悪役令嬢の最期
乙女ゲームは高校生の頃よくやってたなぁ。
今やると、どーにもむず痒くなるのは、歳のせいでしょうか。
「キャロライン・フォンバーテン!君との婚約を今ここで破棄する!」
あの人は言った。声を高らかにして。
全てが夢のように思えた。
どうして、こうなったのだろう。
「君がカトリーヌに対して行った嫌がらせの数々、いや、もはや嫌がらせとは呼べない。これは立派な傷害罪だ」
あの人の側には、寄りかかるようにする女性の姿。
ずっと、あの人の隣には私がいると思っていたのに。
「それに君だけではない。君の家…フォンバーテン公爵家の不正も既に明るみに出ている。近いうちに陛下から沙汰が下されるだろう」
さよならだ、と彼は言う。
冷たい視線で、冷たい声で。
私の心は絶望に染められた。
私だけじゃない。
お父様もお母様も、親戚の皆も全員が消される。
言われもない、罪で。
もう涙は出てこなかった。
その代わりにこぼれるのは、乾いた笑いだ。
これが笑わずにいられるか。
私の笑い声に、あの人や周りの人たちが怪訝な顔をする。
「この期に及んで、笑うのか。やはりこの女、悪女と呼ばれるだけあるな」
好きに言うがいい。
愛する人に裏切られ、それでも愛を取り戻せると信じて。
疎まれても、嫌われても、それでも彼を正しい道へと戻したかった。
だけど、全ては私の空回りで終わったのだ。
そして、私は殺される。
私の一族は、殺される。
乾いた笑いが、自嘲に変わる。
「この期に及んで、まだ私が思うのは貴方だということが、自分自身を笑ってしまうわね、ヘラ」
私の愛した人。
幼い頃に出会って、一目で好きになった人。
貴方を支えて生きることを、どれだけ幸せに思ったか。
その為だったらば、どんなに辛い勉強にだって耐えたのに。
私を愛していると言った貴方は、もういない。
「残念だがキャロライン。私が今愛しているのは、カトリーヌただ一人だ」
「ヘラルド様…。嬉しいですわ」
横にいたブロンドの髪を持つ女性が、愛する人に寄り添う。
そう、貴方は変わってしまったから。
私は、貴方の目を覚ますことができなかった。
そして私は最期の日を迎える。
今日まで食べ物を殆ど手に付けられなかった。
だって、私はこのままいなくなるのだから。
私は処刑台に登っていく。
遠くで、両親か親戚か、誰かが斬首された音がする。
もはや、恐ろしいという感情は失っていた。
私の死を見降ろそうと、多くの見知った貴族たちの顔が見える。
その中には、交友を結んでいた王妃様や、王太子妃様の姿も見える。
彼女たちは顔を強張らせ、涙を浮かべてくれた。
ああ、彼女たちにお礼を言いたかった。
ヘラルドの妃になろうとしている私に、多くの事を教えてくれていたのは、彼女たちなのだから。
「キャロライン・フォンバーテン。何か言い残すことはあるか」
処刑人が、私の名を呼ぶ。
私はそっと目を閉じる。
無実を叫ぼうか、それともこの場にいる全てを呪うか。
…そんな最期は、ごめんだわ。
そんな最期、このキャロライン・フォンバーテンに相応しくない。
私は胸を張る。誰に見られても、みじめに見えないように。
それが私のプライド。
「私は、私の思うままに、精一杯己の生を全うしましたわ。何も思い残すことはございません」
うそ。
思い残すことばかり。
あの人と幸せになりたかった。
多くの人々を幸せにする手伝いがしたかった。
そして。
最期に、あの子にもう一度会いたかった。
私に刃が振り下ろされる。
まっすぐ前を見据え、私の…キャロライン・フォンバーテンの一生はここに終わった。
願わくば、あの子が、幸せに健やかに、生きることができますように。
悪役令嬢のタグ付いてるけど、悪役令嬢はここで退場。
次回からは悪役令嬢の娘が活躍させていただきます。




