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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第13話 宇宙の真理

ノルマンからポルタへは陸地を見ながらの航海が可能だ。

海上から望遠鏡を使って見える地形や景色で、自分の位置を確認する。

航海術が未発達な時代の多くの船乗りのやり方だ。



陸地を望遠鏡で見ながら舵をとるニケに、エンリ王子は言った。

「これからどこに行く?」

「もし手掛かりが無いなら、ポルタに戻った後、西へ行くってのはどうかしら」とニケが答えた。

「この広い海のど真ん中だと陸地が見えないが」とエンリ。

「大丈夫よ。これがあるから」

そう言って、ニケは航海用の磁石を出した。


「何? これ」と仲間たち。

ニケは答えて「魔法のようだけど、これがあれば自分がどっちに向っているか解るの」

「ニケさんすげー」とジロキチ。

「尊敬します」と人魚姫リラは筆談の紙に・・・。

「その名も・・・」

そうニケが言おうとした時、タルタが「磁石だよね?」


「そ・・・そうよ」と、出鼻を挫かれたニケは作り笑顔で顔色を繕う。

そしてニケは「それでその使い方は」と言いかけると・・・・

タルタは「針が常に北を指す」

「そ・・・そうよ、っていうか、いい加減ネタバレは止めてくれない?」とニケが迷惑そうに言う。

タルタは「だって俺海賊だし、航海士が使うの見てたし」


ニケは説明を続ける。

「これを使えば西にも東にも南にも行けるの」

するとタルタは「へ? 解るのは北だけなんじゃ・・・。南や西はどうやって解るの?」

「南は北の反対でしょ?」とニケはあきれ顔。

タルタは目を丸くして「そうか。ニケさんすげー」

ニケは溜息をついて「何だか馬鹿にされてる気分なんだけど」 



そんな間抜けな会話が一息つくと、エンリ王子は言った。

「それで、西にはどこらへんまで行くんだ?」

ニケは「果てに着く前までは行こうと思うの」

「そうだよね。この世界って平な地面の上に陸と海があって、果ての海からは溢れた海水が、世界の底に向って滝みたいに流れ落ちているものね。そんなのに近付いて、海水と一緒に真っ逆さまってのは願い下げだ」とジロキチ。



その時、タルタが言った。

「いや、世界の果てなんか無いぞ」

「そうなの?」とアーサー。

タルタは「実は地面は丸いんだよ」

「何だかタルタが凄い事言い出したぞ」と仲間たちは口を揃えた。


タルタは言った。

「証拠があるんだよ。エジプトってあるよな?」

「イタリアの南に地中海を越えた所だろ?」とジロキチ。

「六月の夏至の正午に太陽の光が真上から来る」とタルタ。


「どこだって真上だろ」とアーサー。

「北では斜め方向から来る。だから垂直の塔でも影が出来る」とタルタ。

「そりゃそうか」とエンリ王子。


タルタは「つまり同じ日でも、場所によって太陽の光の向きが違うんだよ。太陽は一つだから同じ方向にあって、光は真上から来る。だけど地面の角度が違うから真上に見えないのさ」

「つまり、太陽の真下の部分は上から見て地面が垂直だけど、そこから離れれば離れるほど地面の傾斜が変化すると?」とニケ。

「それって俺たちが球体な地面の上に居るって事だよな?」とタルタ。



「ってか、そもそも太陽って何?」とジロキチ。

「神様だろ?」とエンリ。

「違うだろ。見ての通り丸いぞ。神殿の太陽神の像はどんなだ?」とタルタ。

「イケメンでマッチョ」とニケ。

「丸くはないよな?」とタルタ。


「つまり本当は、ぽっちゃりな神様なんじゃないのか? あの像は美化して表現してるだけで、肖像画だって本物がブスでも美人に描くじゃん」とエンリ。

「そうなの?」とジロキチ。

ニケは「私が子供の時に教えてくれた亡命賢者で画家やってる人も美化はするけど、いくらぽっちゃりでも、ああはならないわよ」


タルタは「つまり太陽は神じゃなくて、ただの丸い燃え盛る岩の塊なのさ」

「でも教会とか・・・」とエンリ。

タルタは語った。

「神話は単なる空想で説明するための作り話さ。世界にはいろんな不思議がある。太陽だって風だって雷だって、みんなちゃんと説明できる理由があって、ああなってるんだ。けど、その理由を知らないから、よく解らない神様なんて存在で無理に説明しようと作られたのが神話なんだよ。そんなのに頼るのを止めて、本当の理由をちゃんと調べて理解しようっていうのを合理主義って言うんだそうだ」


