第60話 騎士団の名前
組織には、名前が必要だ。
名前が付いた瞬間、組織は形になる。
形が生まれれば、誇りが宿る。
誇りがなければ、人は続かない。
――名前は、組織の始まりだ。
三つの記録の照合が、始まって四日が経った。
ルーカス・タウルス・リア・ゼドが、毎日席を並べていた。
コリンが補助に入った。
広場の端に、記録が広げられていた。
俺は時々覗いた。
ただし、入らなかった。
あの席で動けるのは、専門の知識を持つ者だけだった。
現場には、役割がある。
俺の役割は、別にあった。
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朝、アーヴィンが来た。
「騎士団の候補者の名前を持ってきた」
「聞かせてください」
アーヴィンが短く言った。
「民兵から五名。リク、カイン、ドラン、それからトマとミーナだ」
俺は少し止まった。
「トマさんとミーナさんは、若い二人ですね」
「ああ。ただし、動きが良い。
伸びる。カインは経験がある」
「ドランさんは、門番長ですが」
「ドランは、指揮ができる。
長く務めた者の落ち着きがある」
「残りの五名は」
「村人から育てる。ただし、時間がかかる。
半年は見る必要がある」
「分かりました。五名から始めましょう。
体制が整い次第、次の五名を選んでいきます」
アーヴィンがうなずいた。
「もう一つある」
「何ですか」
「騎士団の名前を、決めた」
俺は少し止まった。
「どういう名前ですか」
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アーヴィンは少し間を置いた。
「星守騎士団」
静かな声だった。
「星守騎士団、ですか」
「この領地は、星見の地だ。
星を守る騎士団、という意味だ」
俺は少し考えた。
星見の地。
夜空がきれいな場所。
そこに暮らす人々を守る。
「良い名前だと思います。
なぜ、その名前にしたのですか」
アーヴィンは少し間を置いた。
「ここに来た最初の夜、星を見た。
戦場より、静かな空だった」
短く言った。
それだけだった。
ただし、それで十分だった。
「星守騎士団、採用します」
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昼、騎士団の発足式を行うことにした。
広場に、候補の五名が集まった。
リク・カイン・ドラン・トマ・ミーナだった。
バルドが端に立っていた。
エルナも来ていた。
エルドたちも、少し離れた場所から見ていた。
アーヴィンが前に出た。
「星守騎士団を、今日から始める。
最初は五名だ。
目的は、この地を守ることだ。
土地も、人も、全部含めてだ」
民兵が静かに聞いていた。
アーヴィンが続けた。
「強さだけが騎士団ではない。
判断できること。
仲間を見ていること。
現場で止まらないこと。
それが、この騎士団に求めることだ」
俺は《可視化》で五名の色を確認した。
緊張の色があった。
ただし、崩れていなかった。
覚悟の色が、その下にあった。
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アーヴィンが俺を見た。
俺が前に出た。
「星守騎士団の発足を、正式に宣言する。
アーヴィンを騎士団長に任命する」
アーヴィンが短くうなずいた。
「皆さんに一つだけお伝えします。
この騎士団は、俺が作ったものではありません。
アーヴィンさんが作ったものです。
俺は、必要なものを準備する役割です。
現場を動かすのは、皆さんです」
リクが少し動いた。
俺は《可視化》でリクの色を見た。
やる気の色だった。
ただし、昨日と少し違った。
方向が定まった色だった。
実戦を経て、名前をもらった。
それが、形になっていた。
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発足式の後、バルドが俺のそばに来た。
「良かった」
「何がですか」
「名前を付けたことだ。
民兵のままでは、ただの集まりだ。
騎士団になれば、守るべきものが変わる」
「どう変わりますか」
「自分が守っているという意識が、出てくる。
数字で動くのではなく、誇りで動くようになる」
バルドが短く言った。
「……アーヴィンは、よく分かっている」
「そうですね」
「ただし」
バルドが少し間を置いた。
「騎士団が強くなれば、頼りすぎる者が出る。
俺たちが自分で守れなくなる」
「それは、どういう意味ですか」
「騎士団がいるから安心、という空気が出てくると、
民が弱くなる。
それだけは、気をつけてほしい」
俺は少し考えた。
「どうすれば防げますか」
「民兵の訓練を、続けることだ。
騎士団とは別に、民が自分で動ける力を保っておく」
「分かりました。
アーヴィンさんに伝えます」
バルドが短くうなずいた。
バルドは、それだけ言って離れた。
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夕方、領主館の基礎工事が完了した。
ガッツが確認して回った。
「基礎、完了だ」
「上物の着工はいつですか」
「明日から入れる。
石材は河床石で先行する。
ランデルからの分が来たら、切り替える」
「段取りは、お任せします」
「ああ」
ガッツが短く言った。
現場が、次の段階に入った。
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夜、記録の照合チームから報告が来た。
ルーカスが俺のところに来た。
「一つ、分かったことがあります」
「どうぞ」
「三つの記録を照合した結果、
最新の装置設計に対応する無力化の手順が、見えてきました」
「完成しましたか」
「完成ではありません。ただし、七割程度は固まっています。
残りの三割は、実際に装置を見てから確認する必要があります」
「次に装置が来たとき、対応できますか」
「はい。以前よりずっと早く無力化できます。
サヤさんへの負担も、減ります」
「それは、大きな進展ですね」
「ただし、一つだけ問題があります」
「何ですか」
「装置を作っている者が、設計をさらに改良する可能性があります。
今の手順が、また通用しなくなるかもしれません」
「いたちごっことなる、ということですか」
「そうです。
設計が進化している以上、こちらも追いつき続ける必要があります」
ルーカスが少し間を置いた。
「根本的な解決は、装置を作っている源を断つことです」
源。
タナールの流れを汲む者の、本拠地。
「それは、南方にあると思いますか」
「おそらく。ただし、南方のどこかまでは、まだ分かりません」
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眠る前に、俺は今日を整理した。
星守騎士団が発足した。
リク・カイン・ドラン・トマ・ミーナの五名が最初のメンバーだ。
領主館の基礎工事が完了した。
明日から上物の着工に入る。
記録の照合で、無力化手順の七割が固まった。
装置の源が南方にある可能性が高い。
一日で、複数の現場が動いた。
騎士団という形が生まれた。
建物の基礎が完成した。
研究が進んだ。
全部が、同じ方向に向いていた。
守るための形を、作っている。
――形が整えば、現場は動ける。
形が崩れる前に、次の形を作る。
それが、現場の仕事だ。
第60話 騎士団の名前 了
【次回予告】
領主館の上物着工が始まった。
ルーカスが、セルヴァンについて知っていることを話した。
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【領地収支】
・所持金 :金貨386枚(変化なし)
・収入 :なし
・支出 :なし
【発展進捗】
・防衛 :100%(星守騎士団発足・五名体制)
・食料 :88%(変化なし)
・水 :83%(変化なし)
・住居 :50%(領主館・基礎工事完了・上物着工へ)
・インフラ:58%(変化なし)
今日の進捗:星守騎士団発足。アーヴィンが騎士団長に就任。最初のメンバーはリク・カイン・ドラン・トマ・ミーナの五名。バルドが民兵訓練継続の重要性を指摘。領主館の基礎工事完了・明日から上物着工。記録照合チームが最新装置への無力化手順の七割を固める。装置の源が南方にある可能性が高いことをルーカスが示唆。




