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アリシアの過去5ー惨劇の始まり

 落胆していたのも束の間、アリシアは一転はしゃぎ散らかしている。

 出店を回って大量の食べ物をゲットし、また冷かして回るのだ。

 それから、様々なイベントに参加したり、演劇を鑑賞するなど満喫三昧である。


「やっぱり祭は楽しいのう! 参加してなんぼじゃ! 踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃそんそん。とは言うが、同じ阿呆ならどっちも体験せねばな!」


 と、こんな風に祭の雰囲気に染まり、300歳の吸血鬼はその辺りにいる10歳やそこらの子供達よりずっと子供に見えた。


「しかし、本当に色々な種族が暮らしておるのう。この城塞都市におらん種族は皆無かと思うほどじゃの」


 たった数時間ではあるが、どこに行っても沢山の種族がいて、すでに獣人族の犬族、猫族、狐族、狼族、兎族と出会い、竜族、エルフ、ドワーフ、精霊族、天使、悪魔などとも出会った。

 もちろん、吸血鬼にもだ。


「さて、そろそろ時間かの」


 アリシアは近くの時計を見てみると、その針は後、二十分ほどで正午を示すところだった。

 昼の十二時には市民広場の銅像前でエルとアンリと落ち合う約束だ。

 ここから、市民広場まで歩いて五分ぐらいだろうか。

 なんにせよ、遅れてはきまりが悪いので早速と思い、体を反転させ進路を変える。

 その瞬間、近くで大きな爆発音が聞こえた。


「なんだ!」


「おいおい、どうしたんだ?」


「もしかしたら、夜に打ち上げる花火が爆発したのかもしれん!」


「何? 本当にそうだったらやばいぞ! けが人が出てるかもしれねぇ! 助けに行くぞ!」


「よし、水の魔法が使える奴と回復の魔法が使える奴は俺に付いて来い!」


 そんな風に、祭の最中にも拘らず、住人たちは助け合いの精神を見せ、爆発音がした方向へ駆けて行く。

 それはこの街の者達がそれだけ、お互いを好いているという証明であった。


「市民広場の方向じゃしな。見に行ってみるか。エル達が巻き込まれていたら助けてやらんとな」


 アリシアは彼女たちが心配になって、市民広場の方へ猛スピードで駆けて行く。

 そうして、たどり着いた市民広場。

 爆発はどうやらここで起きたようだ。

 そしてここには、焼け焦げた跡があり、死体が転がり多数の負傷者達がいた。

 しかし、それはどう見ても花火が爆発したせいで起きた惨劇ではない。

 なぜなら、殺し合いが起きているからだ。


「一体、なんなんじゃこれは!」


 銀色の鎧を着た者達が祭を楽しんでいた人々を襲っている。


「あの鎧! この国の軍人が身に着けておるものではないか! 何故じゃ。どうなっておる!」


 アリシアが見たのは、王国の紋章が付いた鎧を着る兵士が一般市民を虐殺する様だった。


「この国で一体何が起こっておるのじゃ。いや、そんな事よりここから脱出する方が先か。戦争にしろ内紛にしろワシには関係の無いこと。エルとアンリくらいは世話になったし、一緒に助けてやるかの」


 彼女はガルバスから出ることを考え始める。

 驚きを隠し得ない表情を先ほどまでしていたというのに、今は恐ろしいほど冷静だった。


 アリシアは強大な力を持っている。そう簡単には死ぬことは無いし、怪我さえすることもないだろう。 加えて彼女は吸血鬼だ。人間と見分けがつかないし、襲われることもないだろうからである。

 それにもしかすれば、このガルバスを襲っている輩を一蹴できるかもしれない。

 

