26. 悪役令嬢、出生の秘密が少し残念なことを知る
近親的な性的表現が苦手な方はブラバでお避けくださいm(__)m
ゲームのシナリオでは悪役令嬢の家族って冷淡だなぁと思っていたんだけど、意外とそうじゃないみたいだし、お母様からなら何か聞けるんじゃないの?
私の婚約の経緯は今後”婚約解消イベント”をなるべく穏便に済ませる為にはかなり重要な情報だと思う。
先ずは話の流れで自然に聞けるように誘導出来れば良いんだけど。
「成人の儀は誕生日に行うのでしょう? そんなに気合い入れて装っても、普段から社交に出ていない我が家の招待にどれだけ人が集まるのかしら?」
「本音を言えば領地の本邸で行いたいところですの。地元の教会を立てて洗礼式(魔力判定)を行うのが常識ですし、身内だけの温かいお祝いが良いわ。 結果によっては領を挙げて祝うのも素敵ね! 通常はそうあるべきですし何の問題も無いはずでしょう」
ん?本音?そうね、領地の本邸で行うのは普通なのよ。だからあまり派手に装っても無駄っていうかさ、魔力判定は教会だから厳かな場にそぐわない。我が家も公爵家の端くれだから嫡男のお祝いなら招待すれば多少無理してでもスケジュール調整してお祝いに来る貴族も居るかもしれないけど、帝国って広いのよ。
「でもね、マリは皇太子殿下の婚約者でしょう? それに時期も悪いわね、建国記念パーティーの2日後が貴女の誕生日なのですもの。 もちろん一度領地に帰る予定でいましたの。 で も ね!、あのクソ皇帝が皇宮の敷地内にある離宮の大広間で開催しろって言って来たのよ! そうなると洗礼式・魔力判定は当然神殿ね。 それはあまりに恐れ多いから領地の邸で行うと譲歩しても聞かないどころか、正式文書で勅命して来やがりましたの!!」
きゃーっ、お母様お言葉遣いがめちゃくちゃになっておりますわよ。美女の憤怒顔って迫力あって怖いのよ。背後に黒い煙が見えますよ、皇女さまってどんな教育を受けていらっしゃいますの。
「まぁ、お母様お怒りをお鎮めになって。 それにしても、まだ皇太子の婚約者でしかない、わたくしのために過分な特例を通そうとする意図が分からなくて怖いですわ。 わたくし皇帝に御目通りしたのは一度きりですのに」
それに皇太子との仲は最悪ですわよ。それは私の社交界デビューで周知の事実、暗黙の了解となった事だと思っていたのだけど? 皇帝は脳内御花畑なのか? それとも何とか挽回出来ると思っているのか?
お母様は一旦、深~いため息をして心を落ち着けたようだった。多分。
「ふふふ、本当はねぇ、マリが成人の儀を迎える前に教えておかなければいけないと思っていた事があるの……知りたい? 皇族の深淵を覗く覚悟はある? 知れば皇家の闇から逃れられなくなるかもしれないわ」
ごくり、と生唾を飲み込む、これこそが知りたかったことだと思うと共に、頭の中に警鐘が鳴る。
でも、お母様は知れば逃れられなくなると言ったけど、多分知らなくては私はゲームシナリオの決めた不幸から逃れることは出来ない。自由になる為には知る事が何よりも必要だ。
「お母様、わたくしはまだ子供です。 でも真実を知らずに、無知のまま愚を犯す事はしたく無いのです。 何も知らないという事はきっと幸せなのでしょう、でも状況次第で愚か者に成り下がる。 皇太子殿下の婚約者ではありますが、高位貴族の娘としても、都合のいい部分だけ見ている訳にいかないことぐらい覚悟しておりますわ。 成人の儀や社交界デビューなど関係ありません。既に学園においても、わたくしが子供でいることを許してもらえる環境では無いのです」
