第10話 聖槍の戦乙女
ノルマン首都の港で、アーサーの攻撃魔法の助けを借りて皇帝軍の先方隊を撃退し、意気上がるノルマン軍は、間もなく攻め込むであろう本隊に備えた。
王城に戻って作戦を練るノルマン王とエンリ王子たち。
アーサーは「じき皇帝軍の反撃が来ます。この王城で迎え撃つのは困難かと」と王に進言した。
グスタフ王は「解っている。城は捨てよう。山に行った所に古くからの砦がある。そこに籠って迎え撃つ」
それを聞いてエンリ王子はアーサーに「王様、ここが防衛向きじゃないって解ってるんだな」
「うちの王様を何だと思ってる」とノルマンの将軍が口を尖らせた。
ニケがエンリの耳元で「ファフがドラゴンの力で蹴散らすってのはどうなの?」
エンリ王子は「悪魔扱いされてノルマン王の立場が危なくなるぞ」
「一人も生きて返さなければいいじゃない」とニケが物騒な事を言う。
「頼むからそういうのは止めて」とエンリ王子。
するとグスタフ王がエンリに言った。
「あなた達冒険者に頼みがある」
「何でしょうか」とエンリ王子。
王は語った。
「遥か昔、我が祖先がノルマン水軍騎士の長だった時に大神オーディンから授かったグングニルの聖槍を、回収して来て欲しい」
「水軍騎士ってバイキングだよね?」とタルタ。
「って事は海賊王のお宝? それがひとつながりの大秘宝って事も・・・」とアーサー。
「どこにあるんですか?」とエンリが王に訊ねる。
グスタフ王は「西の山岳を越えた海に細長く続くフィヨルドと呼ばれる入り江があり、その奥の洞窟に眠り、12人のワルキューレがこれを守っている」
「ワルキューレとは?」とエンリが訊ねる。
「天を駈けて戦う美しき戦乙女たるオーディンの娘たちだ」とグスタフ王。
美女の話を聞いたエンリ王子たちは口を揃えて「お任せ下さい」
グスタフ王は「それがあれば皇帝軍など恐れるに足りない。それまで我々は何としても砦を守る」
エンリ王子たちは聖槍回収の相談で額を寄せて作戦会議。
「で、どうやって行く?」とエンリ。
「ファフがドラゴンの翼で乗せて行く」とファフが言った。
「誰が行く?」とエンリ。
「俺、行こうかな。戦乙女だろ。きっと美人だよな」とタルタ。
「いや、俺が・・・」とジロキチ。
だが・・・。
「けどさ、こういうのって大抵、過剰に美化されてるよな」とタルタが言い出す。
「嘘大袈裟紛らわしいって奴か」とジロキチ。
「あの王様、嘘はつきそうにないけど」とエンリ。
「誇張癖は多分にあると思う」とアーサー。
次第にテンションが下がる仲間たち。
そんな中でエンリ王子は「ところでニケさんはどうした?・・・まあいいや」
「で、誰が行く?」とアーサー。
「どうせ期待してがっかり・・・ってパターンだよな」とジロキチ。
タルタが「王子行ってよ」と言い出す。
「やっぱり王子だもんな」とジロキチ。
「いや、この後籠城戦があるだろ」とエンリ。
「一番戦力にならない」とアーサー。
王子は「魔剣があるぞ」と言うが・・・。
「でも剣術はダメダメだよね」とアーサー。
落ち込むエンリ王子。
「あの、私も行きます」と人魚姫が筆談の紙に・・・。
「助けてくれるか」とエンリ王子。
「はい。12人も美女が居る所に王子様一人行かせたら心配です」と人魚姫が筆談の紙に・・・。
「要するに浮気の心配かよ」とタルタ。
「姫は王様の誇大宣伝信じてるのか」とジロキチ。
その頃ニケは、撤退準備のドサクサに紛れてノルマン城の財宝蔵を漁っていた。
エンリ王子と人魚姫リラを乗せたファフのドラゴンが南北に延びる山岳の上空を飛ぶ。
山岳の上は、見渡す限りの氷河が続く氷の大地。西の彼方に海が見えた。
「細長く続くフィヨルドの入り江・・・かぁ」とエンリ王子。
