第十四話 彼女の願い
??「まぁーたく、痛いじゃぁないか??」
ソイツは、首を左右に曲げてポキポキと音を鳴らしながら、平気そうにそう言った。
京太「……お前」
俺は、愕然としながら、
京太「お前、人間じゃなかったのか」
ソイツの顔は、まるでロボットのような機械の顔をしていた。いや、顔だけでなく体全体がそうなっているようだった。例えるならば……そう、サイボーグといった見た目だった。すると、奴の表情が器用に動く。ソイツは、小首を傾げながら俺の反応を不思議そうに眺めていた。
??「……どうしたのだね?随分と困惑した様子に見えるが……。ん?ありゃ見られてしまったかな?いつもはこの不思議なこの青コートのフードで顔を隠していたのだが……さっきの攻撃でフードが外れてしまったようだね」
ソイツは、特に焦る事も無くコートのポケットから変わった形のサングラスを取り出しながら……。
??「まあ、見られたからには仕方ないね。少しだけ説明してやろう」
「まず最初に言うと、昔も私はちゃんとした人間だった。まあ、この姿なのもあって信じる事が出来ないのはわかるが……私がこの体になる前はちゃんとした人間の肉体をしていた。それは確かな真実だ。じゃあなぜ、こんな機械のような体になったのか……?君にはわかるかな?」
京太「また謎々か……わからないっと言ったら、答えてくれんのか?」
冗談混じりに、ソイツに問いかけてみる。
??「本当はちゃんと答えてもらいたかったが……。まあ、いいだろう。なぜ、私が人間の体を捨てて、こんな機械仕掛けのサイボーグになったのか……その理由は単純明快。もうあの体が長くはなかったからだ」
京太「…どういうことだ?」
??「やれやれ、まだわからないのかい?君はそこまで察しが悪いわけではないだろう……?」
京太「いや、なんとなく…だが。年老いて、まともな戦闘ができそうになかったからか……?」
??「さすが、君はやはり理解が早いね。やればできるではないか」
京太「……そりゃどうも。もしかして正解したご褒美に何か良い情報でも教えてくれるのかい?」
??「……ご褒美か、まぁいいだろう。この私にダメージを負わせ、そして問題にも答えて正解した君を賞賛して……特別に私の名前を教えてやろうではないか」
「私の名はアワード。コードネームではノールと呼ばれている。組織では今のところトップに立っている人間だ」
京太「へー、そうなんだ」
ノール「……あまり驚かないのだな」
京太「いや、これでも驚いてるだよ?でも、なるほどね……」
ふーん。コイツは組織のトップに位置している人間なのか……。なるほど、それならば色々と納得がいく。それに、コイツからはそれなりの強さは感じていた。だから、生かしておきたいとさっきまでは思っていた……が。コイツはやってはいけない事をしてしまったのだ。だから、コイツだけは絶対に殺してやらねばならない。
京太「俺はアンタを許さない。勝手に妹のレプリカを作って、それを使って人の心を弄んだ……しかも、わざわざご丁寧に死体からその思い出のネックレスを奪って……。お前、楽に地獄に行けると思うなよ?」
ノール「だからさ、あれはれっきとした君の本当の妹さんだって言ってるじゃん……?さっきも行った通り、私は嘘を吐くのが苦手なのさ……。まぁ信じるか信じないかは君次第なわけだけどね…」
京太「……お前いったい、何考えてんだ?全くお前のやりたい事が掴めないんだが?」
俺がそう言うと、男は急に狂ったかのように嘲笑した後、先程から手に持っていたサングラスを掛けながら……言った。
ノール「まあ、それが私という人間の性格ですからね。今の私は改造人間、己の肉体を捨ててまでもあの方のために長い時間それを待ち続けてきた。あの方を復活させるために、私は知識と力を蓄え、そして今、こうして貴方という強者の前に立ちはだかっている。だが、今回は別に本格的に戦いに来たわけではない。なので、そろそろ私たちはここで帰らせてもらいますね」
