第29話 国王の軍隊
ギリシャからポルタへ帰還する途中、フランスからの侵略に抗うポコペン公爵の元に滞在した。
ニケに科学を教えた亡命賢者レオナルドと話す中、フランス軍の来襲を告げる知らせが届いた。
エンリ王子たちが戦場に行くと、公爵家の者とそれに味方する住人たちが必死に応戦しているが、人数も武器も足りない。
フランス側の大軍を前に「さすが正規軍だな」とジロキチ。
アーサーは敵の様子を見て「数が多いだけじゃない。あの歩兵は統制がとれている。あれは農民兵だ」
「素人じゃないか。プロの騎士ならイチコロだろ」とタルタ。
だがアーサーは「いや、今日びの騎士はむしろ戦法が古くて役に立たないんだ。フランスは王が農民の希望者を集めて訓練するんだ。あの一斉射撃を見てみろ。あんなの相手じゃ保たんぞ」
「イザベラは王様なんて飾り物だって言ってたが」とエンリ。
「そりゃ、あんたを手玉にとるための方便ですよ。今は、貴族領でバラバラになってた国を王がリーダーシップ発揮して、まとまった強力な国にする時代なんです。それが出来る国が生き残る。イタリアなんか、王様自体いないから、格好の草刈り場ですよ」とアーサー。
「ひとつながりの国家という訳ですね」と人魚姫リラ。
エンリは「俺ってそんな面倒臭い立場だったのかよ。王太子止めてー」
「あのお人好しなジョアン王はもっと駄目だと思いますよ。あんたの責任重大です」とアーサー。
「勘弁してくれ」とエンリ。
そんなエンリ王子にアーサーは「それより、とりあえずこの場、どーしますか」
「いっそファフのドラゴンで」とエンリ。
「ここは教皇庁のおひざ元ですよ」とアーサー。
リラが「私がセイレーンボイスで敵を眠らせます。皆さん、眠らないよう、耳を塞いで下さい」
伝令で味方にしばらく耳を塞ぐよう伝えると、人魚姫は歌った。まもなく敵の銃撃は止んだ。
味方の兵たちが敵陣に乗り込むと、フランス兵はみんな眠っている。
公爵軍の指揮官が兵たちに号令する。
「武器を没収して縛り上げろ」
兵たちは敵兵を捕縛しながら、口々に言う。
「見ろ、最新式の銃だぞ」
公爵は指揮官に「避難してる奴等にも戦闘に参加するよう呼びかけよう。これだけ武器があれば、まともに戦える」
エンリは敵の陣形を見て「けど、こいつら先遣隊ですよ。そのうち本隊が来ます」
「どうします?」と指揮官がエンリに・・・。
「また、さっきの手が使えませんかね」と公爵。
アーサーは「いや、後方で監視してる奴が知らせた筈だ。あの手はもう使えないだろうな」
「本隊が居る所の手前に川がある。あそこで迎え打とう」と公爵。
するとレオナルドが「射撃機械を使おう。タルタ君、やってくれるか」
「任せろ」とタルタ。
「それとアーサー、魔法攻撃は出来るか」とエンリ。
「向こうにも魔導士は居ますよ」とアーサー。
「防御魔法なら私も使える」とレオナルド。
「お願いします」とアーサー。
川を渡って押し寄せるフランス軍
数に劣るレジスタンスは溝状の塹壕を掘り、その手前に何筋かの柵を組んで敵を迎え撃つ。
アーサーがファイヤーレインをかますが、敵の防御魔法で防がれる
敵魔導士の魔法攻撃を老レオナルドの防御魔法が防ぐ。
突撃してきた敵軍に対してタルタが塹壕から身を乗り出し、射撃機械の高速連射で薙ぎ払う。
「これ、すげーな」と有頂天のタルタ。
そんなタルタにエンリが「油断は禁物だぞ」
弾を追加して再び高速連射。だが、すぐに敵の銃弾が集中。当たりそうになって塹壕に引っ込む。
「危ないなぁ」とタルタ。
「そりゃ戦争だもん」とジロキチ。
塹壕の中を移動し、適当な所で頭を出して高速連射。敵の射線が集中したら引っ込んで別の所に移動。
移動しながらタルタが「まるでモグラ叩きだな」
「こっちが叩かれる側だけどな」とエンリ。
作戦は功を奏し、敵は足止めされて大きな損害を出した。だが・・・。
立て続けに至近距離で炸裂する砲弾の爆音に「砲撃が集中してきた」とジロキチ。
「これ、保たないぞ」とエンリ。
