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音速チョコレートに運命の相手はいない。  作者: モノクローマー
音速チョコレート、ごはん中
22/50

22 「話通じないのなんか、当たり前じゃん!」

「朝ごはんできたわよ」


目尻に浮かんだ涙を払っている父さんの横から、母さんが湯気の立つ朝食を運んでくる。食欲をそそるいい匂いをバックに、父さんは言った。


「話通じないのなんか、当たり前じゃん!」


俺は思わず固まった。寝てない脳みそがうまく動いてくれない。話が通じないのは、当たり前。


俺が言葉を失っている間に、父さんは笑いながら続ける。


「俺、母さんと話通じたと思ったことないぞ! なあ?」


「若い頃はケンカばかりだったもんねえ」


母さんは懐かしむように返事をして、食卓にいつもの食器を並べていく。父さんはひらひらと手を振りながら、言い切った。


「全部共感できて、まるごと全部自分にそっくりな奴がいたって、俺の運命は劇的に変わったりしねえよ! 違うとこがあるから、お互いに持ってないものがあるから、自分も相手も影響し合って運命になるんだろうが」


天啓のように突き刺さる言葉に、俺は言葉を忘れた。


そうか、別に全て通じ合う必要はないのか。いや、理解したり、尊重したりできるような結果になれば、だけど。お互いのいい刺激になって、価値観の幅が広がれば。


追加で何品か運んできた母さんが、苦笑しながら口をはさむ。


「お父さんはちょっと言い過ぎだと思うわよ。共感したり、よく理解してくれる人が運命の人って人たちもいるでしょう。ずっと1人で寂しかった人なんかは、寄り添ってくれる理解者が現れたからこそ、劇的に運命が変わるかもしれないんだし」


「ああ、それはそうか……」


それこそ、姉ちゃんは自分の絵の支援者が旦那で、運命はまるっと変わったんだし、そういう捉え方もある。


母さんはスプーンを俺と父さんに手渡しながら言った。


「まあ、運命の人がどういう存在かなんて、人によって違うわよ。理解者なのか、ライバルなのか、庇護対象なのか。どんな存在にせよ、理解できることもあれば、できないこともある。ぶつかって、ケンカして、言い争いながら作っていく関係もあるわよ」


俺はスプーンを握りしめて、昨日の不出来な自分を叱咤する。そうだ、1回ケンカしたくらいで何だ。ハルキの悲しそうな顔見てビビるなよ。


母さんの力強い声が、俺の背中を押す。


「女神様に約束された仲なんだから、自信もちなさい」


きっとこれから死ぬまでに、ハルキの怒った顔も呆れた顔も、寂しそうな顔も、いらないくらい見ることになるだろう。だけど、その倍笑わせてやればいいってだけの話だ。


まずは腹ごしらえ。その後は熱いシャワー。それから、犯人探しだ。


俺の運命の相手だ。少々嫌がられたって、俺が守るんだ。ハルキともちゃんと話をする。そうだ、失敗したら、やり直せばいいだけの話だ。


俺のもやもやを煮こんだミネストローネを一気に飲みほす。体の内側に熱が戻ってくる。温まった指先に赤みが戻ってきたのを見て、俺はスプーンを置いた。

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