ソイツがそう言葉を口にした瞬間、コイツの周りから黒いモヤがかかり出す。
ノール「花御、ここはひとまず退散しますよ」
花御「うん、わかった。またねお兄様!次に会った時は、本気で殺しにかかってあげるから、その時まで楽しみにしてね!」
妹だと自称する偽妹は、さっきのセリフには似合わない明るい笑顔を満面に向けて、アワードことノールと名乗った男の黒い渦の中へと入っていく。
京太「帰るだと……まさか」
俺は、鼻で笑いながら、
京太「俺が帰らせるとでも……?」
ノール「おぉ、怖いですね。……あぁそうだ。それと後一つだけこれもおまけで教えてあげましょう」
京太「……なんだ。ただの時間稼ぎなら与えてやらーー」
ノール「妹さんが本当に偽物だと思うなら墓地まで行って直接見に行く事をお勧めしますよ」
京太「……えっ」
そこで、俺の思考は一瞬止まった。
ノール「それでは……退散」
花御「またね、お兄様……!」
京太「……!?まちやが!!」
そう言い残して、奴らはこの屋上から忽然と姿を消したのだった。俺は、奴らがさっきまでいた足元の方を見やりながら……。
京太「いや、そんな事はありえない筈だ……そんな事は、絶対に」
と自分に自己暗示するかのように、誰もいない屋上でただただひたすらに、そう呟くのだった。
□□□
しばらく屋上で頭の整理をしてから、俺は屋上を後にした。俺はアイツにさっきの事を報告するために保健室の方まで向かっていた。
だがそれよりも前に、俺はある奴に話を聞くために、あの場所に向かっていた。
それは、図書室。この無駄に天井も部屋も広いこの大量の本棚が並ぶ部屋で、俺はソイツに話を聞くためにこの部屋にやってきた。さっきも言ったが、この図書室は無駄に広い。なので、探すのは多少困難だろう。
そうして、小一時間その図書室内をくまなく探し回った。
京太「……こんなに探したのにいないとは……」
どうやら今日はアイツは不在のようだった。もしかしたら、あの組織の所にでもいるのだろうか。と色々と考察を立ててみるが、それに意味がないとわかり、すぐさま考えるのをやめた。
京太「はぁ……こんな事考えてもあの女が今ここにいない事実は変わらないのにな、無駄な事しちゃったぜ……。仕方ない、間宮の所にでも向かうとするか……」
そう一人で呟きながら、俺は図書室を出て行くのだった。
間宮のいる保健室を目指して、しばらく歩き続けていると……。そこで俺は、会いたくもないアイツに会ってしまった。
大臣「……おや?どうもこんにちは。初めましてかな……?」
そこには、二度とその顔を拝みたくないと思っていた、そいつが俺の前にいた。
京太「……!?お前、なんでここに……!?」
と、一瞬だけ頭に血が上りそうになった俺だったが。間宮の部屋で見た政府からの依頼の紙を思い出して、冷静になる。
京太「久しぶりだな、政府のお偉い様。確か、能力省の大臣……だったけな?5年ぶりだな」
大臣「そうですね。あの時は本当にご迷惑をおかけしました。あの時は申し訳ありませんでした」
と思ってもなさそうにそう発言をする男。俺は、コイツが嫌いだ。自分が迷惑をかけたくせに、コイツはそれを間宮のせいにして責任を押し付けた。それにより、間宮はスラム街へと追放された。コイツのせいで、俺たちは何もかも狂わされた。だから、俺はコイツの顔を見ているだけで吐き気がしてしまうし、矛先の無い怒りが湧き出てしまうそうになる。
大臣「ところで、貴方はここで何をしているのですか?今は授業の時間では……?」
京太「……それなら、アンタだってこんなところで何してるんですか?」
大臣「それは、生徒である貴方には関係の無い事でしょう。ほら、さっさとそこをどきなさい。私は今から本部に戻って、仕事をするのですから」
京太「おっとー、それは失礼。ではどうぞ」
