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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第28話 万能の天才

エーゲ海の島でプラトンアカデミーの遺跡を調査するというマーリンを残して、王子たちはポルタへと帰国の途についた。

途中、イタリアでニケの故郷に立ち寄る。



イタリアに向かう船の甲板の上で、タルタはニケに言った。

「ポコペン公爵の屋敷に立ち寄るって?」

「持ち逃げしたお金は返したんだし」とニケ。

「また同じ事やるんじゃないかって警戒されるんじゃないのか?」とタルタ。

「私の故郷よ。会いたい人も居るし」とニケ。

「恋人?」とジロキチ。


ニケは「違うわよ。いろいろ教えてくれた亡命賢者のレオナルド先生よ」

「いい年のオッサンだろ?」とジロキチ。

「ニケさんって、年上趣味?」とアーサー。

「枯れ専?」とタルタ。

「じゃなくて、緯度経度の事とか、聞きたい事がいろいろあるのよ」とニケ。


「まー研究熱心なのはいい事だけどさ」とタルタ。

ニケはタルタに「何言ってるの、あんたの事もよ」

「まだ俺の体、狙ってるのかよ」とタルタ。

ニケはタルタに言った。

「いや、もうオリハルコン削るのは諦めたから、ってかそういう言い方止めてくれない? まるで私が痴女みたいじゃない」



港に停泊して仲間たちは街に入り、郊外の海沿いの崖の上にある館の敷地に入る。

いかにも荒廃した無人の屋敷を見て、タルタは「ここが公爵の屋敷かよ」

「廃墟だよね?」とジロキチ。

「公爵って王様だよね?」とタルタ。

エンリが「いや、イタリアに王様は居ないから。ってか、どこかで聞いたような台詞だが」


ニケが近所の人に訊ねる。

「公爵様の屋敷で何があったの?」

「フランスが攻めて来たんですよ」と近所の人。

「住んでた人達は?」とニケ。

「どこかに逃げたみたいですね」と近所の人。

「レオナルド先生も?」とニケ。

近所の人は「あの亡命賢者の爺さんですか。いろいろ変な機械、運び出してたなぁ」



船に戻る。

がっかりしているニケにエンリは言った。

「まあ、どこかに逃げたって事は、元気にやってるんだろうさ」

「教皇庁にでも逃げ込んだかな?」とタルタ。

「あそこは真っ先に降参したらしいよ」とアーサー。

ジロキチが「生きてりゃまた会えるさ」



港を出航して、ポルタへ向かおうと船を進める。

そして小さな岬を回った所で、目の前にいきなり何かが浮上した。


大型船ほどの大きさで、中軸に竜骨を通した楕円形が木材で覆われた、まるで船がひっくり返って船底を上に向けたのが海面に出ているような代物。

その上部の小さなハッチから若い男性が上半身を出して、エンリ王子の船に向って叫んだ。

「こちらは海賊レジスタンス。そこの船、止まっておとなしく降参し、金目の物を供出しろ。でないとその船をひっくり返すぞ」

「いや、ひっくり返ってる船は自分だろ」と、タルタが負けずに船に向って叫ぶ。


そこにニケが出てきて、王子に言った。

「あれは潜水艦よ。全体を船板で覆って海中に潜って進む特殊な船なの。私が何とかするわ」

「いや、何とかするって」とエンリ王子唖然。



ニケはボートを下ろして、船板に覆われた船に向った。


それを見送るタルタは言った。

「いくらニケさんでも、海賊船相手に一人じゃ無茶だろ」

すると人魚姫が「王子様、一隻なら爆雷で一発です」

「頼む」とエンリは人魚姫に・・・。



ニケはボートを潜水艦の脇につけて、上部ハッチの男性に向って言った。

「エド、何やってるのよ」

「お前、コソ泥ニケじゃないか」と男性。

「失礼ね。お金は返したでしょ? こんな所で何やってるのよ」とニケ。

男性は「フランスに対するレジスタンスだよ。お前こそ何やってるんだ」

「あの船は味方よ」とニケ。

「解った。とにかく親方に話す」と男性。


ニケは自分の船に戻って、王子に言った。

「話はついたわ。あの船は公爵のレジスタンスなの」

「解った。とにかく話を聞こう」と王子。

その時タルタが「けど、さっき姫が爆雷仕掛けに行ったんじゃ・・・」

王子は慌て声で「そうだった。姫を止めなきゃ」


その時、潜水艦の船尾が爆発した。

「遅かったか・・・」と困り顔の王子。



壊れた潜水艦を曳航して、王子たちの船はエドという男性の案内で、公爵の拠点を目指す。

入り組んだ海蝕崖の浅い入り江に口を開けた洞窟。公爵軍の根点だ。


ポコペン公爵が彼等を出迎えた。

「エンリ王子、よく来てくれた」と公爵。

「潜水艦の事、申し訳ない」とエンリ王子。

公爵は「いいのですよ。あなたの国からは多大な援助を受けています」

「は?・・・」とエンリ疑問顔。

「イザベラ王太子妃から」と公爵。

「あの人が何で?」

そう首を傾げるエンリに、アーサーが「おそらくフランスに対する牽制でしょう」



ニケは、亡命賢者レオナルドの所にタルタを連れて行く。王子たちも同行した。

鉄化の異能についてレオナルドに話すニケ。


レオナルドはタルタに言った。

「賢者の木の実を食べて金属の体になる力を得たというのか。確かにそれは錬金術だ。少し調べさせて貰ってもいいかね」

「かまいませんが」とタルタ。


レオナルドは、タルタの体をあちこち調べる。そして鉄化したタルタを調べる。

「髪の毛をサンプルに欲しいのだが」とレオナルド。

「いいですよ」とタルタ。


鉄化したタルタの髪の毛を一本、折り取るレオナルド。

全員、それを見て想った。(その手があったか)



