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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第94話 サティアンの解放

大商人フッガーの依頼で焼物職人リベルトをミン国に運んだエンリ王子たちは、ミン国がシーノに占領され、ミン国の焼物職人たちが再教育キャンプに収容された事を知った。

ミン国の皇帝が逃げ込んだタカサゴ島に行き、鄭成功やケンゴローたちと再会したエンリたちは、再教育キャンプから逃げてきた仕立職人が居ると聞いて、話を聞く事になった。



「名前は李巧明と言います」と職人は名乗った。

「彼等は仕立職人に何をしろと言っているのですか?」とエンリは彼に訊ねた。

巧明はそれに答えて言った。

「全ての服装を人民服というものに統一して、それ以外を作るなと。その人民服に皇帝の肖像とスローガンの柄を織り込めと」

「何だそりゃ」とエンリたち。

残念な空気が漂う。


「再教育ってどんな事をするのですか?」とエンリ。

巧明は「座禅を組んで"学習するぞ"を延々と連呼したり、水中クソバカと言って、お湯の中で呼吸を止めながら皇帝の姿を念じる」

「何だそりゃ」とエンリたち。

残念な空気が漂う。


「上達すると座禅を組んだ状態で空中浮遊が出来るようになるというのですが」と巧明は言った。

アーサーは「まあ、そういう魔法も可能だとは思うけど」

「その前段階とか言って座禅状態でぴょんぴょん跳ねたり」と巧明は言った。

「けどそれ、思想教育と関係あるの?」とジロキチは首を傾げる。


巧明は更に言った。

「私が居たシャンハイは織物や仕立の工場地帯なんですが、それ以外の職種も含めて、ミン全体から全ての種類の職人を集めて収容しています」

「もしかしてケイトクの陶磁器職人も?」とリベルトは訊ねた。

「大勢来てました。どうにか逃げ出したいと、助けを求めるために、みんなで私を逃がしてくれたんです」と巧明は言った。



救出しようという事になり、亡命皇帝軍の海賊の首領たちが計画を立てる。それにエンリ王子たちも協力する。

助けに向かうのはエンリたちと二人の海賊。案内役の巧明を連れて、夜闇に紛れて海賊の小型船に乗って大陸に渡る。


船の上でエンリは海賊に「再教育キャンプって大勢居るんだよね? こんな小さな船に乗れるのか?」

「大陸の船を奪って逃がすさ」と海賊は答えた。



砂浜に上陸し、奥地へ向かう。しばらく歩くと、その施設はあった。

巧明は遠くからその施設を指して「あれがシーノ愛国教育施設、通称サティアンです」

「どうする?」

そう言ってエンリは仲間たちと作戦会議。


ニケが「ここはファフがドラゴンになって強行突破」

「職人助けるまでは騒ぎを大きくしたくない」とエンリ。

リラが「マーメイドボイスで眠らせるというのは」

「職人まで眠ってしまうぞ」とアーサー。


カルロが「とりあえず少数で中に潜入だな」

「塀は高いし、門番が居るよ」とファフ

「凧を使ったらどうかな?」とジロキチ。



紙と竹棒と綱を調達して、大凧を組み上げる。

「こんなだったよな」と、それらしい形になった物を見てタルタが言った。

カルロは「これで飛ぶのかよ」

「要は強い風が吹けばいいんだよね?」とニケ。



夜を待って作戦実行。

