第21話 ホントに?
これ、どうなってるの?
あたし今完全に水の中に居るんだけど?
呼吸できてるんだけど?
何この水?
浮力ないわけ?
屈折もないの?
そのくせ泳ごうと思えば泳げるのは何なの?
変な水だなぁ〜!
めっちゃ黒い海に落ちたと思ったら綺麗なエメラルドグリーンだし?
イデアルブルームって言ったってなぁ〜。
まだ何にも掴めてない訳だけど。
とりあえずついて行くしかないか〜。
この魚人に……
あぁ…カイさんに会いたい……
「…何ジロジロ見てんだよ。何もねぇぞ?」
見るからにガキだよなぁコイツ…
肌が水色じゃなかったら魚人だとは思えないんだよな〜。
まあ肌色以外にも水かきがあったり背中にひれがあったりしてるけど。
「てかさ、どうやってここに辿り着いたんだ?わざわざイデアルブルームは島だなんて嘘も広めたってのに…」
な~んだそういう事?
ホントは海の中でした〜、ね。
でもそうしたらオッサンの話はどうなるんだ?
「あたしらの船が海王とかいう奴にやられて沈没したの。気づいたら漂流してるし、目覚めたらあんたが目の前にいるし。」
まあ後で考えるか~。
今は状況把握に集中しよっと。
「な、か、海王って…それって、もしかして、黒い体してるか?」
「何でそんな事が気になるわけ〜?デカくて黒くてイカみたいな奴だったよ。」
「間違いないよ!そいつだ!」
うぉぉ、急に詰め寄ってこないでよ〜…
「あんた、名前は?」
今度は急に名前〜?
「…あたしはカイラ。じゃあアンタは?」
「俺はルワンだよ。ルワン・シーブルフェーズ。」
何で家名まで言ったのかな…
「……?驚けよ。」
「え?」
「何だよ、その反応。シーブルフェーズだぞ?」
「いやだから、知らないって。」
もぉ~、知らないものは知らないよ。
どうやって驚けって言ってるのかな~。
「…あぁーもう!これだから陸の奴らは!王族だよ!魚人の王族!!俺は王子なの!!」
「え〜?ああ〜うん。そうだね〜」
「絶対信じてないな!?」
そりゃあねぇ。
ぱっと思いつく限り疑問点を挙げてくと~…
「何で漂流したあたしと偶然遭遇したの?護衛の一人もいないの?それなら抜け出した?服装が貧民だよ?疑う点が多すぎるって〜…」
裏があるっぽいんだよな〜。
なんでこんな何もない海の中にいるんだよ~。
もっと周りに見える町とかあればなぁ〜…ここド辺境じゃん。
「うぐっ…!?だったら、理由を聞くとかしろよ!」
「我儘なところは貴族の坊ちゃんらしいね〜」
とにかく不審な点もありすぎるし、
コイツのことはひとまず信じない。
「じゃあ、はいはい。聞きま~す。何でこんななんもないところにボロボロの服で一人で居るんですか〜?」
「そ、それは……」
何かあるんじゃない?やっぱり。
これでコイツのことを信じる奴はよっぽどの馬鹿かな~。
……ジオは怪しいか。
「言えないってことはやっぱり信じなくてもいいよね?」
「だ、だって…」
「忘れてないよね~?あたしって、海賊なわけ。いつでもあたしの好きなようにできるの。アンタなんか襲っても何の価値もなさそうだけど。」
でも海賊としてはホントに王族だってことに期待しちゃうね。
金稼ぎの時間だねぇ?
「わ、分かったよ!!……兄貴だよ。ルークって言うんだ。イデアルブルームの王太子。とにかく、最近兄貴はおかしくなっちまったんだ。権力を振りかざすことばっかりしてる。俺、城を追い出されたんだ。」
「それで?それが口ごもったことと関係あんの?」
「言いたくないだろ!自分の家族が周りに迷惑かけたんだぞ!」
お優しいね。
流石王族。
あたしにはそういう気遣い分かんないからなぁ〜。
碌な生き方してないし。
「そう思えてる内は幸せだよあんた。もっと胸張って生きな。」
あたしは親の顔もよく分かんないんだからさ。
「な、なんだよ!こんなにいつも堂々としてるのにか!?」
青い肌の小柄な胸筋を突き出されても……
「自分で言うんだ〜。」
という感想しか。
「と、とにかく!そんで辺境に飛ばされたんだよ。そしたら更に災難があってさ!あのクソイカが襲ってきたんだよ!あいつ、俺が僅かに持ってた金まで全部持っていきやがった!おまけにあの野郎が作った海流に抗えなくてさ…俺もあんたも同じような波の流れに乗ってきたってことだと思うんだ。」
なるほどね。
コイツが先に襲われたってことか。
海王は金に目がない…というより、財宝に、って感じ?
