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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第73話 征服者の苦悩

魔剣の謎を調べるためにイギリスのペンドラゴン村に行ったエンリ王子は、リラ・ファフの二人とともに、若き日の初代ポルタ王アルフォンスの居る過去に転移した。そこでは征服王ウィリアムによる殺戮が繰り返されていた。


反乱者の掃討を称する軍事行動を指揮する征服王ウィリアム。

彼の軍に襲われ占領された村では、広場に集められた村人たちが兵士たちに武器を突き付けられでいた。



泣き叫ぶ女と子供。必死に祈る老人たち。王が指揮の手を挙げた。

その時、上空からドラゴンが舞い降りた。その背中に隠れるように、エンリ・アルフォンス・リラの三人が伏せている。

ドラゴンは、思いっきりの棒読みで、ウィリアム王に語りかけた。

「お待ちなさい。その人達は何もしていません」


ウィリアム王は叫ぶ。

「ドラゴン。悪魔の僕か」

エンリが返事を考え、それを人魚姫リラが念話の魔道具でファフに伝える。


ファフのドラゴンは言った。

「私は悪魔など知りません。ドラゴンは他にもたくさん居ます。私はこのブリテン島の北、ネス湖の底で穏やかに生きてきました。けれども多くの難民が来て、王の無法を訴え、助けを求めました。私は悪魔など知りません。ですが、もし悪魔という者が居たのなら、今、あなたがやろうとしている事こそ、悪魔の意に沿うものではないのですか? 私は神も知りません。ですが、あなたがこれからも民への非道を続けるなら、神も悪魔も無関係に、私は民を助けて、その非道を止めるため、王とその軍隊を滅ぼします。警告します。今すぐ引き返しなさい。あなたがそうする限り、私もあなたに何もしません」



ウィリアム王唖然。そして呟いた。

「民を守ろうとするドラゴンが居るとは」


横から家来が王に意見して言った。

「王よ、騙されてはいけません。悪魔は狡猾です」

「だが、悪魔が人の命を守ろうとするか?」とウィリアム王。

家来は「彼等は悪魔崇拝者なのでしょう」


そして家来はドラゴンに言った。

「ドラゴンよ。お前はこいつらを守ると言ったな。なら、これならどうだ」

兵士たちは村人たちに向けて弓を引いた。


その様子を見て、ドラゴンの背中に居るアルフォンスは「村人を人質にしやがった。あんなのが王様かよ!」

エンリは「まあ待て。リラ、セイレーンボイス、やれるか」

「はい。皆さん、耳を塞いで下さい」

そう言うと、リラは人魚の歌を歌った。兵士たちはバタバタと倒れて眠りについた。村人も、そして王とその部下たちも・・・。



「起きろ、国王」

エンリのその声で、ウィリアム王が目を覚ます。

自分を縛って武器を突き付けるエンリたちを睨んで「お前たち、何者だ」と言うウィリアム王。


激高したアルフォンスが王に言った。

「何者だじゃねーよ! 何もしてない村人を殺すとか、王様のやる事かよ」

「まあ待て、アルフォンス」とエンリは彼を制した。


そしてエンリは王に「あんた、ウィリアム王だな?」

「そうだ」とウィリアム王。

エンリは「何のためにこんな事をする」

「反乱の鎮圧だ」とウィリアム王。


エンリは言った。

「違うだろ。フランスから連れて来た家来たちが要求してるんじゃないのか? 土地の貴族から領地を奪うために」

「だが私は征服者だ。征服者は力をもっての支配が全てだ。私が何もせずとも、領主たちは勝手に争うだろう。秩序を守るためには、逆らう者は滅ぼさなくてはならない」とウィリアム王は、哀しみを含んだ眼でエンリを睨んだ。



エンリは王を見る。イギリスの歴史は既に学んでいる。

目の前の苦悩に満ちた王の姿とは全く違う、自信に満ちたウィリアム征服王の物語を、彼は知っている。

どちらが本物なのか。そんなものは問題ではない。あれは後世の歴史家が後付けで描いた虚像なのだ。

だが、その虚像が成した事績は確かに事実であった筈だ。


エンリは目の前の王に語った。

「秩序を保つなら、武力ではなく法を以って臨むといい。裁きの基準を明確な言葉で定めた法を造り、領地を争う領主には戦争ではなく裁判で決着をつける社会を造る。公平な裁きは戦争より遥かに確実に人を納得させる」

「それで征服された者が治まるのか?」とウィリアム王。


エンリは言った。

「予言しよう。あなたのイングランドは続く。理不尽な王が出て、家来が反抗する事もあるだろう。けれども領主が、そして人々が話し合う議会を造り、発言の場として彼等の言い分に耳を傾ければ、真っ当な人はついて来る。そして様々な不思議を解明する学問が生まれ、それによってこの国は世界のどこより進んだ国になる」


そんなエンリにウィリアム王は「お前は何者だ?」

エンリは「未来から来た正義の味方だ」

「つまり中二病だな」とウィリアム王。

「言ってろ」とエンリは言って口を尖らせた。


けれどもウィリアム王は言った。

「だが、家来たちは納得しないだろうな」

「お前が奴等を従えるだけの強い王であればいいのさ」とエンリ。

「お前は何も解っていない。俺の力って武力だ。そして武力ってのはこいつらの事だ」

そう言って、ウィリアム王は眠っている家来たちを見る。


エンリは「俺に策がある」

彼は、味方の歌でうっかり眠ってしまったファフのドラゴンを見た。



やがて、兵や家来たちが目を覚ます。村人たちも目を覚ます。

そして彼等は、倒れたドラゴンの上に立つウィリアム王を見た。

ウイリアム王は高らかに宣言した。

「兵士たちよ。この悪魔の使いは、このウィリアムが倒した」


兵士たちは喝采する。

「王様すげー」

「イングランド王万歳」

村人たちは涙する。

「私たちを守ってくれたドラゴンなのに」


喜ぶ家来たちは王に言った。

「では陛下、早速、討伐の続きを」

「いや、村人たちの容疑は晴れた。我々は討伐を中止する」とウィリアム王。

喜ぶ村人たち。


家来たちは驚き、言った。

「何故ですか?」

王は言った。

「天使が現れたのだ。私はその天使の助力を得てドラゴンを倒した。そして天使は言った。私は前世で魔王の軍と戦う勇者で、この世界を滅亡から救うために転生したのだと。そして前世でパーティを組んだ仲間たちも転生していた。私がこれまでの冒険で出会った仲間たちは・・・」


家来や兵たちは唖然。そして彼等は一様に思った。

(うちの王様って中二病だったんだ)

ウィリアム王の妄想譚は延々と続いた。



王の踏み台になったままのファフは、その下に隠れているエンリにそっと言った。

「主様、これ、いつまで続くの?」

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