そしてエンリが「で、誰が乗るんだよ」

作戦実行の段になって、誰が凧に乗るかで紛糾する。


全員尻込みする中で、タルタが「面白そう。俺が乗る」と言い出す。

するとジロキチが「いや、俺が」

「空中戦は俺の領分だ」とタルタ。

「凧の本場は俺の故郷だ」とジロキチ。


エンリはうんざりした顔で「二人で行けよ。忍び凧は二人が限度だって、ジパングの忍者も言ってたし」



タルタとジロキチが凧に掴まり、全員で綱を引いて、アーサーが風魔法で凧を飛ばす。

そして二人を載せた凧は空を舞う。だが・・・・。


必死に凧に掴まりながら、ジロキチが「これ、どうやって操るんだ?」

「さっきから空中でくるくる回ってるんだが」とタルタ。

「目が回る、気持ち悪い」とジロキチ。

「お前はそれでも曲芸師か」とタルタ。

「俺は剣士だ」とジロキチ。


凧はコントロールを失って門に激突。大騒ぎになって衛兵が駆け付ける。

彼等を相手に大暴れするタルタとジロキチ。

その様子を見てカルロが「どーすんだよ。派手な騒ぎになったぞ」


エンリは溜息をつくと「仕方ない。俺たちで衛兵を引き付ける。その隙にカルロは巧明さんを連れて潜入して職人たちを連れ出せ」

カルロは「了解」と一言。

「じゃ、ファフがドラゴンで」とファフ。

エンリは「いや、ドラゴンはここを脱出する時必要だ。それまでファフはここで待機だ」

ファフは「了解」と一言。



カルロは巧明を連れて裏へ回る。

エンリ・アーサー・ニケ・リラはタルタとジロキチに加勢。二人の海賊も加わる。

アーサーのファイヤーボールで門を破壊して敷地に侵入する。

衛兵の鉄砲射撃をリラが氷の楯で防ぎ、ジロキチとタルタが衛兵たちの中で大立ち回り。ニケが短銃で次々に仕留める。


やがてリラが念話で得た情報を伝えた。

「王子様。右の建物脇からカルロさんが職人さん達を連れて来ます」

エンリは「じゃ、そっちの敵を大掃除だな」

右手側に居る敵衛兵たちをエンリの炎の巨人剣が薙ぎ払い、アーサーの竜巻魔法が衛兵たちを巻き上げる。


「今だ」

そう言って、カルロが多数の職人たちを連れて、エンリたちと合流。

左手側に居た衛兵たちが彼等を逃がすまいと鉄砲を構えた。


「ファフ、出番だ」

そのエンリの号令で、上空からドラゴンが舞い降り、左手側に居た衛兵たちを蹴散らした。

大勢の職人たちとともに破壊された門から脱出するエンリたち。

追跡しようとする衛兵に、ファフは炎を吐いた。



施設が見えない所まで逃げて一息つくと、引き連れている職人たちを見て、エンリは言った。

「こいつら、どうする?」

巧明が「近くに大きな河があって、川港も」

「そこで川船を奪おう」と海賊が言った。


だが川港に着くと、数隻の船が焼かれていた。

エンリたち唖然。そして「あいつら、先手を打ちやがった」


「この人数をどうやって移動させるよ」と言ってエンリは頭を抱える。

カルロが「海の港まで歩かせるしか無いか」

「すぐ追手が着ますよ」とアーサー。

タルタが「ファフに乗せて行くってのはどうだ?」

「この人数は無理ですね」とアーサー。


その時、巧明が言った。

「あの、昔に小説で読んだのですが、天空の神々の世界で銀河帝国という暴政の星から自由を求めて逃れた人々が居たというのです。彼等は巨大な氷の船で帝国から逃げ延びたと」