ていうか、魚人の王子サマなのに波に抗えずとか…
コイツが弱いのか、海王が異次元なのか…
後者はあんまり考えたくないなぁ~。
「そもそも今はどこに向かってる訳~?」
「イデアルブルームの首都だよ。何とか城に戻してもらうんだ。兄貴はほんとは優しいから、何か理由があるはずなんだ。」
首都…ねぇ。
イデアルブルーム自体、地名だとかじゃなくて国だってこと?
「まあ、とりあえず連れてってくれればこれ以上何も言わないから。」
あたしも早く…
………。
「お~い…置いてくぞ?」
「…え?あ、うるさいな~…ヤるよ?」
「なんだよ物騒だな!」
「海賊だって言ってんでしょ。馬鹿なの?」
いけないいけない、しっかりしろ~あたし。
ちゃんと気を引き締めないと。
あくまで、カイさんに会いたいだけだから。
それより他のことなんてないから。
それより目の前の問題に向かうか~。
なんだっけ?ルワン?
王子ってのが本当なら、王宮に入るついでにお宝ガッポリ頂いちゃおっかな~。
もしくは拘束して人質にして身代金要求もアリだな……
「あっ!!!」
ビックリした!
大きい声出さないでよ!
水の中だからかめっちゃ頭に響くんだけど~?
「急に何?うるさいな~。」
「あのさ…俺……」
「ちょ、待って。嫌な予感。」
「ここがどこか分かんねぇから…帰り方分かんねぇ…」
「ぶん殴っていい?」
「やめろォ!俺が悪かったから!」
はいはい、分かったよも~!!
そんな気はしてたんだよなぁ~!
突っ込み待ちかと思ったくらい!
漂流してるって言ってるのに
‘’ドコ向かってんだコイツ’’
なんてずっと頭によぎってたよ!
「……で?どうするっていうわけ?」
「あんた海賊なんだろ?なんか漂流したときの心得みたいなの無いのかよ?」
「ふっざけ…!あったらアンタとは一緒に行動してないわ!」
「ああ!?そうかよだったら別行動にするか!?」
「………アンタには謝らない!」
「じゃあ俺も知らん!」
全然王子らしさがないなコイツゥ~!!
でも別行動をするのはまずいんだよなぁ~…
癪だけど………従うしか……クッソ~!!
一攫千金狙ってたんだけど………
諦めるかぁ~……
……。
「…で、どうすんの?」
「………と、とりあえず夜になるまで待つか…」
「なんで?」
「首都には輝く塔があるんだよ。そりゃあもう眩しいくらいに。試したことないけど……多分光のある方向に行けば……着くと思う…」
「そこは言い切ってほしかったなぁ~。」
………海の中で夜を経験したことはないな~。
多分…てか絶対……
――――――――――
「真っ暗じゃねぇーか!!!!」
「光を探っていけば着くはずなんだよ!」
「その光がねぇーんだよぉぉぉ!!!」
ほーんと何も見えないなぁ!
隣に確かにいるはずのコイツの顔すら!
「なーんで夜まで待とうなんて言ったのかなぁ!?日光遮られてんの!光源のこの字も無いの!」
「しし、仕方ないだろ!夜に城を出たことなかったんだよ!」
言い訳ご苦労様だよホント!
ちゃんと歩けてんのかすら分かんないんだから!
「…あっ!ほら、あれ見ろよ!」
「あれぇ?何のこ…と……」
あれは…!!
暖かく包み込むような、
暗い心を照らしてくれるような…
「「光だーー!!!」」
「あとはアレに向かって進むだ……。」
…え?
これって…まさか……
「ほぉーら、俺の言う通りだろ?あの光が指す方向に首都が……え?」
なーんか……白い歯が見えるんですけど〜…
やっぱりこれって…
「こ、ここ、これって…!」
「「チョウチンアンコウじゃねぇ〜か!!!!」」
ああ…最後に見た景色は……
化け物の口の中…か……
いや…暗いから何も見えないわ。
やっとひと段落だ…




