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 第154話 セリウスの決意

 人が場所を選ぶのではなく、場所が人を引き寄せる。


 場所が引き寄せるのは、その場所に何かがあるからだ。


 ――来る理由がある場所が、続く場所になる。

 芽吹月、十二日。


 朝、バルドが執務室に来た。


「手紙が届いている」


「誰からですか」


「セリウスという名前だ」


 俺は少し手を止めた。


 セリウスさんだった。


 二通目だった。


「開けてください」


 バルドが封を切った。


 紙を広げた。


 三枚あった。


 前回より多かった。


──────────────────────────────────────


 読んだ。


 最初の一枚は、アーゼルタウンの近況だった。


 前回より詳しかった。


 商業区の動き。冒険者ギルドの受注状況。近隣領地の話。


 二枚目に、王都の話があった。


 「辺境への関心が、以前とは質が変わってきています」。


 「商業的な関心だけではありません」。


 「私が聞いた限りでは、何人かの名前が出ています。フォルテス領と、その管理者の名前です」。


 フォルテス領と、その管理者の名前。


 俺の名前が、王都で出回り始めていた。


 三枚目に、本題があった。


 「アーゼルタウンの冒険者ギルドを、後任に引き渡す準備を始めました」。


 「時期は未定です。ただし、動き始めています」。


 「そちらに行く前に、一度顔を見せに行ける機会があるかもしれません」。


 末尾には、一行だけあった。


 「仕事は、何がありますか」。


──────────────────────────────────────


 アーヴィンに見せた。


 アーヴィンが読んだ。


 黙っていた。


「来る覚悟ができたということだ」


 短く言った。


「一通目と二通目で、何が変わりましたか」


「一通目は、こちらを確認していた。二通目は、自分の準備を報告している」


「それが、覚悟の違いですか」


「ああ」


 アーヴィンが紙を返した。


「セリウスさんは、決めた後は動く人間だ。動き始めたなら、止まらない」


──────────────────────────────────────


 返書を書いた。


 今回は、少し長くした。


 アーゼルタウンの近況への礼。


 王都での名前の件への確認。


 後任への引き渡し準備への言及。


 最後に二行加えた。


 「仕事は、あります。セリウスさんに向いた仕事が、具体的にあります」。


 「準備が整ったら、来てください。待っています」。


 バルドに渡した。


「次の商人便に乗せてください」


「分かりました」


 バルドが受け取った。


「ヒコさん」


「はい」


「今回は少し長い返書でしたね」


「一通目より、向こうの準備が進んでいました。こちらも、それに合わせました」


 バルドが少し頷いた。


「相手に合わせる、というのは」


「相手が一歩進んだら、こちらも一歩進む。それだけです」


 バルドが短く言った。


「なるほど」


 それだけだった。


──────────────────────────────────────


 昼過ぎ、ゴルフに話した。


「セリウスさんが、アーゼルタウンの冒険者ギルドの後任を探し始めました」


「来る準備が具体的になったということですね」


「そう読んでいます」


「冒険者ギルドのマスターが来るということは、フォルテス領に冒険者ギルドが設立されるということですか」


「その方向で考えています」


 ゴルフが少し間を置いた。


「それは、大きな話です」


「どういう意味ですか」


「冒険者ギルドがあると、外から冒険者が来ます。冒険者が来ると、周辺の情報が集まります。情報が集まると、物流も変わります」


 ゴルフが手帳を開いた。


「商業ギルドも、冒険者ギルドがある場所に集まります。ドガンさんが来るなら、その流れが加速します」


「フォルテス領が、拠点になるということですか」


「なり得ます」


 ゴルフが静かに言った。


「ただし、急ぎません。まず、セリウスさんに来てもらう。それが最初です」


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 芽吹月十二日。セリウスさんから二通目の書状。


 内容:アーゼルタウン近況・王都でヒコの名前が出回り始めている・冒険者ギルド後任への引き渡し準備開始。


 末尾:「仕事は、何がありますか」。


 アーヴィン見立て:来る覚悟ができた。動き始めたなら止まらない。


 返書:「仕事は、あります。準備が整ったら来てください。待っています」。


 ゴルフ:冒険者ギルドが設立されれば、外から冒険者・情報・商業が集まる。フォルテス領が拠点になり得る。


 ペンを置いた。


 セリウスさんが動き始めた。


 ドガンさんも動き始めていた。


 二人が来れば、フォルテス領が変わる。


 アーヴィンが「戦える領地になる」と言った。


 ゴルフが「拠点になり得る」と言った。


 二人の言葉が、同じ場所を指していた。


 ただし、今は待つ段階だった。


 準備が整ったとき、来る。


 その言葉を信じた。


 ――来ることを信じて待つのと、来ることを期待して待つのは、違う。


 窓の外に月があった。


 芽吹月の月だった。


 フォルテス領の夜は、静かだった。



──────────────────────────────────────


エピローグ


 ゾルドは、縦穴の底にいた。


 夜だった。


 作業は終わっていた。


 ただし、上がる前に少し止まった。


 いつもの習慣だった。


 石に手を当てた。


 温かかった。


 生き物の温度だった。


 最初にここに触れたとき、驚いた。


 石は冷たいものだった。


 ここは、違った。


 今は驚かなかった。


 慣れた、ということではなかった。


 正確に言えば、知った、ということだった。


 この石が何なのか、まだ全部は分からなかった。


 ただし、敵ではないことは分かった。


 ゾルドは手を離した。


 上を見た。


 縦穴の口から、月が見えた。


 遠かった。


 深いところにいる、ということだった。


 ゾルドは上がり始めた。


 明日も、ここに来る。


 石の声を聞く。


 取れやすい方向に、石を選ぶ。


 それだけだった。


 それが、自分の仕事だった。


 変わっていく場所の、底を支える仕事だった。



 第154話 セリウスの決意 了

【次回・第155話 予告】


 守る側の問題が、表に出てきた。

 アーヴィンが「今の五人では回しきれない」と言った。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨257枚前後(変動なし)


【発展進捗・第154話時点】


・防衛  :100%(変化なし)

・食料  :98%(変化なし)

・水   :90%(変化なし)

・住居  :72%(変化なし)

・インフラ:98%(変化なし)


 今日の進捗:セリウスから二通目の書状(冒険者ギルド後任引き渡し準備開始・「仕事は何がありますか」)。アーヴィン「来る覚悟ができた」。返書送付(「仕事はあります。待っています」)。ゴルフ:冒険者ギルド設立でフォルテス領が拠点になり得ると分析。エピローグ:ゾルド視点収録。定期討伐:なし(闇曜星・装備整備日)。

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