆中年軍のポスター。亡命皇帝を批判する壁新聞。塀や建物の壁にスローガンやキノコ型の雲の落書き。

キノコ型の雲を書いたシャツを着た奴や、頭頂部に毛髪を五本残して全剃りした奴があちこちに居る。

一様に異様な目つきの住人たち。


そして、あちこちからあの歌が聞こえる。

全員耳栓をして、筆談で会話。

「どうなってるんだ。街中が乗っ取られかけているぞ」とエンリは筆談の紙に・・・。



亡命皇帝庁舎に駆け込むと、切羽詰まった表情の鄭が居た。

「エンリさん、大変な事になりました。不穏分子が街に溢れています」


「あれは音を介した催眠魔法ですよ」とアーサー。

鄭は唖然とした表情で「そんなものが・・・」

ケンゴローが焦り顔で「今にも暴動が起きそうです。皇帝の身が危ない」

「いざという時は武力で鎮圧する」と、いきり立つ海賊たち。


だが皇帝は「なりません。彼等は操られているだけです」

「ですが、こんな術、我々は知らない」とケンゴローの老師は頭を抱える。

エンリは彼らに言った。

「これはユーロの魔法ですよ。心当たりがある。工業地区にリベルトが居る。奴に会って確認したい」



ファフのドラゴンに乗って工業地区へ行くと、救出されて来た職人たちが全員、五毛ヘアにキノコ型の雲のシャツスタイル。

彼等はエンリ達を見つけて口々に言った。

「反動分子だ」

「皇帝のスパイだ」

「人民裁判にかけろ。粛清だ」


手に手に工具を振りかざして襲ってくる五毛ヘアの職人たち。

エンリたち唖然。

「いや、スパイはお前らだろ」とタルタは不平を言う。

「蹴散らすか?」とジロキチ。

エンリは「いや、とにかく撤退だ」



職人たちの大群に追い回され、ようやく彼等をまく。


「あーびっくりした」と言ってタルタは汗を拭く。

アーサーは「再教育キャンプとやらで洗脳魔法をかけられたようですね」

「そんな様子には見えなかったけど」とエンリ。

「深層意識の中に隠された洗脳人格が、何かのキーワードで表面化する・・・という仕組みでしょうね」とアーサーが解説した。


「それで、リベルトさんは?」とリラ。

エンリが「カルロ、探してきてくれるか」

「了解です。ダウジング棒を使えばすぐ見つかりますよ」とカルロ。


「じゃ、早速潜入用の変装を」と言って道具を出すエンリ。

それを見てカルロは青くなって「あの、その手に持ってるのは?」

「バリカンですが何か」とエンリ。

「俺をどーする気ですか?」とカルロ。

エンリは「あいつらと同じ頭にしないとバレるだろ」


カルロは後ずさりしながら「絶対嫌だ!」

エンリは溜息をつくと「仕方ない。アーサー、隠身魔法を頼む」



カルロとアーサーは隠身魔法で身を隠して工業地区に潜入。

まもなく、陶磁器工場の広間の大きな振り子時計の中に隠れているリベルトを発見し保護。エンリの所に連れて来た。


二人に連れられて工業地区を脱出したリベルトは、エンリたちに言った。

「助かりました、皆さん」

エンリは「どうしてこんな事に?」とリベルトに問う。


リベルトは言った。

「三日ほど前、集会とか言って、三人の男が来たんです。うち一人はシーノの軍人、一人はミン人の魔導士。もう一人はユーロの人間でした。彼を見たら急に怖くなって、その場を逃げ出して、気が付いたら振り子時計の中に」

「振り子時計の中は狼が来た時の隠れ場所の定番だからね」とニケが笑う。


「けど、怖くなったって?・・・」とリラは心配そうに・・・。

「子供の時の事を思い出して、震えが止まらなくなったんです」とリベルト。

アーサーは言った。

「なるほど。恐らく奴はハーメルンの笛吹き男ですね」

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