22. 悪役令嬢、やっと魔法の基礎を学び始める
今回はお勉強回なので説明やモノローグだらけで話し進みませんm(__)m
背中が痛い。南側の明かり取り窓から上りきった太陽が見える。
「うえっ、もうお昼か……その場で寝落ちして5時間は眠りこけてたのね」
ダミールームのフローリングにそのまま仰向けでゴロンしたせいで、体は痛いけど頭はスッキリしたみたい。
さっきステータス画面見た時はSPがレッドラインになってた。
HPはあっても考える力が低いと体が重くなるし、SPが一定ラインを下回り、集中力が著しく低下した状態では魔法も使えない。
これから気をつけなくちゃ!それにしてもお腹が空いた、そう言えば朝から何も食べてない、元々朝の一仕事してから食べるつもりだったのに、その一仕事が思いの外重たかったのだ。食べるより寝る、を選択するほどに。
先日作ったがま口ポーチに入れて来た軽食を取り出して食べ始める。調理したのは昨晩だが作りたてのようにパンの表面はサクッとして中はふんわりしている。中にはルッコラ、レーシーレタス、フライパンで火を通したジューシなベーコン、トマト、とろけたチーズが入ったクラブハウスサンド風サンドイッチ。出汁巻卵、タコさんウィンナー、唐揚げ、デザートには冷やした桃のムース。
どうせなら寝る前に食べた方が良かったろうに、睡眠欲には勝てなかった己の未熟さを恥じた。
「お風呂に入ってリフレッシュを……」
あ、ダメだ、まだ浴槽買ってない、ベッドすらないのだ。
ってか作った方が良いのかな。素材がないから無理だ、浴槽はホーロー?素材集めは難しくないが作るのに精神力を要しそう、ヒノキなら梁と寝室にあるロフトの床材から育てて……うん、無理だね。
何はともあれ、今日はもう何も考えがまとまりそうにないから、脳に栄養が行き渡ったら転移魔法陣で帰って、心身ともに休まなくてはいけない。
転移魔法陣の隠し場所でもあるクローゼットに入ったついでに、少しばかり持って来た衣装類を収納する。
応急処置で【自己回復】をかけて床で寝た代償の痛みと疲れを癒し、転移魔法陣で帰って、ゆっくりパスタイムで散々こき使った精神力を癒した。
「大きく複雑な魔法ほどSPの消費が激しいから鍛えなくてはいけないわね。集中力を欠いたら魔法以外にも支障出るもの。でも鍛えるって、やっぱ滝行かしら?集中力を高めるなら座禅、瞑想……」
今日はもう一日分精神力、集中力を使った気がするから、あとは魔法関連の書物でも読みふけようかな。いや、そもそも集中力の無い時に本を読んでも頭に入らないけど手持ち無沙汰なのよ。集中力を欠く時に鍛錬なんて怪我の元だし。ふぅとため息をつく。気ばかりが急いても身に付かなければ意味が無い。そんなコトは分かっているのだけど、準備期間はそれほど長くない。気が付いたら手遅れになってしまっていては困るのだ。
侍女を呼び出してお茶の用意をお願いした、もちろんデザートスタンドはチョコレート多めで!