「あれがそうじゃないでしょうか」とリラは筆談の紙に・・・。
その海岸線を見て、エンリは「本当に細長い入り江なんだな」
そしてリラは筆談の紙に「けど王子様、フィヨルド、いっぱいありますけど、奥に槍を納めた洞窟のある入り江ってどれなんでしょうか」
果てしなく南北に続く海岸線は複雑に入り組み、細長い半島と細長い入り江が幾重にも交互に・・・。
「どうやって探しますか?」とリラは困り顔で筆談の紙に・・・。
エンリは海岸線の上空で頭を抱えて言った。
「どーすんだよ、これ」
とりあえず、情報を整理するエンリとリラ。
洞窟は入り江の奥。それを隠れ住むワルキューレが守っているという。
「洞窟に住んでいるのでしょうか」とリラは筆談の紙に・・・。
「洞窟は意外と冷えるから、ちゃんとした建物に住んでいると思う。つまり奥に家は建ってるけど、隠れ住むって事は、そこに村は無い」とエンリは言った。
「そういう場所を上空から探しましょう」とリラは筆談の紙に・・・。
上空を飛ぶが、条件に適う場所は、なかなか見つからない。
「そろそろ日が暮れますね」とリラは筆談の紙に・・・。
「ちょっと早くないか?」とエンリ王子。
「野宿するにはかなり寒いかと」とリラが筆談の紙に・・・。
「こんな所で凍死は嫌だ」とエンリは困り顔。
その時、リラは何かを見つけた。
そして「王子様、人が居ます」と筆談の紙に・・・。
多数のトナカイの群れと、それを引き連れた遊牧民たち。
「サーミ人だな 降りよう。情報収集だ」とエンリ王子。
遊牧民たちと話をつけ、一夜の宿を借りた。
遊牧民のテントで薪は貴重だ。毛皮の防寒具で暖をとる。
「ドイツの方から来なさったのですかな?」と遊牧民。
「もっと南からです」とエンリ王子。
「教会の方から・・・じゃないですよね?」と遊牧民。
「彼らと対立・・・ってまさか、ここにも異教徒狩りですか?」とエンリは顔を曇らせる。
遊牧門は「いえね、以前も度々、"教会の方"から来たって方から、変な物を売り付けられまして」
エンリは「変な物って壺とか消火器とか?」
「これがあれば天国に行けるとか言われて、紙切れを」と遊牧民。
一枚の印刷した紙きれを見せる遊牧民。
それを見てエンリは「免罪符だな。あの詐欺商法の奴等、こんな所まで」
「とにかくお腹、空きません? これから夕食ですが、召し上がりますか?」と遊牧民。
「頂きます」とエンリ王子。
器に盛った何かを出される。
「これは」と尋ねるエンリ。
「トナカイの肉です」と遊牧民。
エンリは「生肉ですよね?」
遊牧民は「ここでは薪は貴重ですし、生で食べると病気にならないのですよ」
食べると意外と美味い。
「いけますね。癖が無いっていうか」とエンリ。
「乳製品も美味しいですよ」と遊牧民。
エンリは器に注がれた乳を勧められる。
一口飲んでエンリは「これは美味い。コクがあるというか」
「寒くて不毛な大地と人は言いますが、ノルマンの神はちゃんと恵みを授けてくれます」と遊牧民。
エンリは「けどここ、随分と日暮れが早いですね」と言った。
「早いですよ。もう少し北に行くと、冬至には一日中日が昇らず夜が続くのです。逆に夏には日が沈まない日もありましてね」と遊牧民。
「世界にはいろんな不思議があるんですね」とエンリ。
そしてエンリ王子は話を切り出す。
「ところで、グングニルの槍って知ってますか?」
「さあ」と遊牧民は首を傾げる。
「ワルキューレが守っていると言うんですが」とエンリ。
「もしかして、あの人達かなぁ」と遊牧民の母親が父親に・・・。
エンリは「神様の娘で天駈ける戦乙女だって言うんですが」
遊牧民家族は爆笑した。