これは全くの真実だ。私が”悪役令嬢”になるのはヒロインが来てからだと思っていたけど、シナリオは徐々に変わりながらも、既に来るべき舞台の準備を始めているのではないか、そう思わせられることが多々あるのだ。
「そう、なるべく事実を淡々と話すつもりだけど、無理だったらお言いなさい」
私はお母様の金に輝く瞳を見つめながら頷いた。
「200年前まで、ここスウィテ・セレナ帝国に限らず、王家や高位貴族になればなるほど純血主義という忌まわしい思想が蔓延っていたわ。 従姉妹であればまだましな方ね、当時は異母兄弟でも許されていたし、闇に隠された部分ではもっとおぞましい婚姻関係もあったというわ。 表向きは子の出来なかった正妃の子として記録されているけれど。 でもそのうち、王族、高位貴族に子が出来難い現象は加速して行き、王家では国によって側妃や後宮を充てがうという対策を取り始めたわ。目論見は当たり、純血から遠いほど出生率が高く、側近達は、お飾りの正妃に他の女に産ませた王子を育てさせ何とか体面を保つことに腐心した。 それほど純血主義は根強かったの。 王家始祖の優秀な血をどうしても残したい、特に勇者、聖女、賢者など建国に英雄が関わっている王家は顕著だった。
ところが100年ほど前、遂に奇形や精神異常を抱えた子が生まれ始めたわ、それも複数の血族で。 それは歴史の闇に封印された。 と、まぁ、ここまではこの大陸、と言うより世界で起きたことで、その後の道筋はそれぞれの国家での対応に違いがあるのよ。」
「お母様。わたくしでも血が濃すぎると良く無いのは知っているわ。 我が家もかなり危ないわよね」
「あら、中々お勉強も頑張っているのね。 我が家については置いておいて、帝国に関係あるのはここから。この帝国の皇家は出生率はそれほど下がらなかったわ。純血主義は根強かったものの、中には思いがけないロマンスなんて恋愛結婚もあってね。帝国は広いから貴族であっても低位貴族とは血の繋がりがないのよ。 もちろん反対はあったそうだけど、皇家の血に連なるものは強欲でね……欲しいものを手にする時、手段を選ばない傾向にあるの。
お祖母様からの話は聞いたわよね。とても微笑ましいお話だったけど、実際はとても強引な手段を使っているのよ。 帝国は周辺国に阿る必要は無いから他国からの縁談は幸い蹴り飛ばせたのだけど、第三皇女ともなれば降嫁させるよりも、皇宮敷地内にある神殿に巫女として入った方が良いのではないか、ということになって、巫女としての才のあったお祖母様は八歳から神殿で教育を受けるようになり、幼馴染といえど姿を垣間見ることすら出来なくなったの。実質幽閉ね。 社交界デビューすら出来なくなったわ。でも諦めきれなかった第三皇女は、成人の儀を利用して、当時騎士として場内警備に駆り出されていた先代を見つけ出して駆け落ちしたのよ。」
お祖母様の話も大変興味があるのだけど、肝心なところがすっ飛ばされた気がするのは気のせいかしら?
「ええっ、事前の打ち合わせ無しの杜撰な計画にお爺様が乗ったのですか?」
(あの厳格なお爺様に限ってありえなーい、恋って盲目なの?)
「若気の至りよ、そこは察してあげてちょうだい。 そして私よ。 どうしてか私もルナヴァイン家の嫡男に惹かれてしまったの! わたくしの場合も一悶着あったのだけど、そもそも皇帝は皇女を降嫁させるつもりなんてなかったわ。神殿に姫巫女として幽閉する気だったのよ。 お父様、先の皇帝が選定した降嫁先候補者達はとてもイケメン揃いで、正直誰でも良いと思ったわ。 でもね、降嫁させ無い方向に行きそうな雲行きになって来たのよ。で、その後はまぁ、なるべくして収まったと言うわけ、なんだけど、ごめんなさいね。」
「?」
今ざっくりと端折ったよね?そこ肝心な所じゃないのかしら?
