表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/42

打診

「ほれ、こっちじゃ。それで最後じゃから、頑張れ」


 エルやシェリルらが出かけて五分ほど。

 夕登アリシアの指示で屋敷の書庫から50冊以上の分厚い本を彼女の部屋へと何回かに分けて運び出していた。


「よいしょっ、と! 中々、疲れるな」


「ふぅ、これでおしまいじゃ。そこの椅子に座るといい。飲み物と菓子を出してやろう」


 アリシアは魔力のおかげで筋力や体力が増強されているので、重い物を何度も運んでいたが息を切らすことも汗を垂らすこともない。

 魔力が使えることはアイテムポケットの一件で把握しているが、どのようにすればうまく使いこなせるのかについては、全く理解できていないのである。

 そのため、夕登にとって重労働だった。

 汗が滲み、腕や足はパンパンだ。

 明日、筋肉痛にならないか心配である。


「それで、一体これは何なんだ?」


「この国の経済や政治関連の資料じゃ」


「なんでそんなものをアリシアが持っているんだ?」


「革命後、国の運営をするならば必要なものじゃろう? ワシらは新たな王を立て、陰から支えるつもりじゃ。レジスタンスのメンバーから数人、国の諮問機関に派遣する予定でな」


「それが、話したいことでいいのか?」


「うむ。理解が早くて助かる」


 夕登とアリシアは木のテーブルを挟んで座り、机上にはアリシアが入れてくれた、果実を絞ったジュースと何種類かのクッキーが置かれているだけでなく、十冊の本が積み上げられている。

 彼らの足元の周辺には運んできた大量の本が散らばっていた。


「言っておくが、俺はこの国について殆ど何も知らないぞ? 話の内容によっては答える事すら出来ないかもしれないが?」


「それは別によい。ワシもすでに知っておる。まぁ、単刀直入に言うとな、お主、革命後に王国の政治体制へ入らんか?」


 アリシアは頬杖を突きながら、ニヤリと口角を上げながら夕登へそんな打診をする。


「それは官僚という事でいいのか?」


「そうじゃ」


「なぜ、それを俺に? ほんの数秒前に言っただろ? 王国について何も知らないって」


 夕登にはアリシアがどうしてそんなことをと、彼女の意図が全く理解できなかった。

 通常、政治を動かす地位にいる者はその国を知り尽くし、幾人からも信頼を得ている人物でないといけない。

 それは国の政策を円滑に進めるためだ。

 知識の無い人間は当然、役には立たないし、かといって信頼のおける人物でなければ上手く物事を運ぶことは出来ないだろう。

 そう言った重要な役職をアリシアは、王国において部外者である夕登へ任せようとするのか、彼には微塵も思いつかなかった。


「魔王から聞いたが、お主は政治や経済について詳しいのじゃろう? その知識があれば、別にこの国の事を知らなくてもよい。他にも沢山、官僚がおる。適材適所じゃ。最初は知恵を貸してくれるだけでよい。後々、この国について知って行けばいいではないかと思うんじゃが?」


「そうは言ってもだな。俺はめちゃくちゃ詳しいわけじゃない。少し知識があるだけだ。あまり買いかぶられても困るんだ」


 夕登は確かにここへ来る前に政治経済の学部を卒業し、社会人になってから、仕事上必要な経営や情報技術に関する本を読んだりしていたのは事実だが、官僚となれば別のはずだ。

 日本で官僚や政治家になった訳では無いのだ。

 加えて、ここは文明レベルは縁結びの神によれば中世並みらしい、夕登の住んでいた文明レベルと違いすぎる。

 知識を貸せと言われても、それに見合った的確な知識を差し出せるかどうか不明だ。


「それなら、仕方あるまい。官僚にはならんでもよいが、少しだけでも知識を貸してくれ。ワシの質問に答えてくれるだけでよいのじゃ」


「まぁ、答えられることくらいなら」


「うむ。ありがたい! 早速じゃが、ここのページに書いてあることでな、最近、複数の地域で、とある商人が開いた店が出来てから軒並みどの店も閉まり始めておるんじゃ。理由が分からんかの?」


 アリシアは、一つの赤い表紙の本を手に取って、ぱらぱらとページをめくって夕登に見せた。


「それだけじゃあ、俺にもわからない。もう少し詳しく教えてくれ。例えば、商人の店についてとか」


「そうじゃな、その店はとにかく物が安いと評判だと書いてある。じゃが、周りの店もそれに合わせて店を値段を下げて競争しておったそうじゃが、どの店も最終的に負けてしまったのじゃ。それも同じ値段で商人の店よりも品質が良くて、潰れるまではその店に客が流れておった。それでも潰れてしまったのじゃ。客が来てモノを買ってくれるというのにおかしいとは思わんか?」


「なるほど、そう言うことか。それなら、すぐに法律を変える必要があるな。革命後、とある法律を作る用意しておくのが良いぞ」


「ほ、法律とな⁉ そこまでの事なのか?」


「ああ、これは経済を弱らせないために必要な法律だ」


 夕登はアリシアの話を聞いてすぐに、どんな状況なのか把握できた。

 幸い、この事案は夕登の世界においても共通する問題だ。

 しかも、初歩的なものである。

 彼はアリシアにどういうことか話し始めた。


ここまでお読み頂きありがとうございました。

よろしければ、評価を付けていただけますと作者は大喜びします!

どうぞよろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