 だが、そんなことを一切、彼女はしない。

 怪我をしている人を助けることもしないし、襲われている人を救うこともしない。

 なぜなら、彼女はこの国の人間ではないからだ。

 外部の人間が国の大事に関わっては良くないからで、アリシアはとある国を崩壊させてしまったこともある。だから、彼女はむやみやたらにその力を使うことは無いのだ。


「しかし、疑問じゃのう。なぜ、兵士は人間以外なのじゃ? そして、襲われている人も人間以外。兵士に反抗したものは人間でも殺され散ておるようじゃが。まさか!」


 アリシアはすぐに気付いた。

 兵士が皆、人間以外で、襲撃されている者は全員、人間以外の種族。

 そして、アリシアはとあることを思い浮かんだ。

 それは彼女にとって、とても許せないことでもあった。


「おい! そこの!」


 彼女は横たわっていた猫族の兵士のすぐ近くにしゃがみこむ。


「た、たすけ、てく、れ」


「助けてはやる。じゃが、ここで何が起きているのか教えるのじゃ。教えるというのならば、助けてやる」


 男は酷い怪我で喋る気力もないのか、無言で頷いた。

 すぐにアリシアは回復の魔法を発動させて、男が十分に話せるまでに癒す。


「あ、ありがとう!」


「礼は別によい。それで、一体どうなっておるのじゃ?」


「王都でクーデターが起きたんだ!」


「クーデター?」


「そうだ。国王様はクーデターによって失脚され、今はその息子であるオルガム王子が王座に就かれた」


「つまり、その王子がクーデターの首謀者か」


「そうだ! アイツは国王様を自分の手で殺したんだ!」


「それで、どうなったのじゃ。クーデターが起きたからと言ってここを襲う意味はないじゃろ?」


「そうだが、オルガムは人間以外の種族を嫌っている! だから、あのクソ野郎は王になったその瞬間から王都と首都であるガルバスから人間以外の異種族を排除する気なんだ!」


 猫族の兵士は語気を強めて怒りを滲ませた口調で、クーデターの首謀者である王子を恨む。


「やはり、兵士達は人間以外を殺す気だったのじゃな。しかし、それならばどうしてお主達、兵士は皆、人間以外なのじゃ? ふつう、異種族の兵士も排除の対象だと思うがの?」


「アイツは人間の兵士が死ぬのはもったいないからと言って、俺達を差し向けた! しかも、みんな、家族や恋人、友人を人質に取られているんだ! だから、逆らうことは出来なかった」


 男は悔しそうに涙を浮かべて、語った。

 人質に取らているということは王子、現国王は随分と前から計画を練っていたと見るべきだ。

 祭の一日目からそれを決行する辺りオルガムは相当、このクーデターに意味を見出したいようにアリシアには感じられた。

 この祭りは殺された前国王の誕生を祝うものだ。それを自身の即位に塗り替えたというわけである。

 中々悪趣味な話だ。


「祖奴はとんでもない腐れ外道じゃの! 流石のワシでも許せん! 同じ種族同士で殺させるなど何を考えておるのかッ! 異種族に対する差別や迫害。ワシが一番嫌うことをやりおってからに!」

 

 彼女は兵士の話を聞く前とは打って変わって、憤怒の感情を燃え上がらせる。

 そのわけは、

 

 アリシアは幼少期、母国で酷い虐待に遭っていた。

 その国は吸血鬼や悪魔を悪の象徴として捉える国で、アリシアは吸血鬼という理由だけで何度も殺されかけた。

 国からは何とか逃げ出したものの、家族は皆が殺され友人もそれきり会うことは無かったのだ。

 だから、彼女は旅の途中に寄った国で起きた、種族間の争いが種である紛争を止めようとしたが、力の使い方を間違いその国を崩壊させてしまった。

 その経験もあって、自分の力を自分のため以外には使わないと決めたが、今回は止められそうになかった。

 彼女はすでに魔力を解き放ち、憎悪の念をこの事件の犯人であるオルガムに向けている。


「まずは、エルとアンリを助けねばな。無事じゃといいが」


 アリシアは立ち上がった瞬間、動体視力の良い猫族の兵士の目にさえ捉えることのできない速度でその場を去った。


ここまでお読み頂きありがとうございました。

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