「わたくしの降嫁条件として、公女が生まれたら皇家と婚姻させるようにと誓約させられたの。 わたくしはね、うっかりマリを授かって嬉しかったわ。 でも旦那様はまるで生贄のように皇家に取られる貴女を気の毒に思うあまり上手く感情表現出来ないの。 本来なら皇太子の婚約者なんて名誉なことだと思うでしょうけど、そう思わない人もいるってことを私達は知っているから。 それに皇帝の執着が怖いの、デビュタントの謁見の時に気がつかなかったかしら?私は背筋が凍るほど怖かったわ。 いえ考えすぎだと良いのだけど、とにかく皇帝は危険だと母としての勘が知らせるのよ」
「……お母様、もしかしてと思っていましたけど、双子の兄と、わたくしの誕生日が7日違いなのって、産後でまだ生理が始まらないと思ってうっかり避妊し忘れたからなのですね。」
お母様の頬がほんのちょっとだけ赤く染まったのを私は見逃さなかったわよ!でも、そのうっかりが無ければ私は生まれて来れなかった訳で、複雑だわ。
「女の子を授かったことは嬉しかったわよ? コホンっ話が膨らんで脱線したけど、ルナヴァイン家としては、皇家に嫁にやりたく無いのが本意なのよ、純血主義反対派の意見として、何よりも親としてね」
「純血主義反対派なのはルナヴァイン家よね?」
「そうね、わたくしは貴女が幸せになるのならどこに嫁ごうが反対しないわ。 でも皇家では幸せになれない。 貴女は物心つく前から嫌がっている、本能で嫌がっているの。 これでも母親なの、分かっているつもりよ」
(そだねー、皇太子の婚約者になったら通常通りなら幽閉、非常事態が起これば処刑の可能性もある。他の隠しルートの皇子達だって恐怖の対象だからね)
「つまり、お母様は、皇太子との婚約が仮に破棄されても怒らないでいてくださるのね」
「ええ、対外的に手を打つことは必要になると思うわ、でもどうせ社交界になんて未練無いでしょう?」
ほー、もしかして幽閉ルートは娘を守るための策なのか? 修道院じゃ無いのは温情で、城塞がちょうど良い落とし所だったと? ゲームシナリオではそれでも重いと思ったけど、もしかしたらその後待遇改善されてたのかもしれない。
今回は私が快適な屋根裏部屋にするから、幽閉と言っても自宅謹慎くらいの感覚になるけどね。
重要な事は、私と皇太子の婚約は、お母様のロマンス結婚の代償であって、ルナヴァイン家に決定権は無かったということだ。円満に婚約解消するのは非常に難しいだろう。
本当の敵は皇帝かぁ……私と皇太子は従兄妹なのだけど、とにかく血が濃くて殆ど兄妹のようなものなのだ。純血主義故の執着ならば、皇太子との”婚約破棄イベント”を上手く乗り切っても、自由になれるとは限らないし、逆恨みの”断罪イベント”が付いて来る可能性だって高い気がする。
悪役令嬢の悲劇と言えば、婚約破棄されたと瑕疵の付いたことで、親よりも年上のロリ爺の後妻にされるとかもあったなぁ。私の場合それは無さそうだけど、別の皇子を充てがわれる可能性があるのか。お母様は皇帝も警戒しているようだけど、叔父と姪は無いよなぁ、大昔はともかく今は禁忌だ。
それにしても、ルナヴァイン家は純血主義反対派の割にここ三代連続で皇女の降嫁が続いているこの矛盾。過去にも皇女の降嫁が続いている時期があるし、他家に比べてダントツに多いのに遺伝子異常が出て居ないのが不思議なんだけど、その辺はお母様は知らないのかしら?それともとぼけた?
いや、女児の出生率が低いのは立派な異常だわ。
あー、ヤバい。思いの外気持ち悪い話聞いたから、どこかに行って新鮮な空気吸いたい。




