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音速チョコレートに運命の相手はいない。  作者: モノクローマー
音速チョコレート、真相を知る
41/50

41 「全員等しく思いが叶わない可能性だって戻ってくるよ」

ギオンは、暗く熱のこもった調子で続ける。


「結局、女神の存在が、人間の多くの可能性をつぶしているのさ。普通の人間でないと幸せになれない世界を作っているのは、あの人形だ。……かくいう私は、女神に『運命の相手はいない』と言われた人間でね」


「え」


ギオンの言葉に、思わず反応する。相手のいない人間。一定数在ると言った女神の言葉は、嘘じゃなかった。俺以外にも、女神に祝福されなかった人がいる。


ギオンは俺が予想外のことにショックを受けていると思ったのか、肩をすくめてみせた。


「驚いたかい? 世の中には、そういうこともあるらしい。では、私は誰と共に生きていけばいいんだ? 一生、誰とも何も分かち合えないまま、1人で生きていけとでも?」


ギオンは一言一言噛みしめるように言い募った。


「友人たちが次々と結婚し、幸せな家庭を築いていく中、1人で年を重ねていく空しさがわかるか? 何をどう努力しても、お互い憎からず思う間柄になっても、『あなたは運命の相手じゃないから』と離れられる苦しみがわかるか? 私が個人的に、『運命の相手じゃなくてもいいから、結婚しよう』と言ったところで、何も変わらんのだ。


この世界から、この社会から、女神の神託を取り除かない限りは!」


こみ上げる激情の乗った声が、荒々しく俺の心を揺さぶる。


生まれは自分の努力では変えられないとはよく言ったものだ。運命の相手がいるかどうかなんて、自力ではどうにもならない。


俺が1人で好きになったところで、ハルキに別の運命の相手がいたら、俺の気持ちが報われることは一生ないのだ。


言葉を失った俺を見ながら、女子がこぼす。


「私たちはお互いの苦しみを分かち合って、女神を盗み出すことに決めたの。こんな風にお互いに影響を与えなくたって共に在ることを選べる世界になってほしい。女神は確約してくれなかったけど、お互いの気持ちを理解し合えるんだから、私たちは運命の相手だとも言えるはずよ」


それは、素敵な幸せの在り方なのかもしれない。神様に約束されていなくても、自分たちで生きていくと決められるのは。


だけど、と心の中の俺が警鐘を鳴らす。だからって、このやり方が正しいのか?


大昔、人間に頼まれて、人間に幸せになってほしいからと応えた女神に責任を押し付けるのが、正当なやり方か? 今、幸せを享受している人たちから、祝福も保証も取り上げてしまうのがいいやり方か?


この人たちの想いを、しかるべき場所で訴えることだってできるはずだ。それこそ、ツェルマ官長はこの人たちのつらさを知っているんだから、相談すれば、手助けだってしてくれただろうに。


でも、この感じだと、この人たちは3人だけで誘拐を強行したんだろう。官長、疑ってごめん。3人に頼ってもらえない至らない官吏、って評価に訂正しとくよ。


俺はゆるりと目線を上げる。布がかけられたままのガラスケースを見やって、口を開いた。


「確かに、今の社会のルールは、俺もちょっとおかしいと思うよ。神託と運命の人とを巡って、いろんな問題があると思う。普通の枠に収まってる人たちは、それを問題として認識してくれないし」


姉ちゃんの結婚だってそうだ。俺は女神に直訴しに行って、ハルキが俺の話を聞いて同意してくれて、少し納得したつもりだったけど。きっと、俺と同じ疑問を持っている人がいるはずだ。でもこれだって、端を発すれば女神の存在かもしれないけど、すべてが女神の責任ってわけじゃない。


「普通の幸せを望む権利が得られないっていう、あんたたちの主張もわかる。俺も普通からは外れたから、その気持ちは痛いほどよくわかるよ。だけど、逆に俺たちには、今あるものを勝手に壊す権利だってないはずだ!」


「何だと?」


「だってそうだろ? 俺たちが『女神に人間の可能性を潰す権利なんてない』って言うなら、逆に俺たちにだって、女神の祝福を受けて幸せに暮らしてる人たちの平穏を奪う権利だってないんだよ。


勝手に女神をさらってきて、一方的に罪をなすりつけて、私刑にするのが真っ当なやり方だとは思えないよ。それじゃ、普通の幸せを得られるはずの人たちの可能性だって潰してしまう。あんたたちが嫌ってる女神と一緒だよ」


3人に、動揺が走る。


わかるよ。思いつめると、自分の気持ちだけが正義だって信じきってしまう。自分たちのやってることが、自分たちの忌み嫌う女神と一緒だなんて、思ったこともなかったろう。


鍵屋が裏返りそうな声で負けじと言い返してくる。


「でも、女神さえいなくなれば、今普通から外れている人も、今幸せな人も、多くの可能性が戻ってくるんだ! 全員等しく自由を手に入れられる!」


「全員等しく幸せになれる権利が手に入るけど、全員等しく思いが叶わない可能性だって戻ってくるよ。


それに、そんなことは問題じゃない。結局、誰にも反対したりする暇をあげないで、勝手に女神を悪だと決めつけて誘拐する、あんたたちのこのやり方が卑怯だって言ってるんだよ!」


俺の言葉に、3人が黙りこむ。静まり返った庫内で、俺は問いかけた。


「もし、人間に、神託はもうやめてって言われたら。口を閉ざすよね、アルメリア?」


女子がひくりと肩を揺らす。恐る恐る視線を動かした鍵屋の向こうで、ギオンがコンテナの上にある荷物の布をゆっくりと外した。


せまいガラスケースの中を泳ぐ女神は、美しい唇をゆるりと持ち上げて笑う。


「もちろんよ。あなたたち人間が、それを望むなら」

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