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 第50話 設計図

 現場には、設計図がある。

 設計図通りに作れば、想定通りのものができる。


 ――元の世界でも、それは同じだった。


 ただし、設計図を悪用すれば、

 想定通りに壊せる。


 ――設計者が、それを知っていたかどうか。

 朝、ゼドが一族の記録を持ってきた。


 いつもより、顔が硬かった。


「昨夜の防衛戦の後、記録を読み直しました。

 見落としていたものがありました」


「何ですか」


「タナールが七十年前に一族から得た知識の中に、

 地脈を乱す装置の設計図が含まれていた可能性があります」


 俺は少し止まった。


「設計図ですか」


「はい。干渉装置とは別のものです。

 干渉装置は施設の核に直接干渉します。

 こちらは、地脈の流れそのものを操作します」


「どういう効果がありますか」


 ゼドがページを開いた。


「地脈の流れを局所的に歪めることで、

 その範囲にいる生き物の行動に影響を与えます。

 魔力を持つ生き物に、特に強く作用します」


「魔物を動かせる、ということですか」


「動かすというより、誘導します。

 行きたくない方向に壁を作る、という感覚に近いです」


 昨夜の群れの動きが、頭に浮かんだ。


 まっすぐ来た。


 散った後も、同じ方角に集まった。


 壁を作られていたのか。


 ――つまり、設計図を持っている側が、戦場を作れる。

 現場に入る前に、勝負を決められる。


 それが、この装置の本質だ。


──────────────────────────────────────


「その装置は、どのくらいの範囲に効果がありますか」


「記録には、半径二百メートルから五百メートルと書いてあります。

 ただし、設置場所と地脈の流れによって変わります」


「複数設置した場合は」


「範囲が広がります。

 また、複数の装置を組み合わせることで、

 より精密な誘導が可能になります」


 俺は整理した。


 北東の森に、その装置が設置されている可能性がある。


 昨夜の群れは、その装置に誘導されてここに来た。


「装置を無力化する方法はありますか」


「干渉装置と同じく、魔力を引き抜けば止まります。

 ただし、こちらはサヤさんだけでは難しいかもしれません」


「なぜですか」


「干渉装置は施設の言語で書かれていました。

 サヤさんは施設の管理者なので、対応できました。

 こちらの装置は、タナールが独自に設計したものです。

 施設の言語とは異なる可能性があります」


「リアさんが石の文字を写し取っていましたね」


「はい。あの文字体系と同じ可能性があります。

 リアさんの知識が必要になるかもしれません」


──────────────────────────────────────


 リアを呼んだ。


「ゼドさんの話を聞いてほしいです。

 石の文字について、確認したいことがあります」


 リアがゼドの記録を見た。


 しばらく読んだ。


「……この文字体系は、干渉装置の文字と同じです」


「読めますか」


「全部は読めません。

 ただし、構造は分かります。

 師匠が残した記録と、照合できる部分があります」


「どういう装置か、分かりますか」


「地脈に流れを作る装置です。

 水路と同じ原理です。

 水に圧力をかけて、行きたい方向に流す」


 リアが少し間を置いた。


「設置場所が分かれば、無力化の方法を考えられます。

 ただし、近づく必要があります」


「危険ですか」


「装置そのものは危険ではありません。

 ただし、設置した者が近くにいる可能性があります」


「北東の森に、潜伏者がいます」


「知っています。

 だから、一人では行きません」


 リアが静かに言った。


 合理的です、とは言わなかった。


 それが、重かった。


──────────────────────────────────────


 ミルヴァを呼んだ。


「北東の森に、装置が設置されている可能性があります。

 場所を特定する方法を考えています」


「偵察か」


「はい。ただし、向こうに気づかれない形でやりたいです」


 ミルヴァは少し考えた。


「昨夜の群れの動きから、装置の位置を逆算できるか」


「《可視化》で群れの動線を記録していました。

 動線から、壁になっていた方角は分かります」


「どの方角だ」


「北東の森の、深い場所です。

 ゼドの潜伏者がいた場所と近いと思います」


「同一人物か」


「可能性があります。

 装置を管理している者が、その場所にいる」


 ミルヴァが少し間を置いた。


「昨夜、潜伏者は動かなかった」


「はい。群れを送り出した後、様子を見ていたと思います」


「こちらの防衛力を確認した」


「そう思います。

 次は何を送ってくるか、考える段階に入ったはずです」


「時間があるということか」