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魔法学は上級生からってずるいよね。
私は魔法の使い方をうちにいる使用人や騎士達に教えてもらってる。高位魔法の座標移動をやってみたのは前世でのゲーム、主にRPGからの知識で、本で読んで学んだわけではなくイメージによるものだ。今考えると恐ろしい、成功したから良いようなものの。
座学もやっぱりちゃんと習いたい。習いたいけど私は四年生にはなれない。
学園で魔法を教えて貰えるようになるのは四年生からなのだ。”婚約破棄イベント”は三年生の終わりまでには発生する。
魔法を習い始めるのが四年生からなのには理由がある。十五歳の誕生日に成人の儀と魔力判定が行われるからだ。
四年生の間に十五歳になるため魔法学の座学を習わせ始め、十五歳になった学生は魔法の実技授業を選択出来るようになり、素養が高ければ個別指導を受けることも可能になる。
ちなみに私が魔法を使えるのは非公式。天才魔導師なんて言っているのは身内だけ。十四歳で幽閉される私には成人の儀も魔力判定も行われない。
だから全属性使えることなど私自身が言わなければ生涯バレることはないってわけ。もちろん聖女の祝福を受けていることも。
家の者も進んで私のことを外に漏らすことはないだろう。幽閉後は一層口を噤むであろうことは想像に容易い。
さてさて、集中力を欠いてはいたけど、贅沢なおひとりさまティータイムをぼんやりと過ごした後、結局夕食までの時間が手持ち無沙汰で初級向けの魔法入門書を読んでいた。
今更感はあるが、私は座学をすっ飛ばして使用人から直接魔法を使うことから教えてもらい、それをそのまま身につけて使用していたのでなんら不便を感じたことはなかったのである。
生活や身の回りの世話に必要な魔法はイメージもしやすく、見たまま吸収していった。
領地護衛騎士達の剣の鍛錬に混ざっている内に、簡単な攻撃系や戦場で役立つ補助魔法系の使い方を学んだりもしていた。
マリノリアの魔術師としての素養が規格外であるために、周囲もそれを自然と受け入れてくれていた。
何があっても『あの英雄夫妻のお子様だから』で納得してしまうのである。
でも何事も基礎知識というものは必要だ、本に書かれている内容は魔法を教えてもらった時に簡単に説明や注意を受けた知識や体感で身につけている感覚と同じものが多く確認と復習をしているような内容が多かったが、それもまた重要な学びであることには違いない。
ステータス画面に見える範囲の情報の読み取り方に付いてはこんなところか。
HPは0になると行動不能になるからその前に回復や休息が必要になる。
MPは0になっても魔法が使えなくなるだけ。
SPはレッドラインで、魔法や行動にかなりの影響が出て来くる。すなわち瞬時の判断力、集中力。そして0になると精神耐性力にも影響を及ぼし精神耐性力の著しい低下を招くことにより様々な状態異常を受ける確率が非常に高くなる。
精神力鍛えるのって超大事じゃん!無尽蔵にある魔力を思う存分活用するには必要不可欠だってだけじゃないよねこれ!
状態異常にかかりやすくなるってあれか?『病は気から』ってやつか!この様々な、って何?
状態異常には大きく分けて2系統ある。
魔物が持つ状態異常付加、これはかかる確率がそれぞれあるが、受ける側の能力に因って回避率が変動する。
もう一つは人為的な成果物によるもの。これは厄介だが多くのものは能力の高さや感で回避出来る。
感というのは所謂第六感というやつで、日々の研鑽により磨かれる曖昧だけど必要不可欠なセンスだ。後は知識、人為的な状態異常を及ぼす成果物のことは総じて毒と呼ばれる物と呪いと呼ばれるものに大別される。過去の事例を頭に叩き込み、特徴、特性、解除方法を導き出す糧とする。
まぁ、大抵のものは魔法なら治癒、解呪、アイテムならポーション、万能薬で事足りる。
ただし万能薬は金貨10枚と超高額で、材料もレアなものが含まれている為、診療所や薬屋に行っても必ずしも手に入るとは限らないから、症状の分かっているものなら適切な対応薬で済ませる方がお安く済む。最後の手段で教会で買える聖水なんてモノもあるんだけど先ずお値段が金貨30枚!しかも中には薄めている教会もあって眉唾物となっている。本来の物は素晴らしい効果を持っているのにね。
それに、ステータス画面のリンク先情報から分かったのだけど、私に与えられた『祝福』の『聖女』は、状態異常高耐性と精神異常無効の強力な加護がある……。
これだけで十分【規格外】なんだけど、SPは(たぶん)人並みという落とし穴があったと、今回分かったのは大きな収穫だったと思うことにした。