「つまり神様なんて本当は居ないと」と人魚姫リラは筆談の紙に・・・。

「子供の時近所に住んでた爺さんはそう言ってた」とタルタ。

「タルタじゃないみたい」とファフ。

「俺を馬鹿だと思ってるだろ」とタルタは言って、口を尖らせた。



アーサーは言った。

「近所の爺さんって相当な賢者なんだな」

「段ボール代わりに樽に住んでるホームレスだけどね」とタルタ。

「無名でそんな人が居るのかよ」とエンリ王子。

タルタは「そこそこ知られてたみたい。王様が会いに来た事もあるぞ。日向ぼっこしてる所に来て、何か望みは無いか?・・・って聞かれたそうだ」


「お金をいっぱい貰ったのよね?」とニケが身を乗り出す。

するとタルタは「それが、そこに居ると日陰になるから退いてくれ・・・って言ったとか」

「どこかで聞いたような話だな」とアーサー。


ニケは目を丸くして「あっりえなーーーーい! 何でお金を要求しなかったのよ」

タルタは言った。

「それ、俺も聞いた。そしたら、お金なんて、みんなが価値があると勘違いしてるだけだ・・・って言うんだ。お金は食べる事も着る事も雨露をしのぐ事も出来ないだろ?・・・って。食べ物は近所の人が分けてくれるし、着るものは今着てるのがあるし、住む所はこの樽で十分・・・って」


「けど、王様を邪魔者扱いとか、王様怒ってただろ?」とジロキチ。

「笑って立ち去ったそうだ」とタルタ。

「温厚な王様だな、おい」とエンリ。

タルタは「いや、そこら中の国に戦争ふっかけて征服王って呼ばれてたぞ」


エンリ王子は思った。

(征服王って、まさかあの人じゃないよな? なんせ二千年も前の・・・)



その時、ニケが反論した。

「あのさ、仮に地面が球体だったとすると、その裏側ってあるのよね? そこに居る人たちって、私たちと逆さまよね? つまり、彼らの頭上は実際には真下。何是真っ逆さまに落ちないの?」

タルタは焦り顔で「それは・・・人はその球体の真上だけに住んでいるとか」

「水はみんな下に流れるわよね? ちょっと離れれば傾斜があって、丸い物は下に転がって行くわよね? どうしてそうならないの?」とニケ。

「何でだろう」とタルタは首を捻る。


ニケは言った。

「あのさ、太陽の光って本当にどこでも真上から来るのかな?」

「違うの?」とタルタ。

「真上からって事は天からって事よね? けど光源は太陽なんだから、太陽が天を覆うほどの大きさでなきゃ、そうならない。けど上にある太陽は天を覆ってる?」とニケ。


ジロキチは上空にある太陽を見て「覆っていないね」

「つまり、あの大きさの太陽から放射状に光が向かってるって事じゃないの?」とニケ。

「放射状ってあの、図に書くと、どこかの頭のおかしな人達が戦犯旗だとか意味不明な因縁ふっかけてクレーム付けに来るという」とジロキチ。

アーサーは困り顔で「そういう危ない話はいいから」


ニケは「それだと、真下に居る人には真上から来るけど、そこから離れれば当然角度は変わる。北に居ると角度が変わるのに何の不思議も無いと」

「やっぱり地面は平坦なのか」とタルタ。

「世界の果てには近づかない方がいいね」とアーサー。



その時、エンリ王子の脳裏に、あのサーミ人のテントで聞いた話が過った。

そしてエンリはニケに「あのさ、それじゃ太陽はどこから登るのかな?」

「東の果ての海水が下に落ちてる所のさらに東から・・・でしょ?」とニケ。


エンリは「だとしたら、日の出の入射角はどこに居ても平坦な地面の水平方向から来るって事だよね? 遮るものが無ければ、光が来る方向はどこでも同じだから、日の出日没は世界中が同じ時間って事になる」

「同じ時間じゃないの?」とアーサー。


エンリ王子は語った。

「ノルマンでは太陽が昇っている時間は極端に短くなるんだよ。冬になるとね。日が昇らない日もあるって言うんだ。つまり北にずっと行った所では、日の出は遅く、日の入りは早くなる。それって、湾曲している地面の影から出て来るって事なんじゃないのかな?」

「するとやはり地球は丸いのか」とタルタ。

「だったら何故海水は流れて行かない? 地球の裏の人は何故下に落ちない?」とアーサー。


「解った」

そう叫んで、そしてタルタは言った。

「神様が守ってくれているからだよ」


全員、残念そうに溜息をついて、タルタに言った。

「合理主義はどうした」



翌朝、タルタが顔を洗う。手が水に濡れる。

子供の頃、老人が教えてくれた事を思い出す。



幼いタルタに老人が言った。

「万物は目に見えないほど小さい原子の集まりなんだよ」

「水も?」と幼いタルタ。

「そう。そして風もね」と老人。

幼いタルタは「じゃ、水が流れるのって・・・」


「実験してみよう」

そう老人は言って、小さなガラス玉がたくさん入った器を出した。

そして老人は器を動かして「これを傾けると、零れて落ちるよね。このガラス玉をずっと小さくしたのが水の原子なのさ」

「石は流れないよね?」とタルタ。

「水は自分では動かないけど、バラバラだから外からの力で動く。これが流動だ。石のように原子がしっかりくっつくと、外からの力に抗って動かない。これが不動だ。原子がエネルギーを持って自分で動くのが活動だ。たとえば炎の原子は自分でゆらめくだろ? 水の原子は流動の傾向が強い」と老人は説明した。

「他にどんな原子があるの?」と幼いタルタ。

「風・水・炎・土。これで四大元素だ。それが不動・流動・活動のいずれかの状態になる。これを意図をもって操るのが魔法だ」と老人は言った。



そんな事を思い出しながら、タルタは思った。

水が流れるのは重さがあって下に動くから。だったら、この手に付いた水の原子は何故落ちない?


