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キノは〜ふ! Return  作者: 七月 夏喜
第3話 キノと芦川と偽りの恋人(後編)
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その15


「あれから琴葉ちゃん、先生のところへいつもお見舞いに行ってるんだって。精密検査も兼ねて、入院したみたい」

 コーヒーをキノに手渡しながら言った。

「そう」

 ソファーにいるキノの隣に座る。そのまま身体を預けてじっとしていた。

「付き添いみたいだって」

「そう」

「看護師さんに奥さんと間違われたんだって」

 一方的なマコの話し振りに、キノはふと気づく。

「ひょっとして琴葉ちゃん、先生に気があるのかも」

「そりゃ、いいんじゃない。お見合いした仲だし」

 マコの表情を見ずにコーヒーを一口飲んで頷いた。

「う、うん。まあね」

 何だか歯切れの悪い返事をしている。

「それでね、先生ね……」

 キノは彼女を凝視した。妙な声のトーンだ。その視線に気づいたマコはキノを見上げた。

「マコ、芦川は君の初恋の人だったから、それはいい。だけどそれは思い出、記憶の中だけに締まっておきなよ」

「別に、先生に、どうってこと無いよ……」

 複雑な表情を見れば、嘘とわかる。

「琴葉さんがどうするのか気になるの?」

「だ、だから、琴葉ちゃんも先生も応援するって、私は」

 キノは手を差しだしてマコの頬を軽く摘んだ。

「二人ともいい大人なんだから、二人に任せばいい」

「でも……」

 愚図る頬のもう片方も摘む。

「マコ、もう離してやれ。優しくされると気持ちが揺らぐ」

 そう言った途端、キノは頬から手を放し正面を向く。慌ててコーヒーを飲んだ。

「もともと芦川は過去の人だ……」

 目を合わそうとしないキノの横顔を見る。大きな澄んだ瞳が一点を見つめていた。その視線の先には教会での二人の結婚写真が飾ってある。

「でも、僕には過去じゃない。今までずっとマコだし、これからもずっとマコだ」

 マコの頬が紅潮し顔が緩む。瞳が光っていた。その優しさにも似た言葉に、耐えきれず視線を窓の外に移す。

「そっかぁ、そうだよね、キノ」

「そう……、だよ」

「キノの初恋の人だもんね、私」

 キノはマコの笑顔が堪らなく好きだ。そして誰にも渡したくない。

「でもずるい。初恋の人が奥さんって。二つも持ってるなんて」

 白い顔の頬は、マコ以上に赤く染まっている。

「だって……、そうなんだもん」

 マコは両手でその赤白い左右の頬を摘んだ。

「本当にずっと想ってるのね。私が芦川先生のことを考えていた時も、ずっと」

 キノも彼女の頬を摘んで、横に広げる。

「いじけながら、ずっとね。痛い奴だろ」

 思わず吹き出すマコだ。

「でも、夫婦になった」

 二人は互いに向き合って頬を摘み合っていた。

「なにすんのひょ、きにょ」

「まきょ、こひょ」

 次第に口角が広がっていく。


「あの、それは頬の筋肉を鍛えおられるのですか?」

 互いに摘んだまま、声のした方向に視線を移した。リビングに入ってきたフェイルは不思議な顔をしている。その後ろで亜紀那は、二人の行動とフェイルに苦笑した。

「もう、お二人様とも、可愛いんだから……」


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