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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第23話 迷惑な御先祖

南方大陸西岸を南下するエンリ王子たちが物資の補給に立ち寄った漁村。

そこでは、ポルタのポックリ男爵が売りつけた鉄砲を使って戦争する二つの部族があった。

エンリは彼等をファフのドラゴンで脅して、強制的に停戦させた。



エンリ王子は仲裁を試みた。

エンリの前で二人の族長が向かい合う。

「戦争はいったい何が原因なんだよ」とエンリは二人に問うた。

「祖先からの因縁です」

そう言うと、二人の族長は部族に伝わる戦争の歴史を語った。



二つの部族の祖先は、元々は族長どうしが親友だった。双方妹が居て、友情の証として相手の妹と結婚した。

だが族長の妻となった彼女たちの振る舞いは次第に部族の人たちに対して横暴になった。



ポテ族族長は言った。

「彼女は仕事は怠けるのに大食で、我儘ですぐ家族に暴力を振るいました。女たちの中に取り巻きを作り、それ以外の女を冷遇するので、毎日のように夫の元に苦情が来ました」


パテ族族長は言った。

「彼女はとんでもない浮気者で、何人もの愛人を作ったのですが、変な性癖があって、愛人たちを鞭で叩いて女王様と呼んで足を舐めろと。実は彼らは弱みを握られて逆らえず、少しでも彼らと会話した女が居ると、嫉妬に狂って彼女等に酷い仕打ちをするのです」


