表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

192/203

 第49話 群れの動き方が、おかしい

 魔物の群れは、腹が減れば動く。


 縄張りを侵されれば動く。


 追われれば動く。


 誰かに動かされることはない。


 少なくとも、そう教えられてきた。


 そのはずだった。

 深夜、施設からの感知が反応した。


 俺は《可視化》で北東の方角を確認した。


 動きがあった。


 複数だった。


 北東の森の縁から、こちらに向かっていた。


 すぐにサヤを呼んだ。


「北東から来ています。魔物ですか」


「はい。グレイウルフの群れです。

 十二頭。通常より大きい群れです」


「方角は」


「正門側ではありません。

 東側の外堀に向かっています」


 俺は少し止まった。


 東側。


 石壁がまだ入っていない側だった。


──────────────────────────────────────


 アーヴィンを起こした。


「東側から、グレイウルフ十二頭が来ます。

 一時間以内に外堀に達します」


 アーヴィンが即座に動いた。


「民兵を起こす」


「はい。ただし、一つだけ確認してください」


「何だ」


「群れの動き方を、見ていてほしいです。

 後で教えてください」


 アーヴィンが少し止まった。


「……動き方が、おかしいのか」


「《可視化》で見ると、群れの動線が直線すぎます。

 通常の魔物の動きではないと思います」


「分かった。見ておく」


 アーヴィンが民兵の宿舎に向かった。


──────────────────────────────────────


 民兵が集まった。


 十名全員だった。


 アーヴィンが手短に伝えた。


「東側から魔物が来る。外堀で止める。

 持ち場に着け」


 民兵が動いた。


 リクが最初に動いていた。


 周囲を確認しながら、自分の位置を決めていた。


 三週間前とは違う動きだった。


 俺は《可視化》で民兵全員の状態を確認した。


 緊張の色があった。


 ただし、崩れていなかった。


 訓練の色が、体に残っていた。


──────────────────────────────────────


 外堀の東側に、民兵が展開した。


 アーヴィンとマユミが前に出た。


 俺は後方の高台から《可視化》で全体を見た。


 群れが近づいていた。


 動線が、見えた。


 ――やはり、おかしい。

 個体の判断ではなく、外から与えられた動きだった。


 グレイウルフの群れは、通常は散開して来る。


 先頭が牽制して、側面から挟む動きをする。


 ただし、今夜の群れは違った。


 一列に近い形で、まっすぐ来ていた。


 まるで、誰かに道を指定されているような動き方だった。


 俺は《可視化》を北東の森に向けた。


 深く隠れた存在が、まだそこにいた。


 動いていなかった。


 ただし、群れと同じ方角にいた。


──────────────────────────────────────


 群れが外堀の手前まで来た。


 アーヴィンが短く指示を出した。


「弓、構え」


 民兵三名が弓を引いた。


 俺は《可視化》で群れの動線を確認した。


 先頭の一頭が外堀に飛び込もうとしていた。


「先頭の一頭、左に逸れます」


 アーヴィンが即座に反応した。


「左、修正」


 弓が左に向いた。


 放たれた。


 先頭が倒れた。


 群れが一瞬止まった。


 ――ここだ。

 

 一拍、遅れれば崩れる。


「今です。二列目、三列目が固まっています」


 アーヴィンが動いた。


「前へ」


 民兵が外堀の縁まで前進した。


 槍が出た。


 群れの中央に集中した。


 二頭が倒れた。


 残りが散った。


──────────────────────────────────────


 散った群れは、森に戻ろうとした。


 ただし、戻り方がおかしかった。


 散った後も、同じ方角に集まろうとしていた。

 

 生存ではなく、指示を優先している動きだった。


 通常の魔物なら、バラバラに逃げる。


 俺は《可視化》で群れの動きを追った。


 一頭一頭の動線が、一点に向かっていた。

 