タルタが鉄化を解くと、仲間たちが手に手にハサミやらバリカンやら・・・。

そんな彼等を見て、タルタは思わず頭を押さえて、言った。

「駄目だからな。丸坊主にされたら敵わん」



お茶を飲みながらレオナルドを囲んで話すエンリたち。

「先生は医術にも詳しいんですね」とアーサーはレオナルドに・・・。

「いろんな学問に精通してるわよ」とニケ。

「虻蜂取らずって諺の典型だな」とタルタ。

ニケは「失礼な事言わないの。先生はどの分野でも凄い業績を残しているのよ。万能の天才って言われてるんだから」


老レオナルドは笑って言った。

「どの学問も同じ原理があるのだよ。その知識をいろんな分野に応用できる。医術なら人体だが、それは世界の縮図でもある。様々なものが人体と同じ構造を持っているのさ。国家とか都市とか。この大地も同じだと私は考えている」

「"ひとつながりの大秘宝"というのはご存じですか?」とエンリが訊ねる。

「聞いた事は無いが、私に言わせれば人体こそ、そう呼ぶに相応しい。様々な機能を持つ部位が繋がって全体として調和し、どんな事でも成し遂げる無限の可能性を持つ」とレオナルドは言った。



「あれらの機械も人体の応用ですか?」

そう言って周囲を見回すエンリ王子。

部屋には様々な機械やその模型、設計図が雑然と置かれている。

レオナルドは言った。

「あれは幾何学の応用だよ。様々な物体の形状や相対位置は、平面や立体上の図形の上での距離と方向を示す数値として計算できる。それは天体の運動、水や空気の流れ、動物の手足や翼の動き、そして山が生まれ、崖が崩れ、木々が育ち、そして倒れるといった現象に至るまで。全ての自然は幾何学によって解明できる筈なんだ」


タルタが言う。

「そういえば、世界は数で出来てるって、近所に住んでた爺さんが言ってた」

「その応用で、機械や建築物を設計し、天体の動きを予測し、絵画の構図を定める」とレオナルド。

「絵画も?」とアーサー。

「遠くの物は小さく、近くの物は大きく見える。それを幾何計算で正確に表現することで、本物の景色と見間違えるような絵を描ける。ミケランという奴がそういうのが得意で、東の異教徒の国オッタマに大きな風景画の注文を受けて描きに行ったなぁ」とレオナルド。

「風景ですか?」とエンリ。

「船がたくさん浮かぶ港の絵だとか」とレオナルド。



ニケが一枚の図面を出して言った。

「レオナルド先生、これを見て欲しいんですが」


それを見てレオナルドは「航海地図だね。緯度と経度も正確に示されている」

「大地が丸いというのは?・・・」とニケ。

「研究するとみんな行きつく結論だよ」とレオナルド。

「その球体の裏側の人たちが落ちないのは何故なのでしょうか」とニケ。

レオナルドは「それは解らんが、何かの理由があるのだろうな。それを解明するのが科学だ。それより、発明品を見てみないかね」



示された機械を見て、仲間たちは不思議そうに「これは?」

台の上に支柱を立て、その上に大きなねじのようなものが傘のように上に広がっている。


「飛行機械だよ」とレオナルド。

「これが空を飛ぶんですか?」とアーサー。

「螺旋型に傾斜したものを回転させる事で、下に風を押し出す。その力で宙に浮くのさ」とレオナルド。

「どうやって回転させるんですか?」とエンリ。

「このハンドルを回すのさ」とレオナルドは言って、支柱についているハンドルを示す。

「ものすごい速さで回す必要がありますね」とタルタ。


レオナルドはタルタに「君のそのオリハルコンの筋肉なら可能ではないだろうか」

「鉄化すると間接が固まって動けないんです」とタルタ。

「そんなぁ」とレオナルド。


  

「こっちは何ですか?」

そう言ってジロキチが指したものは、鉄砲に何か複雑な機械のようなものが付いている。

レオナルドは説明した。

「射撃機械さ。ニケ君にあげた短銃は、根本から玉を込めるようになっているが、それを更に改良したものでね、装填と射撃を一サイクルとして機械化し、ゼンマイ動力により、高速でこれを繰り返す。多量の銃弾を高速で連射して敵をなぎ倒す。一人で百人でも相手にできる」

「そりゃ、凄いな」とタルタ。

「ただ、連射を続けると、銃身が過熱して爆発する恐れがあるんだ」とレオナルド。

「そりゃ、危ないな」とタルタ。


エンリが言った。

「そういえば、この近くにフランス兵の部隊が居座っているんですよね?」

「いざって時はこいつで撃退してやるさ。だが、重くて扱える者が居ないんだ」とレオナルドは射撃機械を指して言った。

「こんなの軽そうじゃないか」

タルタはそう言って、機械を担いで見せた。



その時、知らせの者が駆け込んできた。

そして「奴等がここを嗅ぎ付けた。もうすぐここにも攻めて来るぞ」

「いつも通り蹴散らしてやる」と息巻く公爵家の人たち。

「駄目です。本腰入れて攻めて来てる。時間の問題だ」と知らせの人。

エンリ王子たちは「私たちも行きます」と言って一斉に立ち上がった。

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