第49話 群れの動き方が、おかしい
魔物の群れは、腹が減れば動く。
縄張りを侵されれば動く。
追われれば動く。
誰かに動かされることはない。
少なくとも、そう教えられてきた。
そのはずだった。
深夜、施設からの感知が反応した。
俺は《可視化》で北東の方角を確認した。
動きがあった。
複数だった。
北東の森の縁から、こちらに向かっていた。
すぐにサヤを呼んだ。
「北東から来ています。魔物ですか」
「はい。グレイウルフの群れです。
十二頭。通常より大きい群れです」
「方角は」
「正門側ではありません。
東側の外堀に向かっています」
俺は少し止まった。
東側。
石壁がまだ入っていない側だった。
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アーヴィンを起こした。
「東側から、グレイウルフ十二頭が来ます。
一時間以内に外堀に達します」
アーヴィンが即座に動いた。
「民兵を起こす」
「はい。ただし、一つだけ確認してください」
「何だ」
「群れの動き方を、見ていてほしいです。
後で教えてください」
アーヴィンが少し止まった。
「……動き方が、おかしいのか」
「《可視化》で見ると、群れの動線が直線すぎます。
通常の魔物の動きではないと思います」
「分かった。見ておく」
アーヴィンが民兵の宿舎に向かった。
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民兵が集まった。
十名全員だった。
アーヴィンが手短に伝えた。
「東側から魔物が来る。外堀で止める。
持ち場に着け」
民兵が動いた。
リクが最初に動いていた。
周囲を確認しながら、自分の位置を決めていた。
三週間前とは違う動きだった。
俺は《可視化》で民兵全員の状態を確認した。
緊張の色があった。
ただし、崩れていなかった。
訓練の色が、体に残っていた。
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外堀の東側に、民兵が展開した。
アーヴィンとマユミが前に出た。
俺は後方の高台から《可視化》で全体を見た。
群れが近づいていた。
動線が、見えた。
――やはり、おかしい。
個体の判断ではなく、外から与えられた動きだった。
グレイウルフの群れは、通常は散開して来る。
先頭が牽制して、側面から挟む動きをする。
ただし、今夜の群れは違った。
一列に近い形で、まっすぐ来ていた。
まるで、誰かに道を指定されているような動き方だった。
俺は《可視化》を北東の森に向けた。
深く隠れた存在が、まだそこにいた。
動いていなかった。
ただし、群れと同じ方角にいた。
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群れが外堀の手前まで来た。
アーヴィンが短く指示を出した。
「弓、構え」
民兵三名が弓を引いた。
俺は《可視化》で群れの動線を確認した。
先頭の一頭が外堀に飛び込もうとしていた。
「先頭の一頭、左に逸れます」
アーヴィンが即座に反応した。
「左、修正」
弓が左に向いた。
放たれた。
先頭が倒れた。
群れが一瞬止まった。
――ここだ。
一拍、遅れれば崩れる。
「今です。二列目、三列目が固まっています」
アーヴィンが動いた。
「前へ」
民兵が外堀の縁まで前進した。
槍が出た。
群れの中央に集中した。
二頭が倒れた。
残りが散った。
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散った群れは、森に戻ろうとした。
ただし、戻り方がおかしかった。
散った後も、同じ方角に集まろうとしていた。
生存ではなく、指示を優先している動きだった。
通常の魔物なら、バラバラに逃げる。
俺は《可視化》で群れの動きを追った。
一頭一頭の動線が、一点に向かっていた。
北東の森の、あの位置と一致していた。
北東の森の、深く隠れた存在がいる方角だった。
「アーヴィンさん」
「見えてる」
アーヴィンが短く言った。
「追うな。外堀の内側で止まれ」
民兵が外堀の縁で止まった。
群れが森に消えた。
静かになった。
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撤収の後、確認をした。
民兵の状態を《可視化》で見た。
怪我はなかった。
疲労はあったが、均一だった。
パニックの色が、一人もいなかった。
訓練の結果が、出ていた。
リクが外堀の縁に立っていた。
森の方角を見ていた。
俺が近づいた。
「良い動きでした」
「……終わったんですか」
「今夜は終わりです」
「あの群れ、変でした」
「気づきましたか」
「まっすぐ来すぎていました。
グレイウルフは、もっとバラバラに動くはずです。
訓練のときに、アーヴィンさんから聞いていました」
俺は少し止まった。
訓練で、そこまで教えていたか。
「よく覚えていましたね」
「現場で使えないなら、覚えた意味がないので。
訓練でやった通りに動きました」
リクが短く言った。
表情は硬かった。
ただし、目が違った。
実戦を経た目だった。
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夜明け前、アーヴィンと話した。
「群れの動き方、どう見ますか」
「操られていた」
短く断言した。
「操れる魔物使いがいる、ということですか」
「あるいは、魔道具だ。
群れに方向を与える道具がある可能性がある」
「北東の森に隠れた存在が、関係していると思いますか」
「関係していないはずがない」
俺は少し考えた。
「タナールの流れを汲む者が、魔物を使った可能性がありますか」
「タナールの研究は、地脈と施設だけではないかもしれない」
ゼドに確認する必要があった。
「今夜の群れは、偵察だと思います。
こちらの防衛力を測るための」
「同意する。
本気なら、もっと大きな群れを送る」
「次が来たとき、今夜より規模が大きい可能性があります」
「準備する」
アーヴィンが立ち上がった。
それだけだった。
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夜明けに、ゼドを呼んだ。
「タナールの研究に、魔物を誘導する技術はありますか」
ゼドは少し間を置いた。
「……記録に、あります」
「どういう技術ですか」
「地脈の流れを局所的に操作することで、
魔物の行動に影響を与える方法です。
タナールが研究していたものの中に、そういった記述があります」
「施設の技術を応用したものですか」
「施設は地脈を安定させます。
タナールは、逆に地脈を乱す方向に研究を進めた可能性があります」
施設の技術の、裏返し。
「今夜の群れは、その技術で動かされていた可能性がありますか」
「あります。ただし、高度な技術が必要です。
それができる者が、北東の森にいるということになります」
俺は少し考えた。
セルヴァンが来た。
全周感知が戻った。
北東の森に何者かが現れた。
魔物の群れが、おかしな動きをした。
全部が、繋がっていた。
――これは、試されている。
領地の防衛と、俺の判断を。
現場の力を、測られている。
第49話 群れの動き方が、おかしい 了
【次回予告】
ゼドが一族の記録の中に、もう一つの記述を見つけた。
タナールが研究した、地脈を乱す装置の設計図だった。
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【領地収支】
・所持金 :金貨309枚(変化なし)
・収入 :なし
・支出 :なし
・未回収 :北区画収穫分(換金手続き中)
【発展進捗】
・防衛 :100%(初の実戦防衛・グレイウルフ十二頭・被害ゼロ・民兵主体で対応完了)
・食料 :78%(変化なし)
・水 :83%(変化なし)
・住居 :40%(変化なし)
・インフラ:50%(変化なし)
今日の進捗:深夜、北東の森からグレイウルフ十二頭が来襲。施設の全周感知により一時間前に察知・民兵を展開。《可視化》による動線誘導で被害ゼロで撃退。群れの動き方が異常(直線・集合方向が北東の潜伏者と一致)。タナール系の地脈操作技術による魔物誘導の可能性をゼドが確認。リクが実戦初参加・アーヴィンが「操られていた」と断言。次の来襲に備えて準備開始。




