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第1話 公爵家の双子たち

 物心がついた頃から、私と同じ顔をした双子の弟はよくベッドでうなされていた。ひどい熱と寒気を繰り返しては胃液を吐き、疲れては気を失うように眠り込む。

 早く眠れれば楽になれるのに……そこに辿り着くまでがとてつもなく長く感じられた。

 

 なのに聞いてる方が苦しくなるような荒い呼吸の中、弟は頑張って笑顔を作っては呟くのだ。


「熱が出たのがぼくでよかった……シャルロッテが元気でよかった」

「……アルフレートのばか。早く寝なさいよ」

 双子なんだから、苦しいのも半分にできたらぜったい楽なのに。

 

 普通の風邪なら神官に祈って貰えばすぐに治る。でもアルの熱は神官も首を横に振るだけ。体に流れる魔力の通り道が塞がっていて、神聖力でも治せないということだった。

 

 私たちはラインフェルデン公爵家の双子だ。

 父は温和な性格で春を呼ぶ魔法を持つヨハネス・ラインフェルデン公爵。母はサーシャ・ラインフェルデン、隣国の皇帝からも請われたほどの美貌を持っている(と聞いた)。私にとっては怒ると怖い雷魔女さんだけど……。


 かつてはこの国に二つしかない公爵家同士で母を取り合いになったらしい。けれど周りからよく聞かされる

「あと少しで戦乱が起きそうになった」

はさすがに盛りすぎじゃない?と私は思っている。

 

 そんな公爵家に生まれても、できないことはあるのだと幼な心に悟った。

 

 確かにアルの熱は三日も寝れば落ち着いてくる。でも頑丈が取り柄の私からしたら、そんなにも熱が下がらないなんて……、なにより三日もじっとしてなきゃいけないなんて!

 アルの言うとおり私には耐えられそうにない。

 

「何でロッテが泣くのさ」

「……泣いてなんかない」

 

 ふうふうと苦しそうに肩で息をするアルを見てたら、いつの間にか涙が溢れてたみたい。ぼやけた視界でふにゃりとアルが笑ってるのが見える。


「ロッテ、ありがとう」

(ばかね、アル。ありがとうは私の言葉だよ)


 アルはいつも優しい。そんなアルを見るたびに私は心に誓うのだ。

 アルフレートは私が守ってみせる、って。


 だから私はどんな時でも、……たとえ賊に襲われた時にでもアルを守れるように、剣の練習をたくさんした。気が付くと同年代の男の子で私に勝てるものはいなくなったし、うちの誇れる青の騎士団……ラインフェルデン騎士団の団長からも十本に一本は取れるようになっていた。


 そしてアルはベッドの上でも学べることや、室内でできることに努力してきた。いつしか刺繍やレース編みの腕を上げ、それから読書などで世界中の知識を手に入れていた。

 

 私たちは父を大いに嘆かせた。

「お前たちの性別が逆であれば」

と。

 その度にお父さまはお母さまに、

「二人とも二人らしくあればいいのです」

なんて、ピシャリと叱られてるけど。

 

 でもお父さま、私もそう思うわ。

 アルと私が男女逆だったらな、って。

 どんなに剣が強かったとしても、淑女は外で剣を振るえない。

 

「ロッテ、何言ってるのさ。つい最近暴漢に襲われてた伯爵家の令嬢を助けたって聞いたけど?」

「もー!アル!それは……」

「その肩までしかない髪。相手の剣が掠って髪が切れたのを、これ幸いと短くしたんでしょ。せっかく綺麗なロングだったのに」


 昨日よりは幾分か顔色の良くなったアルが、ベッドで呆れたように笑ってる。

「だって悪いヤツは見逃せないもの。髪なんかいくらでも伸びるしね」

(軽くて動きやすくて気持ちいいくらい)

 

 私たちは今年、十五になった。

 赤褐色の髪に翠玉色の瞳は、ラインフェルデン家の血筋。お母さまから受け継いだのは形のいい額と、アーモンド型の瞳。

 二卵性で生まれた筈の私たちだけど、この年になっても驚くほど似ていた。

 

 ただし寝込む回数は減ったとはいえ、十五になった今もアルは月に一度は倒れてる。そのせいか、とっくに来てもいい声変わりはまだだし、私なんかよりよほど華奢で肌の色も白くて儚げだ。

 

 でもどれだけ時が経っても、幼い頃に立てた誓いは今も胸の奥にある。

 だから王宮から帰ってきたお父様が、ありえない話を持ち込んできた時、

「そんなの絶対に無理よ!」

私がつい大きな声を上げてしまったのは仕方がないと思うの。

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