桶狭間の戦い②
遅くなりすいません。
清洲城 信景の私室
信長は城内に武田の使者である信景の部屋を、早急に用意した。その部屋に信之は入ると甲斐から連れてきた自らの重臣たちは話し合っていた。
「この清洲城の城下、いや尾張は甲斐の地より賑やかですな」
信景の筆頭家臣である傅役の馬場民部少輔 信房が笑いながら答える。
「ですな、馬場殿。織田は津島・熱田という大きな港をもっており、そこから上がる銭で潤っておるのだろう」
信房に同意しながら自分の意見を述べる者は逃げの弾正と呼ばれる高坂弾正 昌信。武田信之の四天王である。
「いやはや、これが織田の力の源ですな。大国である今川相手に長年、戦えたのも頷ける。しかし港を取られると元も子もないですね」
織田のことを認めつつも、痛いところをつくのは、こちらも武田信景の四天王である内藤昌豊。
「しかし、尾張の城は落とすのに容易い城ばかりですな。平野が主なので堅固な山城はなく、武田の騎馬隊が有効に使えそうな土地ですな」
尾張の城を落とすのは容易いと言って顎に手を当てているのは飯富昌景、後の山県昌景であり信之の四天王である。
「やれやれ、今川攻めが近いと言うのに俺と一緒に尾張に来るなど正気か?」
今川が尾張国に向けて大軍で押し寄せて来てると言うのに緊張のカケラも無く談義をしている自分の家臣を見て呆れる。
「確かに今川攻めですな。遠江守(信景)様も三河から攻めいるのでしょう?」
信景の質問に不思議そうに答える昌豊。
「それはそうだが、少しは緊張感というものはないのか?」
「そんなもの、持ち合わせておりませんな若様」
当たり前のように答える信房。それに他の者達も頷く。
「聞いて損したよ」
「ところで織田殿との面会はどうなったので?」
呆れてる信景に苦笑しながらも昌信は本題を切り出す。
「上総介殿はかなり驚いていたな。まさか今川の同盟国である武田からの使者。ましてや敵国の同盟相手、つまり間接的だか敵でもある武田からとなると驚くのも無理はない」
「なるほど、お館様のご子息である遠江守様が使者となればそれだけ、重要な要件だと思うからな」
昌景は頷きながら答える。
「信房、軍は今どうなってる?」
信景は数名の護衛を連れて家臣達より早く尾張に向かったので三河を攻める軍勢は信房達に任せてあった。
「はっ!我が武田軍は3百の兵が清洲城城下におりますが残りの2千7百は今川軍本隊近くに布陣しておりまする」
「近くか?それは大丈夫なんだろうな?」
「はっ、旗印は今川にしておりますゆえに心配はご無用かと。武田に内応している葛山長嘉殿、長谷川元長殿の両名の軍に紛れ込ませております」
「その他に江尻親良殿、戸部政直殿も内応しております 」
信房の後に続き昌豊も答える。
「四名か、なるほど分かった。昌豊と昌景は三百の兵をいつでも出陣できるように準備していてくれ」
「準備ですか?」
不思議そうな顔をしながら聞いてくる昌豊。
「あぁ、上総介殿は恐らく情報が入り次第出陣するだろう。僅かな供だけでな。そこに我らが素早く合流して、上総介殿からの印象を良いものにする」
「なるほど、これからの行動にも差し支えるということですな」
頷きながら相槌をうつ昌景。
「そうだ。俺は再び上総介殿に会いに行く。昌豊と昌景は手勢に戻り、信房と昌信は俺に付いて来い」
「「「「はっ!」」」」
信景達五人は二手に分かれて部屋を出たのだった。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
「ふぅ……」
信長は軍議から戻ると自室に戻った。部屋の外に一人だけ小姓を置き、部屋には誰もいない。軍議では籠城派と出撃派の家臣達が揉めていつまでたっても結論が出なく、難儀していた。
「よもや、武田の使者がくるとは……。予想外だ。まぁ、そのおかげでつまらん軍議を終わらせることが出来た事は良しとしよう」
信長は呆れたように首を振る。
「武田は甲斐、信濃、上野の三ヶ国を領し、石高は100万石は超えるだろう。今は越後の上杉と対立していると聞くが、なんの意図で織田に使者を……」
「殿、お客様が来られましたがどうなされますか?」
信長がちょうど考えている時に外で控えていた小姓が部屋の中にいる信長に声をかける。
障子には小姓とその他に3人の人影が写っていた。
「誰だ?」
「はっ!武田遠江守様と、そのご家老です」
(早速来たか……)
「通せ」
「はっ!どうぞ、お入りください」
「かたじけない。失礼します」
信景は小姓に軽く頭を下げて部屋の中に入る。その後に続き信房と昌信も入り、最後は先ほどまで外に控えていた小姓も流石に部屋の中に入る。当然だろう、同盟を結んでもいない、ましてや家臣でもない敵国の使者が主君の部屋に3人で入るなど、心配しないほうがおかしいのだ。
「上総介殿、突然の訪問すいませぬ」
信景は信長の前に座ると軽く頭を下げる。それに続き信房と昌信も同じように頭を下げる。
「気にしてはおらん。俺に様があって来たのだろう?」
「はい、2つほど。一つは今川軍のこと、2つ目は武田の意図についてです」
「ほぅ、どちらも有難いことだ。ちょうど今川についても、武田の意図についても考えていたところだ」
(流石は信長、こちらの話す要件についてはわかっていたか……)
少し驚きながらも信景は話を続ける。
「ではまず我々、武田の意図についてです。先程の軍議で述べさせて頂いたように共に今川に対して非公式ではありますが同盟を結びいただきたい」
「それは織田にとっては願ったり叶ったりだが、武田にとっては利がないが……」
「いいえ、利はあります」
「……治部大夫か」
信長は目を閉じてポツリと答える。
「はい、彼が生きている以上は武田は海には出られないでしょう」
「治部大夫が死ねば、今川は崩れるだろうな。軍師の雪斎は既にこの世には居なく、まとめるものがおらんからな。しかし海に出たいだけか?恐らく別にも意図があるだろう?」
「お見通しというわけですか。はい、その通りです。確かに海には出たい。しかしそれは1つの理由として、武田の周りには大国が3つあります」
「北に上杉、南に今川、東に北条か」
「はい、今は甲・駿・相三国同盟で安定しておりますが、武田が内陸で縮こまっているうちに、関東は北条。北陸は上杉。畿内は今川が平定するやも知れません」
「領地が増えれば当然、敵もその分減る。減った後は残った近場の敵か」
「はい、いつ今川や北条が牙を向いてくるかわかりません」
「そこで織田というわけか……。なるほどな。武田の意図はわかった、それでもう一つの今川について聞きたい」
信長は納得した様に腕を組みながら、もう一つの今川について問いかけてくる。
「今川についてですが、既に内応している武将が四名ほどおります。その者達の報告によると、今は桶狭間にて休憩中途のこと」
「そ…それはまことか!?」
信長は驚きのあまり立ち上がる。
「はい、ですので出陣するならば今かと……」
「分かった。武田殿、感謝する。おい!具足だ‼︎」
信長は急ぎ出陣の支度をするのであった。
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