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 第156話 直接の接触

 影から出てくる敵は、何かを諦めたか、何かを決めたかのどちらかだ。


 どちらにしても、相手が次の段階に入った、ということだ。


 ――見えるようになった敵は、読みやすい。ただし、油断はできない。

 芽吹月、十八日。


 ゴルフがランデルから帰ってきた。


 顔が、いつもと少し違った。


 慌てている顔ではなかった。


 ただし、軽い話でもなさそうだった。


「報告があります」


「聞かせてください」


 ゴルフが椅子に座った。


「ベルン商会の人間が、私に直接接触してきました」


──────────────────────────────────────


「どういう接触でしたか」


「ランデルの宿で、声をかけられました。ベルン商会の中堅どころの人間でした」


「目的は何でしたか」


「二つありました」


 ゴルフが手帳を開いた。


「一つ目。フォルテス領との取引を、ベルン商会経由にしてほしい、という提案です」


「ベルン商会を通せということですか」


「そういうことです。取引先の選定から輸送まで、ベルン商会が一括管理できる、という話でした」


「断りましたか」


「断りました。ただし、丁寧に断りました」


「二つ目は」


「フォルテス領との取引をやめれば、ランデルでの取引に便宜を図る、という話です」


「取引先への工作ですか」


「そういうことです」


 ゴルフが手帳を閉じた。


「どちらも、断りました」


──────────────────────────────────────


「断り方を教えてください」


「一つ目は『現在の体制で問題ありません。ご提案に感謝します』と言いました」


「感謝を入れたんですか」


「敵意を見せると、相手が警戒します。断るときほど、感情を見せない方がいい」


「二つ目は」


「『取引先との関係は、私の判断で決めます』と言いました。それだけです」


 ゴルフが静かに言った。


「相手の目的が、はっきり分かりました」


「どういう目的ですか」


「フォルテス領の物流を、ベルン商会の管理下に置きたい。管理できなければ、孤立させたい。その二択です」


「管理か、孤立か」


「今回は管理を試みた。失敗したから、次は孤立を試みる可能性があります」


──────────────────────────────────────


 ミルヴァを呼んだ。


 ゴルフの報告を伝えた。


「ベルン商会が直接動いてきた」


 ミルヴァが短く言った。


「予測していた」


「いつ動くと思っていましたか」


「もう少し先だと思っていた。ただし、刻印と商隊来訪が重なって、焦ったのかもしれない」


「焦った、というのは」


「フォルテス領の信用が、自分たちの想定より早く積み上がっている。だから、先手を打った」


「こちらの対応は変えますか」


 ミルヴァが少し考えた。


「変えない。ただし、記録は残す」


「どういう記録ですか」


「今回の接触の内容。日時・場所・相手の名前・発言内容。全部記録する」


「何のためですか」


「証拠だ。今は使わない。ただし、使える形にして残す」


──────────────────────────────────────


「ゴルフさんに確認します」


 俺が言った。


「今回の接触で、向こうの目的は分かりました。こちらの対応方針は」


「変えません」


 ゴルフが即座に言った。


「動きを変えると、警戒していることが伝わります。今は普通に進める。その方が向こうも動きにくい」


「取引先への影響はありますか」


「ヴァン商会への接触があったかもしれません。次に会ったときに確認します」


「ヴァン商会が動揺していたら」


「刻印の記録と取引の実績を見せます。本物かどうかは、実績が証明します」


 ゴルフが静かに言った。


「ベルン商会は、こちらが信用を積んでいる間は、動きにくい。信用を積み続けることが、最大の対抗手段です」


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 芽吹月十八日。ベルン商会がゴルフに直接接触。


 内容一:取引をベルン商会経由にする提案。断った(丁重に)。


 内容二:取引先に便宜を図る条件でフォルテス領との取引停止を求めた。断った。


 相手の目的:フォルテス領の物流を管理下に置くか、孤立させるか。


 ミルヴァ:記録を積む。証拠として保持。対応方針は変えない。


 ゴルフ:対応方針変えない。信用を積み続けることが最大の対抗手段。


 ペンを置いた。


 ベルン商会が動いた。


 影から出てきた。


 見えるようになった。


 見えない脅威より、見える脅威の方が対処しやすかった。


 ただし、次の手が来る。


 管理を試みた。


 失敗したから、次は孤立を試みる。


 ゴルフがそう言った。


 それまでに、信用を積む。


 孤立できないほど、繋がりを作る。


 それが、答えだった。


 ――敵が動いた後に、こちらがどれだけ繋がっているか。それが勝負だ。


 窓の外に月があった。


 芽吹月の月だった。


 フォルテス領の夜は、静かだった。



 第156話 直接の接触 了

【次回・第157話 予告】


 コリンが「師匠の死因について、分かったことがあります」と言ってきた。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨257枚前後(変動なし)


【発展進捗・第156話時点】


・防衛  :100%(変化なし)

・食料  :98%(変化なし)

・水   :90%(変化なし)

・住居  :72%(変化なし)

・インフラ:98%(変化なし)


 今日の進捗:ベルン商会がゴルフに直接接触(取引ベルン商会経由の提案・取引先への工作)。ゴルフが丁重に断った。相手の目的:管理下に置くか孤立させるか。ミルヴァ:記録を積む・対応方針変えない。ゴルフ:信用を積み続けることが最大の対抗手段。定期討伐:なし(闇曜星・装備整備日)。

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