「乙女だってさ」と遊牧民の父親の息子らしい若者。
「居るんですね、中二病の人って」と遊牧民の母親も。
エンリは顔を赤くして「いや、そう言われて来ただけなんで、我々も別に信じている訳じゃ・・・」
「ここのフィヨルドの二つ向こうの入り江の奥に居ますよ」と遊牧民の父親が言った。
翌朝早く、エンリはお礼の銀貨を渡してテントを後にした。
ドラゴンの背から地上を探る。
二つ向こうの入り江の奥の小規模な平野に一軒の家が見えた。
「あれだな」とエンリ王子は言って、ドラゴンを降下させる。
近くに降り立つと三人の女性が見えた。
白いドレスに胸部を覆う小さな鎧と肩当て。羽根型の飾りのついた兜をかぶって剣を帯びた、いずれもかつては美しかった・・・かも知れない老婆が、剣を抜いて身構える。
「ここは王より守護を任された聖地です。命が惜しくば引き返しなさい」と老婆の一人は言った。
エンリ王子は彼女に「あなた方がワルキューレですね? 我々はそのノルマン王グスタフ殿下から依頼されて、グングニルの槍を受け取りに来ました」
三人の老婆の表情に喜びが浮かぶ。
一人の老婆が「グスタフ様が?」
もう一人の老婆が「今、あの方は何処に」
「ドイツ皇帝軍との闘いに備えて、その槍が必要だと言われて来たのです」とエンリ王子。
「解りました。ご案内します」
そう言って、彼女たちの一人が家の中に呼び掛けると、九人のワルキューレ・・・と称する老婆が出て来る。
その一人が言った。
「全員で祈りを捧げて結界を解く事で、槍は持ち出す事が可能となります。こちらへ」
彼女たちはエンリ王子と人魚姫リラを、谷の崖面に口を開けた洞窟へと案内する。
洞窟に入る。その奥に魔法陣に守られたそれはあった。
「すごい魔力を感じます」と人魚姫リラは筆談の紙に・・・。
「やっぱり特別な力を持つ魔道具だったんだ」とエンリ。
「これがあれば皇帝軍に勝てるかも」とリラは筆談の紙に・・・。
「やっぱりこれが秘宝なのかも知れない」とエンリ。
12人のワルキューレが魔法陣を取り囲み、跪いて祈る。
古代語の呪文とともに魔法陣にいくつもの古代文字が浮かび、そして消えた。
ワルキューレの一人が言った。
「儀式は終わりました。これで槍は使用可能です」
だが、リラは残念そうな顔で「あの、魔力、消えちゃったんですけど」と筆談の紙に・・・。
「これを封印していた力ですので」とワルキューレたち。
魔法陣の中央の小さな祭壇に置かれた槍の前で、エンリはリラに訊ねる。
「槍自体に何か感じるか?」
リラは「何も・・・」
嬉しそうに槍を手に取るワルキューレに、エンリは訊ねた。
「この槍って何か特別な力ってあるんでしょうか?」
ワルキューレはドヤ顔で「もちろんです。これを見れば全てのノルマンの民は奮い立ち、屈強な戦士となって敵を退けます」
エンリ王子は思った。
(よーするに、単なる権威の象徴かよ)
そしてワルキューレたちに言った。
「とにかく、皇帝軍がいつ来るか解らない。我々はこれを持って王の所に戻ります」
するとワルキューレの一人が言った。
「私たちも連れて行って下さい。聖槍を守護する役目は終わりました。ここに居る意味はありません」
他のワルキューレも口々に・・・。
「グスタフ様に会いたい」
「お傍に居たい」
「40年も我慢したんです」
「戦乙女の技を今こそ」
「いや、乙女って年じゃ・・・」とエンリ王子は言うが・・・。
ワルキューレたちは口を揃えて「乙女です。私たち全員まだ処女なんですから」
エンリ王子は心の中で呟いた。
(あの爺さん、何て酷い事を)
そんなエンリにリラは筆談の紙を示した。
曰く「とにかく戻りましょう」
総勢14人を乗せてドラゴンは氷河の山脈を越えた