ガラスに髪の毛を擦る遊びを教わった事を思い出した。擦ったガラスに髪の毛が付いて逆立つ。

あれは髪の毛を引き寄せる力が働くのだと、老人は言った。


水が付くのも同じ、引き寄せる力なのか?

水だけでない。埃や小麦粉や砂も指について落ちない。

指でなくても同じだ。つまり、あらゆるものに引き寄せる力があるのか?


力のその作用の大小は何に拠るのか。近いものには強い力が働くだろう。

水も砂も手に付くというのは、手が接する近さにあるからだろう。

しかも小さくて軽い。大きくて重ければ下に落ちる。


落ちるか落ちないか、それは手と下側が綱引きしているという事ではないのか?

落ちるというのは、下に引き寄せられているという事ではないのか?


では、下にあって引き寄せているものとは、何だ?


地面というのは、とてつもなく大きく重い。それは引き寄せる力が強いという事か?

引き寄せる力とは重さではないのか?

もし地面が球体だとしたら、落ちるというのは下に行くという事ではなく、その巨大な球体が引き寄せる・・・という事ではないのか。

だとしたら、地球の裏側に居る人が落ちないのは・・・。



その時、ニケが彼を呼ぶ声が聞こえ、タルタは我に返った。

「タルタ、朝食が醒めるわよ」

「すぐ行く」と答えるタルタ。


タルタはふと気付いた。

(あれ? ・・・俺、今、何か大事な事を考えていたような気がするんだが・・・何だっけ?)


「朝食、食べられちゃうわよ」とニケが呼んでいる。

「すぐ行くから」とタルタは答えた。

そしてタルタは思った。

(まあいいや。忘れたって事は大した話じゃないんだろ)



エンリ王子たちの船がポルタに到着した。


イザベラの所に行って、あれこれ話す。

「ドラゴンが出たそうね?」とイザベラ。

「まあな。大変だったよ」とエンリ。


一息つくとエンリは仲間たちを連れて、父王にノルマンでの首尾を報告した。そして言った。

「父上。これから仲間とともに西の果てへ行こうと思います。言っときますけど、果ての海から真っ逆さま・・・なんて無いから、止めても無駄ですよ」

だが、父のジョアン王は言った。

「いや、止めないから。実は西に向かった探検家が新大陸を発見したとの知らせがあってな」

「えーっ?」と驚く仲間たち。


「どんな奴が?」とエンリが訊ねた。

ジョアン王は「コロンボとかいうスパニアの海賊だそうだ。何でも、地面は実は球体じゃないかって噂を聞いて、アラビアの異教徒が仲介している東の交易路に、西からでも行けるって事で西に行ったそうだ」

「俺たち以外にも解ってた奴は居たんだ」とエンリは呟いて、ため息をついた。


そしてエンリはジョアン王に言った。

「ところで、魔道局の備品を持ち出す許可が欲しいのですが。仲間が航海に必要としていまして」

「何が欲しいのだ?」とジョアン王。

エンリは「天球儀と正確な時計を」



情報を集め、装備を整えて出発するエンリ王子たち一行。


船に積み込んだ装備を前に、エンリはニケに「天球儀とか何に使うんだ?」

ニケは「緯度と経度を計って船が地球上のどこに居るかを知るの」

「そんな事が出来るのか?」とタルタ。


ニケは言った。

「地面が丸いって事が解った訳よね。だったら自分が湾曲した地面のどこに居るかで、太陽や星の見える方角が変わって来る訳よ。それを角度計算するのよ」

「距離じゃなくて角度か?」とアーサー。


「球体地面の直径は解らなくても、その球体には中心があって、角度を計算できる。そして球体表面のこの場所と裏側は180度の角度で離れている。太陽がその球体地面を廻っているという事は、その軌道として基本的に球体の南北の中間に軌道面がある。としたらそれに直交する主軸があって、それと地面が交わる所に北と南の極がある。この軌道面を基準に南北へ向かう角度が緯度。ポルタから東西へ向かう角度が経度よ」とニケ。

「それが天体を観測する事で解ると?」とジロキチ。


ニケは言った。

「軌道面から北に行くほど地面と太陽計測線との角度は小さくなる。これで緯度が解る。そしてボルタから西に行くほど太陽が最も高くなる正午が遅れる。これで経度が解る。緯度と経度を計測すれば球体地面のどこに居るか解って、そこに大陸の海岸線があれば、その場所を記録して繋げば大陸の形が解る。つまり世界地図とその上を走る航路が描ける。それがあればどこへだって行けるのよ」

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