 北東の森の、あの位置と一致していた。


 北東の森の、深く隠れた存在がいる方角だった。


「アーヴィンさん」


「見えてる」


 アーヴィンが短く言った。


「追うな。外堀の内側で止まれ」


 民兵が外堀の縁で止まった。


 群れが森に消えた。


 静かになった。


──────────────────────────────────────


 撤収の後、確認をした。


 民兵の状態を《可視化》で見た。


 怪我はなかった。


 疲労はあったが、均一だった。


 パニックの色が、一人もいなかった。


 訓練の結果が、出ていた。


 リクが外堀の縁に立っていた。


 森の方角を見ていた。


 俺が近づいた。


「良い動きでした」


「……終わったんですか」


「今夜は終わりです」


「あの群れ、変でした」


「気づきましたか」


「まっすぐ来すぎていました。

 グレイウルフは、もっとバラバラに動くはずです。

 訓練のときに、アーヴィンさんから聞いていました」


 俺は少し止まった。


 訓練で、そこまで教えていたか。


「よく覚えていましたね」


「現場で使えないなら、覚えた意味がないので。

 訓練でやった通りに動きました」


 リクが短く言った。


 表情は硬かった。


 ただし、目が違った。


 実戦を経た目だった。


──────────────────────────────────────


 夜明け前、アーヴィンと話した。


「群れの動き方、どう見ますか」


「操られていた」


 短く断言した。


「操れる魔物使いがいる、ということですか」


「あるいは、魔道具だ。

 群れに方向を与える道具がある可能性がある」


「北東の森に隠れた存在が、関係していると思いますか」


「関係していないはずがない」


 俺は少し考えた。


「タナールの流れを汲む者が、魔物を使った可能性がありますか」


「タナールの研究は、地脈と施設だけではないかもしれない」


 ゼドに確認する必要があった。


「今夜の群れは、偵察だと思います。

 こちらの防衛力を測るための」


「同意する。

 本気なら、もっと大きな群れを送る」


「次が来たとき、今夜より規模が大きい可能性があります」


「準備する」


 アーヴィンが立ち上がった。


 それだけだった。


──────────────────────────────────────


 夜明けに、ゼドを呼んだ。


「タナールの研究に、魔物を誘導する技術はありますか」


 ゼドは少し間を置いた。


「……記録に、あります」


「どういう技術ですか」


「地脈の流れを局所的に操作することで、

 魔物の行動に影響を与える方法です。

 タナールが研究していたものの中に、そういった記述があります」


「施設の技術を応用したものですか」


「施設は地脈を安定させます。

 タナールは、逆に地脈を乱す方向に研究を進めた可能性があります」


 施設の技術の、裏返し。


「今夜の群れは、その技術で動かされていた可能性がありますか」


「あります。ただし、高度な技術が必要です。

 それができる者が、北東の森にいるということになります」


 俺は少し考えた。


 セルヴァンが来た。


 全周感知が戻った。


 北東の森に何者かが現れた。


 魔物の群れが、おかしな動きをした。


 全部が、繋がっていた。


 ――これは、試されている。


 領地の防衛と、俺の判断を。


 現場の力を、測られている。



 第49話 群れの動き方が、おかしい 了

【次回予告】


 ゼドが一族の記録の中に、もう一つの記述を見つけた。

 タナールが研究した、地脈を乱す装置の設計図だった。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨309枚(変化なし)

・収入  :なし

・支出  :なし

・未回収 :北区画収穫分(換金手続き中)


【発展進捗】


・防衛  :100%(初の実戦防衛・グレイウルフ十二頭・被害ゼロ・民兵主体で対応完了)

・食料  :78%(変化なし)

・水   :83%(変化なし)

・住居  :40%(変化なし)

・インフラ:50%(変化なし)


 今日の進捗:深夜、北東の森からグレイウルフ十二頭が来襲。施設の全周感知により一時間前に察知・民兵を展開。《可視化》による動線誘導で被害ゼロで撃退。群れの動き方が異常(直線・集合方向が北東の潜伏者と一致)。タナール系の地脈操作技術による魔物誘導の可能性をゼドが確認。リクが実戦初参加・アーヴィンが「操られていた」と断言。次の来襲に備えて準備開始。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