リラが「氷なら氷魔法で作れるかと」

「サッポロという北国の街の祭りで氷の彫像を造る呪文があります。あれの応用で可能かと」とアーサー。



アーサーとリラが氷の魔法で大きな船を造って全員が乗り込み、ファフのドラゴンがロープで氷の船を引く。

「これならすぐに海に着くぞ」と楽観的なタルタ。

だが、リラは「氷、どんどん溶けているんですが」


アーサーとリラが必死に魔力を送って氷を維持する。

「頑張れ。もうすぐ河口だ」とエンリが二人を励ます。



行く手の河口からシーノの軍船が河を遡り向かって来た。

「あんなのファフで沈めてやれ」とエンリ。

だが、敵の軍船から無数の魔法の火球が打ち出され、弧を描いて飛んでくる。

「ファイヤーボールの変形版だ」とアーサー。

エンリは「あんなのが当たったらひとたまりもない。すぐ川岸に寄せろ」


氷の船を岸に寄せると、そこにはシーノ兵の一隊が待ち構えていた。

ドラゴンが炎を吐いて敵を威嚇し、職人たちを川岸に上げた。

敵軍を前に、背後の職人たちを庇うファフのドラゴン。

だが、守る対象が多すぎる。

「この人数を守り切れないぞ」とエンリは表情を曇らせた。



その時、下流の敵船のさらに下流から海賊の船団が来援。

砲撃でシーノの軍船を沈めると、海賊軍団が岸に上がってシーノ軍に襲いかかった。

彼等を指揮しているのは鄭成功だ。そしてケンゴローも居る。


合流したエンリは「鄭さん、助かったよ」

「我々の同胞を助けるためだ」と鄭成功は言った。

海賊たちと一緒にエンリ王子たちもシーノ兵を相手に攻勢に出る。


敵陣に突入するケンゴローは、敵陣を駈けながら周囲の敵に向けて高速で拳を繰り出す。

「ウァタタタタタタタタタタタタタタタ!」

それはあたかも無数の腕のようだ。

彼は一旦足を止めると、表情を強ばらせて振り向く敵兵たちに言った。

「お前達はもう死んでいる」

次々に爆発する敵兵たち。



シーノ軍は後退し、救出した職人たちの表情に安堵の色が浮かぶ。ファフも人間の姿に戻る。

エンリは海賊船を見て「あの船に全員乗れるかな?」

「ジパング海賊の船は小型だからな」と鄭成功も職人たちの群れを見て言った。


だがその時、河口から巨大な亀のモンスターが現れ、海賊船を次々に沈める。

「ファフ」とエンリの号令。

「了解」

そう言ってファフは変身し、巨大亀とドラゴンの格闘が始まる。


シーノ軍の背後から騎兵隊が現れた。いくつもの色の違う旗を掲げた部隊編成。

彼等を見て鄭成功は「あれは八旗だ。手強いぞ」と表情を曇らせる。

「どうせ中味は同じ人間だろ」とタルタ。


突入する各騎兵部隊に切りかかる海賊たちは、刀を振るって馬上の敵を次々に切り倒す。

宙を舞って四本の刀を振るうジロキチ。

鉄化と解除を繰り返して敵の攻撃を防ぎつつ、馬ごと敵を殴り飛ばすタルタ。

攻撃魔法を繰り出すアーサーとリラ。

敵の矢をかわしつつナイフを振るうカルロ。

巨大な鉾を振るう鄭。



だが、海賊側は次第に押された。

いくつもの海賊部隊が複数のシーノ騎馬隊の連携により包囲され、削られていく。

その様子を見てエンリは焦りの色を浮かべて「何だよあの連携は」

「あれが八旗ですよ。元々狩猟民族だったシーノが、狩で獲物を包囲する中で編み出した戦術です。色の違う旗を目印に戦場の様子を掌握して司令を下すんです」と鄭は言った。


するとニケが「なら、あの旗を何とかすればいいのよね?」

ニケは短銃を各敵部隊の旗に向け、旗の根本を次々に撃ち抜いた。

目印を失ったシーノ軍の連携が乱れる。

その隙に海賊軍はシーノ兵を押し返す。


エンリは職人たちに向けて叫んだ。

「今だ! 海岸に向って走れ。海はすぐそこだ」



職人たちが海岸にたどり着いた時、シーノ軍にも新たな援軍が到着した。支配下に入ったミン人による歩兵の大部隊だ。


ミン人部隊の指揮官はエンリたちに向けて叫んだ。

「諦めろ。お前達に海を渡る手段は無い」

その指揮官に向けて鄭成功は叫ぶ。

「呉三桂。ミンの将軍だったお前が何故シーノの味方をする」


「お前こそ一介の海賊なのに何故皇帝を守ろうとするのだ」と呉三桂。

「個人の生活に介入する奴等のやり方が気に入らないだけだ」と鄭成功。

呉三桂は「大陸は既にシーノのものだ。ここには民を食わせる広大な田畑がある。タカサゴには何があるというのだ」

鄭成功は「世界に繋がる海がある。そこを通じて売り込む製品を作る、この職人たちが居る」

「だが、今のお前達に海を渡る手段は無いぞ」と呉三桂は言った。



「それはどうかな」

そう言うと、エンリは水の魔剣を抜いた。そして波打ち際に立って魔剣を水面に突き立て、呪句を唱えた。


「汝、水の精霊。海神の子たる大海の潮。汝の前に居並ぶは、迫害されし人の子たち。我が手にありしは彼等を守る王の剣。共に守りし"ひとつながりの剣"となり、明日を生き抜く道を開けよ。開門あれ!」


剣を突き立てた所から沖に見えるタカサゴ島まで一筋の白波が沸き上がる。

それはたちまち広がって水面を左右に押し分け、海底に真っ直ぐな道とその両脇に水の壁。


「ここを通って向こうまで行けるぞ。走れ!」

そう叫ぶエンリに促され、職人たちは海底に開いた道を、沖に向かって走った。

呆気にとられるシーノ兵たち。



「で、結局、その海底の道をどこまで行けたんだ?」

沖合の海賊船の上で、ずぶ濡れのエンリたち迎えに来た海賊たちは笑いながら言った。


鄭は「少し行った所で両側の水の壁は崩れて、全員あやうく海の藻屑さ」

「いいだろ、みんな助かったんだから」とエンリ。

「助けの船が来なかったら、どうなっていたか」とケンゴロー。


エンリは言った。

「大陸からタカサゴ島まで、どれだけあると思ってるんだ、それを人の足で歩いたら何日かかるか。その間ずっとあれを維持とか、俺の身がもたん」

「だったらやらなきゃいいのに」とあきれ顔のニケ。

エンリは「他にあの状態で全員逃がす手があったのかよ」


アーサーは「まあ、聖書に出て来る大スペクタクルですから。一度、やってみたかったんだよね?」

「これも一つの中二病だな」とタルタが笑う。

「ほっとけ」と膨れっ面でエンリは言った。

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