二人の族長は声を揃えて「たまりかねた二人の夫はついにそれぞれ離婚して妻を実家に送り返した」


そしてポテ族族長はパテ族族長に「たまりかね・・・って、愛していれば少しくらい我慢をしろよ」

パテ族族長はポテ族族長に「いや、無理だから。お前こそ、謝るどころか可愛い妹の悪口ばかり」

「俺たちは被害者だ」とポテ族族長。

「いや、お前らは加害者だろ」とパテ族族長。



エンリ王子は二人に「けどそれ、昔の話で今の人たちと関係無いよね?」

二人の族長は声をそろえて「祖先があって我々が居る。親孝行は人徳の要。祖先の恥を濯いでこそ人の道」

(どこかで聞いたようなアジテーションだな)と思ったエンリたちを他所に、残念な言い争いは続いた。


「戦争をふっかけたのはお前等だ。俺たちの仲間を何人殺した」とポテ族族長。

「ふっかけたのはお前等だろ、この戦犯部族が」とパテ族族長。

「口で言い表せないくらい酷い事しやがって」とポテ族族長。

「反省しろ謝罪しろ賠償しろ」とパテ族族長。

「誠意が足りない。正しい歴史認識を受け入れろ」とポテ族族長。

「歴史修正主義者め」とパテ族族長。

「歴史を隠蔽するな。教育が不足してるぞ」とポテ族族長。

「証言の矛盾がどうした。事実か嘘かの問題じゃない」とパテ族族長。

「我等被害者の感情を重んじろ。被害者中心主義だ」とポテ族族長。

「千年恨んでやる」とパテ族族長。

「関係改善したくないのか」とポテ族族長。

「お前等こそ、我等の部族に対する愛は無いのか」とパテ族族長。

「道徳的優位者である我等に跪け」とポテ族族長。

「真摯に謝罪すれは寛大に赦してやると言ってるんだ」とパテ族族長。

「俺たちは大陸最高の部族だぞ。この地の文化は全部俺たちが創ったんだ」とポテ族族長。

「半万年前に大陸を統一して文明を築いたのは我等の偉大な先祖」とパテ族族長。



あまりに馬鹿馬鹿しい言い張り合いに唖然とするエンリ王子たち。

「アーサー、これって・・・」と、エンリはアーサーに・・・。

「憑かれてますね」とアーサー。

すると二人の族長は、地の底から響くような声をそろえて「人を悪霊みたいに言うな。我等は部族の先祖の霊」

二人の目は赤く光り、その体から異様なオーラが立ち上る。


それに対してエンリ王子は言った。

「ご先祖様だろーが何だろーが、戦争やらせて不幸にするんなら悪霊だ」

アーサーは「除霊しましょう」

「やってくれ」とエンリ。


アーサーは呪文を詠唱する。

「汝、死せる者の魂。我は汝ら冥府の民の裁き手たる調停者なり。我が名はエクソシスト」

古代語の呪文を唱えながら戦場に杖で指して魔法陣を描く。そして二人の族長の周囲に描いた魔法陣と図形を描いて結ぶ。いくつもの古代文字が配置される。

「エクソシストの名により命ず。生ける者から離れ、居るべからざる場所から今すぐ立ち去り、冥府へ帰れ。悪霊退散!」



二人の族長の影から巨大な闇の魔物が姿を現した。戦士たちからも影が立ち上り、族長から離れた魔物に吸収されていく。

エンリはアーサーに「あれもゴーストなんだよな?」

「融合体ですね。同族の魂が自分たちの世界を作って、子孫たちの霊と融合して巨大な一つの意識体になるんです」とアーサー。

「グレートスピリッツという奴か?」とタルタ。

アーサーは「そこに憎悪が混じってあの中で増殖して、手が付けられなくなった姿ですよ。王子、魔剣を。ゴースト系の魔物なら光魔法です」


エンリは光の巨人剣を抜いて、二体の魔物を切り裂いた。

地の底から響くような呻き声とともに魔物は消滅した。



「俺たち、何をやってたんだ?」

そう口々に行って、夢から覚めたように正気に戻って起き上る戦士たち。


エンリ王子は二人の族長に言った。

「あんた等、今まで戦争やってたの、憶えてるか?」

「何となく」と、ポテ族族長。

「何て恐ろしい事を」と、パテ族族長。


そして二人の族長は声を揃えて「ご先祖様に申し訳が立たない」

残念な空気が漂う。

エンリは頭痛顔で「いや、先祖はもういいから」



そこに現れたポックリ男爵は、二人の族長に「戦争はどうなりましたかな?」

残念な空気が漂う。


二人の族長は言った。

「ポックリ男爵。戦争は止めました。鉄砲は返品します。奴隷にされた仲間を返して下さい」

だが男爵は「取引は既に成立しています」

二人の族長は「だったら実力で取り返すのみ」と言って、それぞれの部族の戦士たちに号令した。


自分が売りつけた鉄砲の銃口を向けられた男爵はエンリに言った。

「エンリ王子、どうにかして下さい。私はポルタ国の国民であなたの臣下です。国民の生命と財産を守るのは王たる者の義務ですよ」

「けど俺、まだ王じゃないし、それにお前がやってる事はどう見ても悪徳商人だぞ」とエンリ。

「ポルタ国に富を持ち帰って国の繁栄に寄与するためです。それを妨げるようでは王族とは言えません」と男爵。

「俺、ポコペン公爵とドリアン商会から借りてた借金を返済して財政破綻から国を救った救国の王子なんだが」とエンリ王子。

エンリの仲間たちは思った。(こんな時だけ・・・)


ポックリ男爵は奴隷を解放し、鉄砲を引き取ってこの土地を去った。



二人の族長はエンリ王子の手を執って、言った。

「皆さん、この御恩は両部族とも永遠に忘れません。さあみんな、歓迎の宴だ」

そう言って二人の族長は部族の人たちに号令し、宴の用意が始まる。


そんな様子を見てエンリは頭を掻きながら「それはいいんだが、自分たちはこの南へ探検に行くんで、そのための食料と水を調達したいんだが」

「食料といっても、焼き畑でその日食べる分だけ取ってるんで、蓄えなんて」とポテ族の族長。

「そうですよね」とアーサー。

「けどあの宴のごちそう・・・」とタルタ。


「あれは、各家から少しづつ出して貰ったものなんですが」とパテ族の族長。

「だったら、それを売って貰えませんか?」とエンリ。



エンリ王子たちは、多量の食料を受け取った。

「これで当分食いつなげる。では支払いを」

そう言って王子は代金を払うため金貨の袋を出すが・・・。


「これは何ですか?」とポテ族の族長。

「お金ですよ」とエンリ。

「お金って何ですか?」とパテ族の族長。


袋の中の金貨を見て族長たちは言った。

「綺麗な石ですね。ピカピカ光って。けど珍しい石じゃないですよね。こんなにあるんだから」


「こいつら金貨を知らないのかよ」とジロキチ。

「ここは物々交換の経済なんだよ」とアーサー。

「なら鉄砲と交換というのは?」とニケ。

二人の族長は「それは要りません。助けて頂いた礼として差し上げます」



船は再び南を目指した。

王子たちの船を見送りながら、二人の族長は互いに言った。


「今まで済まなかった」とポテ族の族長。

「こちらこそ」とパテ族の族長。

「これからは両部族、仲良くできるかな?」とポテ族の族長。

「是非そうしたい」とパテ族の族長。

「お前、いい奴だな」とポテ族の族長。

「お前もな」とパテ族の族長。

「俺たち友達になれるかな?」とポテ族の族長。

「だったら親戚にならないか? 俺には年頃の妹が居るんだ」とパテ族の族長。

「実は俺にも妹が居るんだ。是非、嫁に貰って欲しい」とポテ族の族長。


そして歴史は繰り返す。



その頃ポックリ男爵は・・・。

密林の中を流れる川をボートで遡る男爵とその部下たち。

「この川、どこまで遡るんですか?」と部下が男爵に・・・。

男爵は「情報によると、この奥で仲の悪い部族が居て対立しているらしい。そいつらにこの鉄砲売りつけて戦争煽って、今度こそガッポリ儲けてやる」



そしてその頃、王子たちの船では・・・。

「あの人達、幸せになれるといいですね」と人魚姫は筆談の紙に・・・。

「ポックリ男爵はもう来ないし」とアーサー。

「ところでこの食料、芋と肉なんだが、すぐ腐ると思うぞ」とジロキチ。

「その前に食べちゃおうよ」とファフ。

「今日は宴だ。食べるぞぉ」とタルタ。

するとニケが「駄目よ。干肉と干芋にして塩に付けるのよ。作業開始よ」と言って、仲間たちに号令をかけた。

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