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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第30話 王子の帰郷

エンリ王子一行がポルタに帰還した。

港に停泊して街に入ると、何やら住民たちの表情が暗い。



一人の住民が王子に気付いた。

「あれ、エンリ様じゃないか?」

「エンリ王子が帰還なされた」と別の住民。

住民たちの熱い視線が王子に集中する。

「何だか大人気だな」と、まんざらでもない気分のエンリ。

そんなエンリに人魚姫リラは「新航路開拓の功績が広まったんだと思います」


住民たちがエンリの前に集まる。

「王太子様」と住人たち。

エンリは彼等に「まあ、サインが欲しいなら、順番にな。アーサー、ペンを」


すると、一人の男性が涙ながらに訴えた。

「いや、サインとか要らないんで、どーにかして下さい」

「はぁ?」と怪訝顔のエンリ。


「最近、王様の締め付けが、やたら厳しくて」と住人の一人が。

「何だか変な税も増えて生活も苦しく」と別の住人。

更に別の住人も「スパニア人がうろうろして、威張り散らして手が付けられない」

住人たちは声を揃えて「王子様」

エンリはタジタジになって「わ・・・解った、とにかく町政についてはどーにかするから」



住人たちが散っていく。

「あー、びっくりした」とエンリ王子。

「何なんですかね?」とアーサー。


ジロキチが「スパニア人とか言ってたって事は、多分、イザベラ妃が連れて来たんじゃ・・・」

「あの人が好き勝手やってるって訳か」とタルタ。

「何が起こってるのか、状況把握が先だな」とエンリ。


そしてアーサーが「それと王子」

「何だ?」とエンリ。

「ペンですけど」と言ってアーサーはペンを出す。

エンリは頭痛顔でアーサーに「それはもういいから」



城に入ると貴族議会の議長が居た。

彼はエンリたちに気付いて「王子、帰還なされましたか」

「それよりイザベラはどうした」とエンリ。

「部屋におられますが、王子は実に良い妃を娶られた」と議長。


エンリはあきれ顔で「お前も懐柔されてる口かよ」

「いや、あの方の手腕は素晴らしい、外国の足引っ張り戦略で大活躍ですよ」と議長。

「まあ、そっち方面はそうだろうな」とエンリ。


議長は語り出す。

「イタリアではポコペン公爵への援助でフランスを牽制し、イギリスで先王リチャードの残党を援助してヘンリー王を牽制。ドイツの反教皇派を援助して皇帝や教皇はそっちへの対応策に手いっぱい」

「そういう権謀術策の矛先がこっちに向かなきゃいいんだが」とエンリ。



イザベラの部屋へ。

「今、帰ったぞ」とエンリはイザベラに・・・。

「よくぞご無事に」と嬉しそうなイザベラ。


エンリは難しそうな顔で「さっき、街の様子を見てきたんだが・・・」

すかさずイザベラは「でしたら人形芝居をご覧になられましたか?」

「人形芝居だと?」とエンリ。

「スパニアから腕のいい芸人を呼んだんです。私も興味があって、人形の操り方を憶えたんです。御覧になります?」とイザベラ。

「そうだな」とエンリは、目の前のイザベラを見て思った。

(こうして見ると、可愛い女なんだが・・・)


