18. 悪役令嬢、夏休みをどう満喫する?
短いです。
時が過ぎるのは早い。あっという間に夏休みがやって来た。皇都はそれほど季節ごとの寒暖差が地方よりも無いため夏と言っても朝から晩まで冷房が必要になるほど暑くは無い。
日本のような高温多湿で息をするだけで疲れるような湿気は無いし、日差しも若干やわらかい。
とは言っても、ここに住み慣れていると夏は暑くて辛く感じる。
それで学園の夏休みは盛夏を中心に二ヶ月もある。
「マリーは夏休みをどう過ごしますの?」
「そうね、領地はそれほど離れていないのだけど、帝都よりは涼しい風が吹いて過ごしやすいから領地に帰ることにしているわ。みなさまはどうしますの?」
よくランチをご一緒するご令嬢方とはファーストネームや愛称で呼び合う仲になっていた。こうなると入学前は何の期待もしていなかった学園生活も楽しいものになっていた。
「わたくしも領地に帰りますわ。夏はちょうど避暑地として観光シーズンだから、避暑地ならではの社交シーズンでもあるのよ」
ロサこと、バーバラ・ルキタニス嬢は北の辺境伯令嬢。国境に面しているため領地は広いが、険しい山林が多く冬は深い雪に閉ざされてしまう土地が多い。その分涼しく過ごしやすい夏は書き入れ時でもある。
皇家が避暑用の別荘を所有している場所でもある。今年は半月ほど過ごすらしいから、きっと例年よりも賑やかな社交シーズンになることだろう。
実はうちも皇帝から誘われたが丁重にお断りした。
うちは自領の領地経営が第一なのである。
「わたくし海辺の別荘に行きますのよ。外は暑いけど景色はいいし、何と言っても海がロマンチックで素敵ですわ。何処かに運命的な出会いが転がってないかしら」
リアこと、リディア・アイザック嬢は侯爵家の跡取り娘。ただいま婿絶賛募集中らしい。
他に妹が二人いるのだけど、どうなることやら。
「わたくしは帝都のタウンハウスで我慢しますわ。夏の領地なんて行けたものでは無いわ!わたくし日焼け止めが肌に合わなくて大変な思いをしますのよ。家から一歩も出ないなら、わざわざ辛い馬車の旅を二週間以上もする必要性を感じませんもの」
ディナこと。タナディアナ・ローザナス嬢は南の辺境伯令嬢。
きれいな砂浜、豊かな漁場と森に囲まれた場所で、イメージは何故かハワイだ。
シナリオのイベントにも出てきた土地で、確かエリンルートだった。
夏休みも終わる頃に、皇都に向けて馬車を走らせていたらヒロインの乗った辻馬車が車輪故障して、そこを偶然通りかかったエリンの乗ったスチュワート公爵家の馬車が通りかかって、ヒロインを同乗させたら、ちょっとしたハプニングが発生して好感度が一気に上がるのよ。
所謂”ラッキースケベイベント”というものらしい。
この程度で好きになっちゃうとか単純で良いなぁ。
現実はそう簡単にはいかないよね。
「わたくしも領地が帝都よりは比較的涼しいので、領地で過ごすことが多くなりそうですわ」
リリーこと、アマリリス・ラキランス嬢は伯爵家でも有数の資産家。領地も豊かだけど、代々当主の領地経営によって商業が盛ん。
領地経営第一の家柄だという点はうちに共通するわ。武家と商家の違いくらいね。
ただ商業が盛んなだけあって、ラキランス領の騎士団も優秀だと噂に聞く。
帝国内は他国に比べて治安が良いと言うけれど、それでもたまには魔物や盗賊も出るから、護衛がしっかりしてないと安心して商売出来ないってことなのね。
あとはそれぞれどんな過ごし方をしたいとか、他にもこんなところに行きたいだとか、色々な話で盛り上がって、午後には終業式が行われてそれぞれ帰路についた。