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アオハルファクトリー ―高卒作業者と大卒エリート、ふたりの不器用な再会―  作者: yazuya


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一章 エピローグ

実習が終わったGW明けは、静かだった。

ラインはいつも通り動いている。作業員たちもいつも通り動いている。

なのに、どこかが違う気がした。

賑やかだったわけじゃない。むしろ三週間、いろいろと面倒だった。

でも。

あの三週間は、確かに何かがあった。

「先輩、今日もぼんやりしてますよ」

陽菜が覗き込んできた。

「してない」

「してます。ここ最近ずっとそうです」

「仕事は回してる」

「そうですけど」

陽菜がラインの端を見た。

実習生がいた場所。真昼が毎日立っていた場所。

今はただの作業スペースに戻っていた。

「……寂しいですか」

「そんなことはない」

「そうですか」

陽菜は何も言わなかった。

でも、その目が少しだけ揺れていた。

昼休憩。

食堂はいつも通り賑やかだった。

陽菜と二人でいつもの席に座って、定食を食べていた。

「先輩、やっぱりぼんやりしてますよ」

「してない」

「してます。高坂さんがいなくなってから、ずっとそうですよ」

「関係ない」

「ほんとに?」

答えなかった。

三週間。

あっという間だった。

慌ただしくて、面倒で、余計な心配ばかりした三週間だったのに。

終わってみると、妙に軽い気がした。

いい意味じゃない。

何かが抜けたみたいな、その感じだった。

寂しい、という言葉が頭に浮かんで、俺は静かにそれを打ち消した。

打ち消したはずなのに、また浮かんできた。

「あれ」

陽菜の目が、俺の後ろで止まった。

「……なんか、見たことある人いません?」

「どこに」

「あそこ。こっち来てますよ」

振り返った。

止まった。

トレーを持って、こちらへ真っ直ぐ歩いてくる人間がいた。

見間違えるはずがない。

高坂真昼だった。

スーツじゃない。作業着だった。

「隣、いい?」

もう座っている。聞く意味がない。

「……なんでここにいるんだ」

「食堂だからお昼ご飯を食べに来たに決まっているじゃない」

「そういう意味じゃない。お前は本社に戻ったんじゃないのか」

真昼がトレーを置いて、箸を手に取った。

「戻っていない」

「なんでだ」

「この会社の生産技術部に配属されたから」

俺は少し間を置いた。

「……生産技術部?」

「そう」

「お前なら本社のもっといい部署に行けただろ」

「そうかもしれないけど」

真昼が少しだけ箸を止めた。

「実習で現場の重要性がわかったから、生産技術を希望したの」

「自分で希望したのか」

「人事部に直接お願いした」

さらりと言った。

でも、その目は真っ直ぐだった。

あの頃と同じ目だった。正しいと思ったら引かない、高坂真昼の目だった。

「現場を知らないまま理論だけ振りかざしても、届かないって身に染みたから」

俺は何も言わなかった。

「それに」

真昼が少し間を置いた。

「柴崎に助けてもらったままで終わるのは、嫌だから」

俺は何も言わなかった。

「三週間、いろいろ助けてもらった。でも私はまだ何も返せていない」

「返さなくていい」

「よくない」

真昼が俺を真っ直ぐ見た。

「今度は生産技術部として、私が柴崎を助ける番だから」

言い切った。

迷いのない顔だった。

「これからもよろしく、柴崎」

笑顔だった。

勝負を仕掛けてくる顔じゃなかった。

もっと真っ直ぐで、温かくて、でも引かない顔だった。

まじか、と思った。

本当に来るとは思っていなかった。

連絡先を交換した時も、また会えたらいいとは思っていた。でも、この工場に来るとは。

でも。

胸の奥が、静かに動いた。

あの頃とは違う。

教室で点数を競っていた頃とは、全然違う。

でも、同じ場所にいる感覚がした。

それが、なぜかおかしくなかった。

むしろ、悪くない気がした。

「……よろしく」

短く言った。

真昼が少しだけ目を細めた。

また何かを言いかけて、定食に視線を戻した。

陽菜が、二人のやり取りを黙って見ていた。

箸が止まっている。

「……あの」

「なんだ」

「高坂さん、この会社に来たんですか」

「来た」

「……そうですか」

陽菜は笑った。

でもその笑いは、いつもの屈託のない笑いじゃなかった。

少し力が入っていた。

「じゃあ、これからよろしくお願いします、高坂さん」

「よろしく」

「はい」

陽菜は箸を再び動かした。

でも、その目はどこか遠くを見ていた。

何かを飲み込んでいるような、でも飲み込みきれていないような。

そういう顔だった。

食堂のざわめきが続く。

いつもの昼休憩。

でも、何かが変わった昼休憩だった。

三週間前、再会した時は最悪だと思った。

逃げ場がなくなったと思った。

でも今は。

ただ、悪くない。

そう思いながら、俺は定食の続きを食べた。

隣で、真昼も静かに食べていた。

また、始まった。

高校の時とは違う場所で。

六年分の時間を挟んで。

でも、同じ二人が、また同じ場所にいる。

それが、どういうことなのかはまだわからない。

ただ、悪くない。

それだけは、確かだった。

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