大臣「……ありがとう。では、また会えたら話そうじゃないか」
京太「……そりゃどうも。その時が来ない事を祈りながら待つ事にします」
とソイツの背中を見送りながら……そんな皮肉たっぷりの言葉をボソッと呟いてやるのだった。
□□□保健室
間宮「なるほど、そんな事があったのね」
京太「……あぁ」
何事もなく間宮の所に来れた俺は、彼女にこれまでの経緯を説明した。敵組織側に偽物だと思われる妹がいた事、そしてその組織のトップに位置している奴の名前など全て報告した。
間宮「もし、妹が本当に生き返ったのだとしたら。敵側には相当のバーサーカーがいるという事になるわね。それに、偽物だったにしても、その偽物が花御と同じ能力を使えた場合……たとえ京太でも、苦戦する事は間違いないわ」
京太「……そうだな。アイツの能力は、俺と同じように強力な能力だ。たとえ能力値が低かろうとも恐ろしい能力には違いねぇからな」
俺の妹……花御は。俺の唯一の血の繋がった家族であり、俺と同じように強い能力を持った人間だった。それはもう、俺の能力を上回ってしまうくらいには強力な能力だった。だからこそ、花御の体には荷が重すぎた。
……妹は昔から体が弱く、病弱で、体力も無くて、守ってやらないといけないそんな妹だった。だから、兄である俺が守っていた。能力も使わないように色々と試行錯誤したり色々と気づかってやっていた。
そして……結果。花御は、その能力を発動してしまった。俺はなんとか止めようと必死にもがいたが。つい、加減をミスってしまって……。俺は……僕は。その手で妹の命を刈り取ってしまった。それから、だろうか……。僕は人が変わってしまった。思えば、あれがきっかけだったのかもしれない。
間宮「それで……行くの、貴方?」
京太「あぁ、行くつもりだ」
迷いなく、その質問に即答をする。
間宮「もしかしたら、罠という可能性もあるわよ。それでも行くのかしら……?」
京太「真相を確かめるためだ、行くに決まってんだろ!もしかしたら、アイツの墓が荒らされてるかもしれないしな……」
間宮「………まぁ、君に限って負けるなんて事はないだろうけど……気をつけて行ってね。わかったら、私に報告してくれ」
京太「……わかってるよ」
そうして、俺は真相を知るために、陽が落ちるの待った。そんな事はないって思いながら……。
□□□
以外と、待っている間は時間の進みが少し早くて、色々とやっている間に……。
空はもうとっくに暗くなっていた。
京太「まさか、こんな形で妹の墓を拝みに行く事になるとはな」
とは言っても、今回は拝む事なんてしないわけなのだが。俺は、ただ確かめるためにあそこに向かっているだけだ。本当は、あまり行きたくはないが……気になってしまうし、それにあの妹が本当に偽物なのかについては確信を持てないため疑心暗鬼だ。
俺の本心的には、偽物であってほしいという気持ちの方がデカい。だから、今でもずっとそう願い続けながら歩いていく。
京太「……ん?」
妹の墓がある墓地を目指して山の近くを歩いていると……。すると、そこには……見た事のある奴がいた。そこにいたのは美織だった。美織は顔を俯かせた状態で何か思い悩んだ様子でこちらに向かって歩いて来ていた。
すると、彼女は目の前に俺がいる事に気づいたのか……すっと表情を変えてこちらに歩み寄ってきた。
美織「お久しぶりですね、京太さん」
京太「学校にいないと思ったら、やっぱり敵組織のところに向かってやがったか」
美織「はい。……それで、貴方は何用で外に出ているのですか?一応言っておきますが、私たち組織はもう貴方が強い事を知っていますので、私に隠す必要はありませんよ」
京太「……あっそ。そんな事はどうでもいいよ。……俺は今から家族の墓参りに行くんだ。あまりお前に時間を使っている場合じゃねぇ」
美織「……貴方にも、家族がいたんですね。妹さんが……」