「少しは。ただし、長くはありません」


──────────────────────────────────────


 午後、アーヴィンと作戦を確認した。


「装置の場所を特定した後、どう動きますか」


 ――相手が設計図で戦場を作るなら、

 こちらはそれを逆に使う。


 設計の癖は、必ず現場に出る。


「二手に分ける」


 アーヴィンが短く言った。


「片方が囮になり、もう片方が装置に近づく」


「潜伏者が対応してきた場合は」


「その時点で、場所が分かる」


「囮は危険ですか」


「危険だから囮になる意味がある」


 マユミが言った。


「囮は俺がやる」


「マユミさん一人では難しいかもしれません」


「アーヴィンも来る」


 アーヴィンがうなずいた。


「装置に近づくのは、リアとミルヴァで十分か」


「ゼドさんも同行してほしいです。

 装置の文字を確認する必要があります」


「分かった。俺とマユミが前に出る。

 リア・ミルヴァ・ゼドが装置を探す」


「俺は」


「後方から《可視化》で全員の動線を管理する」


 アーヴィンが俺を見た。


「それが、一番使える配置だ」


 俺は少し間を置いた。


 前に出たい気持ちはあった。


 ただし、アーヴィンの判断は正しかった。


「分かりました。お願いします」


──────────────────────────────────────


 夕方、サヤが来た。


「北東の森の潜伏者が、昨夜より深く移動しています」


「遠ざかっていますか」


「いいえ。より深く隠れています。

 次の準備をしている可能性があります」


「いつ動くと思いますか」


「分かりません。ただし、今夜は動かないと思います」


「なぜですか」


「昨夜の防衛を確認した。

 すぐに次を送れるほど、装置は連続して使えないはずです。

 地脈に負荷がかかります」


「充電が必要ということですか」


「そういう表現が正しいかどうか分かりません。

 ただし、間隔が必要だということです」


 俺は少し考えた。


「どのくらいの間隔ですか」


「記録には、三日から五日と書いてあります」


 ゼドが補足した。


「ただし、装置の数が多ければ、間隔が短くなります」


「複数あれば、交互に使える」


「はい。昨夜一つ使ったとして、残りがあれば明後日には動ける可能性があります」


 俺は整理した。


 明日か明後日が、動くタイミングだ。


 それまでに、装置の場所を特定する必要がある。


「明日の朝、動きます」


──────────────────────────────────────


 エピローグ


 夜、リクは、宿に戻った後も眠れなかった。


 目を閉じると、昨夜の群れが見えた。


 まっすぐ来る十二頭。


 先頭が倒れた瞬間。


 槍を出した感触。


 怖かったか、と聞かれれば、怖かった。


 ただし、止まらなかった。


 訓練でやった通りに動いた。


 体が、覚えていた。


 リクは天井を見た。


 アーヴィンが言っていた言葉を思い出した。


 「現場で使えない知識は、知識じゃない」


 昨夜、それが分かった。


 使えた。


 ――もっと、使えるようになりたい。


 次は、考えて動けるように。


 そう思った。


 眠れないまま、夜が明けた。


──────────────────────────────────────


 眠る前に、俺は明日の段取りを確認した。


 出発は夜明け。

 アーヴィンとマユミが前に出る。

 リア・ミルヴァ・ゼドが装置を探す。

 俺は後方で《可視化》を使う。


 民兵は領地に残す。


 バルドとコリンに、留守を頼む。


 段取りは、整っている。


 あとは、現場が動くだけだ。


 ――現場に入れば、設計図の答えが出る。


 それが、現場というものだ。



 第50話 設計図 了

【次回予告】


 夜明けに、北東の森に入った。

 装置は、思ったより近い場所にあった。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨309枚(変化なし)

・収入  :なし

・支出  :なし

・未回収 :北区画収穫分(換金手続き中)


【発展進捗】


・防衛  :100%(地脈誘導装置の存在を確認・明日の特定作戦を準備)

・食料  :78%(変化なし)

・水   :83%(変化なし)

・住居  :40%(変化なし)

・インフラ:50%(変化なし)


 今日の進捗:ゼドが一族の記録から地脈誘導装置の設計図を発見。昨夜の魔物誘導と一致。リアが石の文字と同系統の文字体系と確認。明日の朝、装置特定作戦を決定。アーヴィン・マユミが囮、リア・ミルヴァ・ゼドが装置探索、ヒコが後方《可視化》管理という配置を確定。サヤが装置の充電間隔から次の来襲は明後日以降と推定。リクのエピローグ収録。

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