いくつもの人形を操ってみせるイザベラ。

それを見ながらエンリは「器用なものだな。ところで、この人形、ドイツ皇帝に似てないか?」と一体の人形を指す。

イザベラは嬉しそうに「解ります? 似せて作らせたんです。これがイギリスのヘンリー王で、これがフランスのルイ王、これがポコペン公爵」

「おい、これは?」

自分にそっくりの人形を見つけて、思わずエンリは、そう疑問を口にするが・・・。

「どうされました?」とイザベラ。

エンリは「いや、いい。考えたくない」



そしてエンリは本題に入ろうと「ところでさっき、街の様子を見てきたんだが・・・」

そう言いかけたエンリにイザベラは「実は、フランスの侵略に苦しむポコペン公爵を援助した縁で、公爵の所の画家に肖像画書かせたんですけど、気に入らなくて」


絵を出してエンリに見せるイザベラ。

「見て下さいよ、私と全然似てないじゃない。これじゃただの太ったオバサンよ」

よく見ると、目の前のイザベラは頬に手を当てて痛そうにしている。

「もしかして虫歯か?」とエンリ。

「そうなの。画家が笑顔が欲しいって言って、道化師まで連れてきて」とイザベラ。

「面白く無かったのか?」とエンリ。

「何で解るんですか?」とイザベラ。

エンリはその絵を見て「これ、笑ってるんじゃなくてあきれてる顔だろ」


エンリは自分か何か言いたくてこの部屋に来たような気がしたが、忘れて思い出せなかった。

そして「ところで父上はどうしている」と尋ねるエンリ。

イザベラは言った。

「お父様は隠居されました。今、郊外の別荘にいらっしゃいます。国務の重責に圧し潰されのか、健康を害されまして、それでお父様は私に政治を任せると言って」



仲間と一緒に郊外の別荘に様子を見に行くエンリ王子。

行くと、異様に元気なジョアン王が居た。

エンリを見て王は楽しそうに「いや、実に快適。スローライフというんだそうだ。お前の嫁が是非にと勧めてくれてな」


「健康を害したと聞きましたが」とエンリは怪訝顔。

ジョアン王は言った。

「政治に頭を悩ませていたせいか、胃痛が酷くてな。お前の嫁が連れて来た医者の診断受けたら、兆候があるっていうので薬を飲んだんだが、そのうち自覚症状が出て酷くなる一方で、健康のためにと、ここでの静養を勧められて、薬もそれ用に変えたんだ。それですっかり回復」


そんな話を聞いてエンリは思った。

(まさかイザベラに一服盛られたんじゃないよね?)


そしてエンリは「回復されたのなら、政務に戻りますか?」

「戻る気はない。あの人は実に有能だ」と王はきっぱりと言う。

エンリは思った。

(完全に懐柔されてるな、これは)



棚の上に、飲み薬の小さな包みの入った箱が二つあるのが目に入る。

それを指してエンリは王に「ところで、これは?」

「イザベラが勧めてくれた常備薬でな。こっちは城に居た時のもの。こっちは症状が緩和したからと変えた、今飲んでるものだ」とジョアン王。

「緩和したんですか?」とエンリ。

「そうは思えなかったんだが・・・」と王も頭を捻る。


エンリは、隣に居るアーサーの耳元にひそひそ。

「なあ、もしかして、これが胃痛の原因じゃないのか」

「調べてみますか?」とアーサー。

エンリは少し考えると「怖いから止めとく」


そんなエンリにアーサーは「あの、王子。これって国政乗っ取られてスパニアに併合される流れなんじゃないんですか?」

「冒険中止してここであの人監視したほうがいいのかなぁ」とエンリ。

「とにかく、城での政治がどうなっているか・・・ですね」とアーサー。



仲間と一緒に城に戻る。役人を捕まえて状況を聞く。

「政務はどうなってる」とエンリ。

「万事順調ですよ」と役人。

「大臣たちはちゃんとやっているのか?」とエンリ。

「スパニアから補佐する人が来てくれまして」と役人。



大臣の執務室に行く。

宰相と政務局長官と航海局長官がテーブルを囲んで仕事をしている。

大量の書類にせっせと判を押す三人。鞭を持った怖そうな女性監視人が睨みを聞かせている。


休憩時間。

エンリは宰相に「お前等、何やってるんだ?」

宰相は「実務はみんなスパニアから来た役人がやってくれるんです。それを捺印して決済せよと」と答える。


「そいつらの役職は?」とエンリ。

「私の所は、宰相業務最高責任者」と宰相。

「私の所は、政務局長官業務最高責任者」と政務局長官。

「私の所は、航海局長官業務最高責任者」と航海局長官。


エンリは不審顔で「何だそりゃ」

「最近の大商人の所には、当主と別に、CEOとか経営最高責任者とかいう役職があるんで、それを真似たものかと」と宰相。

「つまり、決定権握る役職を新設されて、形だけの地位になったと?」とエンリはあきれ顔で・・・。

「けど、国運を左右する重責から解放されて、とっても楽です」と宰相。

「ハンコさえ押してれば」と政務局長官。

「書類処理のスピード競争」と航海局長官。

「御奉仕する喜び」と宰相。

「昨日は鞭の御褒美を貰えなかったなぁ」政務局長官。


「時間よ」

鞭を持った女性監視人が休憩時間の終わりを宣告。

宰相たち三人は声を揃えて「はい、喜んで」

判子突き仕事に戻る宰相たち。

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