急に声のトーンが下がる美織の言葉に、俺は思わず足を止めた。
京太「やっぱ、お前も知ってたんだな。……あぁ。それで、お前なにか知ってんのか?アイツが本当に俺の妹なのかどうか……」
美織「そんなの赤の他人である私にわかるわけがないでしょう…。はぁ……妹、か……」
美織は、さっきのようにまた顔を俯かせながら……なにやらなんとも言えない表情をしていた。
京太「なんだ、お前にも妹か弟がいたのか?」
美織「まあ、います……。ただ、私では到底救えないところに居て。私自身、やるせない気持ちになっています」
初めて、彼女が弱音というものを吐いた気がした。その姿はまるで、あの時の……妹を亡くした時の僕の姿とほとんど一致していた。
美織「……あの、出来たらでいいのですが」
そいつは、しばらく自分の心と葛藤して。やがて、こう俺に頼み込むのだった。
美織「もし出来たら、私の妹を救ってはもらえませんか!!」
……と。そんなお願いを彼女にされた。
京太「……お前、妹がいたのか?」
美織「はい。妹の名前は白崎遥香と言って。特徴は、腰まで長いロングヘアーの紫かかった白の髪に、赤い目といった特徴をしているんですけど……」
京太「……てっ事は。今から俺が行こうとしているところに、お前の妹がなんらかの形で組織に利用されてるから助けてやってほしいと言いたいわけだな」
美織「はい……その通りです。今回、たまたまその話を本拠地で聞いて、でも今の私ではそれが出来ないので、どうすればいいのかなって悩んでいたんです。これは元々私の事情でもあるんですが……私では妹を救う事が出来なくて…だから、私の代わりにあの子を助けてほしいと思って……。図々しいお願いなのは承知の上です。どうか、この無力の私のお願いを、聞いてくれないでしょうか!!」
と言って、深々と俺に頭を下げる学園No.1の女。俺は少し考え込んで……彼女の前を通り過ぎながら……。
京太「気が向いたら……な」
とそんな曖昧な回答を返して、先に進んだのだった。
同じように下に兄弟を持つ同士、俺は彼女の言いたい事がなんとなくわかる気がしていた。というか、境遇がまるで一致しているのもあり他人事のようにはとても思えなかった……。だが、今の俺では助けるかどうかなんてわからない。……だから、そんな曖昧な返答しか言う事ができなかった。だって今の俺は……昔の僕とは違うのだから……。
□□□
それから俺は歩いて歩いて、歩き続けて……やがて、その墓の前にたどり着いた。まさか、こんな形で墓参りに赴く事になるとはな……。妹の墓石には、もう何ヶ月も掃除をしていないのか、墓石の表面に苔がところどころに繁殖していた。
京太「汚くなっちまったな」
綺麗にしてやりたいのは山々だが、今は綺麗にしている暇はないので俺は心の中で許しを乞いながら墓石を動かす。俺はあくまで、妹の体がここにあるかないかを確かめるためにここに来た。ただそれだけなのだ。
……だが、よくよく考えてみれば墓石に遺体がなかったからと言って本当にあの子が本物だと言えるか?いくらなんでも証拠としては不十分だ。だとしたら、俺がいまやっている事ってただ罠にハマりに来ただけの馬鹿な人間と事か??まあ、だからなんだの話なわけなのだが……。と思いつつ、墓の中を確認し終えた俺は、静かにその墓石を元の形に戻す。結果は、なかった。てことは、奴らは妹の体ごとそうしたという事か……。とりあえずわかったので、俺がそこを立とうとしたその瞬間の事だった。
いきなり、背後から銃声が鳴り響いた。その音を聞き取った俺は、感覚だけでその銃弾を避けた。いったい誰だろうなと思いながら背後を振り向くと……そこには。青いコートを着た少年と、上半身に拘束具を付けられた紫っぽい白髪の黒いコートの少女がそこにいたのだった。
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