タルタは「こうなったら鉄化して撃ちまくってやる」
ニケが「それじゃ動けないでしょ。鉄化した姿勢で撃っても弾は一か所にしか飛ばない。射線を横に振って奴等を薙ぎ払わなきゃ意味が無いのよ」
エンリが言った。
「あのさ、立ち上がって撃ってる姿勢で鉄化して動けないんなら、俺たちでタルタの片足持って方向変えたらどうかな」
「それでいこう」と仲間たち。
タルタは立ち上がって引き金を引き、連射を始めると同時に鉄化する。
その片足をジロキチとエンリが引きずって、タルタと射撃機械の向きを変え、射線を左右に振る。
集中する敵の銃弾は全てオリハルコンの体が弾き返す。
敵の射撃陣に容赦の無い銃撃を浴びてるタルタ。
撃ちまくりながらタルタが「これ、気持ちいいぞ」
「そりゃ良かった」とエンリ王子。
タルタは一方的に敵をなぎ倒す快感に陶然となる。
「か・い・か・ん・・・」とうわ言のように呟く。
それを聞いてジロキチが「お前がそれ言うと滅茶苦茶気持ち悪い・・・ってか、お前、大丈夫か?」
「ちょっと、しっかりしてよ、タルタ」とニケ。
「王子、タルタさんが変です」と人魚姫。
「駄目だこいつ、我を忘れてるよ」とエンリ。
大損害を受けてフランス軍は撤退する。
エンリはタルタに「もういい。撃ち方止め」
だが、戦闘停止の声はタルタの耳に入らず、彼は鉄化を解かず、射撃も止まらない。
撃ち続ける射撃機械が煙を上げる。
それを見てエンリが「まずい、銃身が過熱してる」
「爆発するぞ。逃げろ」
そう叫んで慌ててタルタから離れる仲間たち。
射撃機械は完全にふっとび、爆発した塹壕跡に射撃の姿勢で立ち尽くした鋼鉄のタルタは、まだうわ言を呟いていた。
「ダダダ、ダダダダダダダダダダ、ダダダダダ」
結局、フランスは何も得られずにイタリアを撤退し、戦争は終わった。
ポコペン公爵は屋敷に戻り、エンリ王子一行も帰国する事になった。
帰り支度する王子たちに会いに来たレオナルドはタルタに言った。
「君はプラトンアカデミーでは何も学んでいないと言うが、大地が球体である事は知っていたのだよね?」
タルタは「子供の頃に近所に住んでいた爺さんから教わったんです」と答える。
「他にどんな事を教わったのかね?」とレオナルド。
「例えば、万物は目に見えない原子という粒で出来ていると」とタルタ。
「原子説だね」とレオナルド。
タルタは「水もそうだって、ガラス玉を使った模型実験を・・・そうだ。水だ」
ニケたちと大地の形について議論した翌朝、顔を洗いながら考えた、その記憶がタルタの脳裏に蘇る。
タルタは飲みかけのコップの水で手を濡らす。
濡れた手を目の前の老人に見せて、タルタは言った。
「これって水の原子が落ちずに手に付いているって事ですよね?」
「つまり手と水が引き合っていると?」とレオナルド。
「小麦粉でも砂でも手に付くし、手でなくても石でも木でも濡れる。つまり万物は互いに引き合っていると」とタルタ。
レオナルド「その引き合う作用の元は重さと距離か」
タルタは「つまりこの巨大な大地とも引き合ってる。それが、物が落ちるって事の意味なんじゃないでしょうか」
レオナルドは叫んだ。
「だから地球の裏側の人は落ちないのか。謎は全て解けた。早速実験を始めよう」
タルタは「実験ってどんな?」
レオナルドは「木の上からリンゴを落としてみるのさ」
楽しそうに実験の準備を始めるレオナルドを見て、ジロキチはタルタに言った。
「それって、どんな意味があるんだろう」
タルタは「さぁ、天才の考える事は解らん」
そんなレオナルドにエンリ王子は訊ねた。
「ところでレオナルドさん。バスコという海賊の事は知りませんか? "ひとつながりの秘宝"と関係があるらしいのですが」
レオナルドはしぼらく考え、そして言った。
「バスコと言えば、私の先生の先生の弟子だった奴に、そんな名前の奴が居た。測量術の天才とうたわれたが、やがて我々の前から姿を消したよ。その後どこかで海賊になったという噂があった。誰も信じなかったけどね」




