11.エリーゼ、学園に入学する。
「エリーゼ、寂しくなるわ。…あなたは女の子なんだから、王都の学園まで行かなくても。ほら、隣の領にある女学園でも良いのよ。ね!ね!やっぱり女学園に変更しましょう!」
「お母さま!私は王都の学園でたくさんのことを学びたいのよ。女学園だけでは物足りないの。」
入学まであと1ヶ月もあるのに、毎日この会話なの。お母さまは心配性だからって言いたいところだけど。
「そうだよ!エリーゼ!そんなに急いで独り立ちの準備をしなくてもいいんだよ!なんならもうずっとお嫁にも行かずお父さまのそばにいてくれたって…」
「もうっ!2人ともいい加減にして!私の道は私が選ぶの!それにお父さまお母さまとはこれから先も1ヶ月に1回は会うのよ!」
そうなのだ。なんやかんや言いながら父も母も1ヶ月に一回は王都にやってくるのよ。
インフルエンザ騒動の際の対応が素晴らしかったということで、国を挙げての感染病対策のオブザーバーとして指名されたのだ。
まぁ、これにはちゃんと裏があって。推薦者は当然ながらあの方たち。
「これから先どうするかは分からないけど、頻繁に会う理由は作っておいて損はないわ。」
だそうだ。確かにその通りだし、
「それにね、1ヶ月に1回会えるならって事で貴方の王都の学園入学も認めてもらいやすくなるはずよ。」
本当にそうなった。大人ってこわい。
※※※※※※
「んんんー!何だかわざわざ王都に来た気がしない!」
あっという間に入学の時期になってしまった。
私はお兄さまと同じく寮に入る事になっている。
もうすでに荷物も運び込んでいるし、寮で暮らしていける程度の身の回りのことも自分でできるように練習してきた。
「なのになんでー!!お父さまとお母さまと一緒なのよぉぉ!」
「まあまあエリーゼ。父様も母様もお前のことが心配なんだよ。」
「だって、お兄さまの時はこんな事にならなかったでしょう?私だけ信用がないみたいで嫌なのー!!」
そう。結局お父さまとお母さまは王都にあるそこそこ?いや我が子爵家からしたら分不相応なくらいの邸に滞在している。オブザーバーとしての拠点という事で補助が出たんですって。
まあ、我が家の邸ということではなく"災害対策"の本部としての機能がメインなんだけど。
だからプライベートな居住区域は3割ほど。あとは何かと人が集まるためのスペースになっている。
まあお父さま達が滞在するのはせいぜい月に2〜3日なので、毎度宿泊先を探すよりはいいでしょ?というような間借り感覚なんだとか。
それでもこんなに豪華でなくても…とお父さまは、遠慮したらしいけど。
「国を挙げてのプロジェクトの本部が貧相なんてあり得ない!」
というクリスティーネさまの鶴の一声で決定されたそうだ。
そんなことを考えながらブツブツ文句を言っていると
「そんなこと言ってるけど、1週間で私達は領地に帰るのよ。そうしたら寮に移るんだから同じことでしょう?」
そう。お父さまとお母さまが王都に来られた時だけこちらに帰宅する事になってしまったのだ。でも!
「お兄さまは免除ってずるくないですか⁈」
「だってあの子はもうあと2年で領地に戻らないといけないのよ。学業もそうだけど、人脈作りにも力を入れてもらわないと!」
それを言われると何も反論できなくなってしまう。
でも、私にだって人脈作りは大切なのにな。
だって寮生活はもう始まっているから、入学前に友人ができるかも!なんてウキウキしていたのに。
「私、一足遅れて寮の子達と合流するのがちょっと不安なの。もしかしたらもうみんな仲良しで輪に入れないんじゃないかな、とか。」
ぽん。後ろから肩を叩かれた。
「あ!お兄さま!こちらにいても良いんですか?」
「一日ぐらいどうって事ないよ。だって寮生活になったら男女で分かれてしまって自分の妹にさえなかなか会えないんだよ。せっかく家族揃ったんだし、食事くらいみんなで食べたいじゃないか。」
そしてこっそり私だけに聞こえるように
「それに、今の時期8割くらいは寮にいないんだよ。ちょっと寂しくてね。」
と、茶目っ気たっぷりに教えてくれた。そうなんだ。まだそんなに人が少ないなら大丈夫かな。
「そうよ!余程の遠方じゃない限り親元と行ったり来たりする子は多いはずよ。寮に入るのが多少遅いくらいで孤立したりする環境じゃないから大丈夫!」
みんなの言うとおり、寮に入るのは少し遅かったけど孤立することもなく気がつけば同級生達と仲良くなる事ができた。
来週からは授業も始まる。新しい生活に毎日ワクワクしていた。
※※※※※※
「貴方がエリーゼ・バーレンスフェルトさん?」
「はい、そうですが…。申し訳ありません、まだお名前を覚えきれなくて。同じ学年の方でしょうか。」
申し訳ないな、と思いつつ頭を下げる。爵位や名前を教えてもらえればどなたか推測できるんだけど、まだ顔だけでどこのどなたか分かる人はほとんどいない。
「まあ!ボスワース侯爵令嬢をご存知ないなんて!一体どんな田舎から出てこられたのかしら!」
うわあこれは。面倒な匂いがぷんぷんしてきた。腰巾着って今世でも言うのかな?よく分からないけど3人ほど前衛のようにボスワース侯爵令嬢を守るように立っている。それにしても侯爵令嬢のこしぎ…んんっ、お友達にしてははすっぱというか、品がないというか。直接的な嫌味に呆れてしまう。
「ボスワース侯爵令嬢でいらっしゃいましたか。生憎社交界にはまだ出ておりませんで、お名前とお顔が一致しておりませんでした。大変申し訳ございませんでした。」
できるだけ綺麗に見えるようにお辞儀する。ボスワースさま達は少し面食らっているようだ。だって私のお辞儀、田舎の子爵家のものじゃないでしょう?クリスティーネさまから直接仕込まれているんだから、上位貴族の方々にも引けを取らないはずよ。
「まあ、お辞儀だけは綺麗なのね。エリーゼさん。わたくしの顔をご存知なかったのは田舎者だからということで許してあげるわ。そしてこれからの学園生活でも田舎者らしくでしゃばらないようになさってね。どうせ田舎に戻るだけなのでしょう?憧れだけでわざわざ王都にまでいらっしゃらなくても近隣で適当にお勉強なさればいいものを。」
うわあああ。めんどくせええええ!
あとでお兄さまに面倒なのに絡まれたって愚痴ろう。
と、ここで気づく。私の仲良くなった人たち、カチンコチンになっている。ここは私が話をまとめて切り抜けなければ!
と、覚悟した途端。新たな面倒が!
「やあ!バーレンスフェルト君!やっと入ってきたんだね!母上からよく話は聞いていたよ。バーレンスフェルト領の至宝が学園に来るから楽しみにしていなさいって。」
ああ、これは詰んだか。ボスワース侯爵令嬢の眉毛が静かに吊り上がった。
まだまだエリーゼ編が続きますが、少し大人になって王都の学園に入学する年頃になりました。
今までこんなしょうもない悪意に晒されたことのないエリーゼ、やっていけるのでしょうか。




