30. 閑話 ボーイズトーク
三人称のSSです
「練習場酷いらしいな」
「あんな環境ではろくな鍛錬出来やしない。そういや、ヘルムルトも婚約したんだって?
「あー、黙っているとキツそうに見えたんだが、笑うと可愛らしくてまぁ良いかなと」
宮廷騎士見習いで皇城内の練習場で鍛錬出来るヘルムルトは、わざわざ黄色い悲鳴を聞かずに済むから余裕だ。
エリンは文官候補で剣術は護身術として嗜む程度だが、鍛錬したければ公爵家タウンハウス敷地内の護衛騎士達の鍛錬に混ざれば良いだけのことだ。エリンは宰相候補として早くも城に上がり宰相補佐の父に学ぶため、学園には通学している。
「毎日鍛錬したいところだが、皇城の執務があるから中々思うように時間が取れない。書類の全てを学園内の執務室に持ち込めれば良いのだが秘匿性の高いものもあって上手く行かないのが腹立たしい」
「殿下はそれでも空き時間を作っては鍛錬していると聞きますよ。侍従が体調を心配されていましたからね」
「そんな無理はしていない」
皇太子とジルアーティーも皇城での仕事の合間に宮廷騎士達の鍛錬に混ざって汗を流している。もっとも、ジルアーティーは別途冒険者活動も行なっているが、早くも宮廷魔術師見習いとして勤めていることもあって、本業は魔術師であり騎士ではない。
「お二人はどうなんです?将軍閣下に稽古をつけてもらったりするには通いの方が良さそうですが、あまりお帰りになりませんよね」
「前に言わなかったっけ?ああ、あん時パトリック居なかったか。俺らは幼少期から帝都の別邸で暮らしているから、邸の護衛騎士達の練習に混ざるくらいだね」
「ええっ!直接指導してもらえないのですか?帝国騎士団にも引退後は全く関わる事無く指導すらしてないらしいですし、怪我でもしてるのですか?」
「いやー……仮にもあの人が動けないってなると、西の砦の脅威が薄れて抑止力無くなるから機密だろ。実際元気だから大丈夫だがな。 流石に自分の所の私兵の訓練は見てるし、指導もしてるらしいよ」
パトリック・オランドは伯爵家嫡男で皇太子の乳姉妹だ。母親は続けて教育係も務めている。
英雄夫婦のルナヴァイン公爵家の双子は学園に入って寮暮らしのため、益々親からの指導を受ける機会がないが、それを気にしていないようだ。
「それより、ジーンが妹に決闘申し込みに行ったのには驚いたな!」
「リンデーン様それはもう勘弁してください……」
「妹がか弱いかは置いとくとして、あの場でよくやったな! 一度ぶちのめされても楽しそうだと思って成り行きを見守ってしまったね」
「フィンネル様?そのぶちのめされるって、どちらのことでしょう」
「ははっ、どっちだろうなー」
実のところ、上位貴族は学園の練習場を使う必要が無い。寮に入っている者も、帝都内の別邸を皇城に近い一等地に構えているため、学園からも遠く無いのだ。学園の練習場が使えれば時間の有効利用が出来るものの、姦しくて鍛錬にならないし煩わしさの方が勝ってしまう。
基本的に上級者に有利な試合であるが、今年は二年生から上位入賞者が出るのではないかと期待がかかっている。