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 第348話 決断

 守るために、手放す。


 それは、矛盾しているようで。


 実は、一番、確かな、守り方だった。

 評議会の間。


 朝。


 テーブルの上に、書類の束が、並べられていた。


──────────────────────────────────────


 バルドが、一つずつ、確認していく。


「領地運営の、印章」


「こちらに」


 ヒコは、静かに、印章を、バルドへ、渡した。


「税務の、決裁権」


「こちらも」


 ヒコは、次の、書類に、署名した。


──────────────────────────────────────


 部門ごとの、運営権限が、一つずつ、確認され。


 バルドを、中心とした、評議会の、合議の下へ。


 移されていく。


──────────────────────────────────────


「騎士団の、指揮権は」


 バルドが、確認する。


「引き続き」


 アーヴィンが、答えた。


「私が」


「評議会の、監督の下で」


「担当します」


──────────────────────────────────────


「魔法兵団も」


 リアが、続けた。


「同様です」


──────────────────────────────────────


 ゴルフが、最後の、書類を、差し出した。


「これで」


「主要な、権限移譲は」


「全て」


「完了です」


──────────────────────────────────────


 バルドが、その、書類の束を、見つめた。


「思ったより」


「あっさり」


「終わりましたね」


「はい」


 ヒコは、頷いた。


「二年間」


「積み上げてきた、仕組みが」


「あったからです」


──────────────────────────────────────


 ドガンが、口を、開いた。


「これで」


「正式に」


「決まった、な」


「はい」


 ヒコは、答えた。


「フォルテス卿の」


「称号は」


「引き続き」


「私が」


「保持します」


「ですが」


「日常の、判断は」


「皆さんに」


「委ねます」


──────────────────────────────────────


 バルドが、静かに、頷いた。


「承知、しました」


「大きな、危機の際には」


「改めて」


「ご相談を」


「させて、いただきます」


「はい」


 ヒコは、頷いた。


「いつでも」


「呼んで、ください」


──────────────────────────────────────


 手続きが、一通り、終わった、後。


 ヒコは、静かに、告げた。


「私は」


「これから」


「一人の」


「冒険者として」


「動こうと」


「思っています」


──────────────────────────────────────


 評議会の、皆が、静かに、その、言葉を、聞いていた。


「南方廃址の、暴走」


 ヒコは、続けた。


「弾劾請求の、背後」


「そして」


「まだ、姿を、見せない」


「誰か」


「その、全てに」


「向き合うには」


「領主という、立場では」


「動きにくい」


「そう」


「感じています」


──────────────────────────────────────


「爵位を」


 ヒコは、続けた。


「手放す、わけでは、ありません」


「ただ」


「もっと」


「自由に」


「動ける、立場で」


「この地に」


「関わり続けたいと」


「思っています」


──────────────────────────────────────


 マユミが、静かに、ヒコの、隣に、立った。


「私も」


「一緒に、行きます」


──────────────────────────────────────


 その、言葉に、誰も、驚かなかった。


 すでに、皆、分かっていた、ことだった。


──────────────────────────────────────


 ドガンが、頷いた。


「行ってこい」


「ここは」


「任せておけ」


──────────────────────────────────────


 バルドも、深く、頭を、下げた。


「行ってらっしゃいませ」


「ヒコ様」


──────────────────────────────────────


 会議が、終わり。


 評議会の間を、後にする時。


 ヒコは、扉の前で、一度、振り返った。


──────────────────────────────────────


 この、部屋で。


 多くのことを、決めてきた。


 多くのことを、学んだ。


 多くの、人と、出会った。


──────────────────────────────────────


 だが、今は。


 その、全てを。


 次の、担い手へ。


 託す時だった。


──────────────────────────────────────


 外に、出ると。


 冬の、澄んだ、空気が、頬を、撫でた。


 ヒコは、《可視化》で、最後に、もう一度、フォルテス領の、全体を、見渡した。


──────────────────────────────────────


 人の、流れ。


 物の、流れ。


 情報の、流れ。


 その、どれもが。


 もう、自分一人の、目に、頼ることなく。


 多くの、目によって。


 支えられている。


──────────────────────────────────────


 守るために、この地に、留まった。


 そして、今。


 守るために、この地を、離れる。


 矛盾しているようで。


 これ以上ない、ほど。


 筋の、通った、答えだった。


──────────────────────────────────────


 一人で、抱え込むことが。


 守ることだと、思っていた。


 だが、本当の、守り方は。


 自分が、いなくなっても。


 揺るがない、仕組みを。


 残すことだった。


──────────────────────────────────────


 守るために、手放す。


 それは、矛盾しているようで。


 実は、一番、確かな、守り方だった。


 ヒコは、静かに、その、答えを、胸に、刻んだ。


 そして、マユミと、共に。


 新しい、道へと、歩き出した。


 第348話 決断 了

【次回予告】決断と喪失(完結)。

 辺境領主編、完結。


──────────────────────────────────────


【領地収支・第348話時点】


・所持金:金貨4900枚(変動なし)


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第348話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:94%(変動なし)

・インフラ:105%(変動なし)

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