16 「俺で協力できることなら、なんでもするよ」
「ジストリス記録官、声が大きいです……!」
これだから酔っぱらいは! 何のために俺が今、聞き耳立てないようにしてたと思ってんだよ!
ハルキの愚鈍さに呆れながら、同時に耳にした情報に胸中がざわついた。
俺はハルキを押しのけるようにして、制服に尋ねる。
「女神は無事なの? 宮殿は大丈夫?」
「え……」
返答に窮した制服が、頼りなさげな視線をハルキに向ける。ハルキは俺の額を手の平で押しやって、制服に訊いた。
「で、女神は無事か? 他の奴らは?」
同じこと気になるんじゃん。俺が訊いたって同じだろ。
俺がハルキの押しに負けまいと踏ん張っていたら、制服は諦めたように話しだした。
「女神は宮殿内に。宮殿も火を付けられたり破壊されたわけではないので……。ただ、異常に気付いたファルマン監査官が、犯人一味ともめたようで、怪我を……」
「怪我!?」
「ファルマンて誰? 俺の知ってる人?」
聞き覚えのない名前だ。ハルキを見上げると、ハルキは俺を押しやろうとしていた手の力をゆるめて、苦々しげな声を絞り出した。
「アイセンだよ」
「えっ何それ! アイセンさんが怪我!?」
制服は俺の驚きようにぎょっとした顔をしながらも、あせったように言い募る。
「とにかくそういうわけで、ジストリス記録官には至急宮殿へお越しいただきたく……」
「わかった、すぐに行く」
「俺も行く!」
俺の張り上げた声で、制服が一瞬固まる。それとは対照的に、すぐさま降ってきたのはハルキの呆れ声だった。
「おまえはもう帰りなさい。夜だし、親御さんも心配するし……」
「今日は運命の人と晩飯だから帰らないかもって母さんに行ってあるもんね! どーせ、ホテルか家に連れこむ気満々だったくせに」
「ぐっ……! それは今関係ないだろ……! 一般人を、宮殿の一大事に連れこむわけには……」
「アイセンさんも女神も、俺の恩人だもん!」
俺はハルキにすがりつくように抱きついて、わざと悲壮な顔を作る。言葉を詰まらせたハルキを、押し切るような勢いで言葉を紡いだ。
「心配だよ……! ちょっと見に行くくらい、いいでしょ! ハルキ、お願い……!」
引き結ばれたハルキの口元から、俺のおねだりが効いていることがわかる。ハルキはハの字にした眉をひくつかせてから、ようよう声を絞りだした。
「……ちょっとだけだぞ」
「やったあ! ハルキ、ありがとう!」
「ジストリス記録官!」
諌めるような制服の声をバックに、俺はハルキの首元に手を回して抱きついた。酔っぱらいはちょろい。うちの父さんも、酒が入ってるときはおねだりが効きやすい。
ハルキはにやけるのを堪えているような顔をしたまま、俺を引きはがす。
「まあ、ちょっとこいつには確認しなきゃいけないこともあるし」
「今宮殿で起きた件と、その一般人が関係あるんですか!?」
「あるかもしれないから、確認するんだよ」
詰めよる制服に冷静に返事をして、ハルキはすっと落ち着いた様子で俺に目配せした。
「その賊の侵入経路とか、な」
その言葉にぴんときて、俺は顔を引きしめた。
そうだな。今日俺が忍びこんだときも、裏口の鍵は付け替えられていなかった。俺がそうしたみたいに、前々から侵入を考えてた奴がいたなら、あの警備の手薄な裏口を使った可能性は大いにある。
俺はひとつ頷いた。
「オッケー、俺で協力できることなら、何でもするよ」
俺を心配して背中を押してくれた、大事な恩人たちの一大事だ。ハルキを見上げて、小さく笑ってみせる。
「急ごう。走れる?」
「当然」
どうかな。酔っぱらいの千鳥足には厳しいんじゃない?
からかおうと思ったけど、仰ぎ見たハルキの表情は思いのほか真剣だった。仲のいい同期が怪我してるんだし、そりゃそうか。
行きましょう、と小走りで駆けだした制服に続いて、俺とハルキも走りだす。
っつーか今思ったけど、何でハルキは仕事上がった後の居場所が職場の奴にバレてんの? 夜はデートなんだって職場で言いふらしたか、あのレストランを薦めてくれたのが職場の奴かの二択だな。
この一件が落ち着いたら、絶対追求してやる。




