始伝~顔を喰らう者 ~その七 終
外伝はこれにて最終話となります。
「悪く思うなよ・・・・・・」
パチンッ!
帝は指を弾くとは指を弾かせて、蓮を拘束結界により四肢の自由を奪い拘束した。
「なっ!?」
最早、同情する余地もないと判断した帝。
「いつの間に、お義兄様はこんな結界まで習得したのでしょう・・・・・・あはぁん・・・・・・この結界・・・・・・から伝わるお義兄様の冷た・・・・・・い・・・・・・この殺気・・・・・・気持ひぃ・・・・・・あひぃ・・・・・・いぃ・・・・・・お・・・義・・・・・・兄さ・・・・・・まぁっ~・・・・・・もぅ・・・・・・イィっ~!
このまま、私はお義兄様に殺されるのね・・・・・・」
「訂正だ。殺さない・・・・・・お前がやった事を悔い改めてもらう!」
そう言って、大きく息を吸い込みある女性の名を叫ぶ。
「アキノッ! 出てこい!」
「「えっ?」」
蓮、タマが驚きの声をあげる。
カツカツと言うヒールが響く音と共に月光に照らし出された顔のないアキノが歩いてきた。
「で、どこから聞いて、どこまで聞いていたと聞くだけ無駄か・・・・・・最初から聞いていたんだろう?」
帝の問いにアキノはこくんと縦に頷いた。
ひどく焼け爛れた傷は消えているのは別れた直後に自らの妖力で治したのだろう。
「そ・・・・・・そんな・・・・・・お・・・・・・義兄様・・・・・・ひどいっ!」
何がひどいのかこちらが聞きたいとこであるが、蓮としては大好きで殺す手前まで愛している男に殺されるなら結婚はできなくもそれも本望だったのだろう。だが、帝はそれを知っていて、やらなかった。
「アキノ・・・・・・あとは好きにしろ。」
帝はそう言って、治癒用の破魔札を取り出すと、背中、脇腹に当てて治癒を開始すると同時にアキノはゆっくりと蓮に近づいていく。
「近づくなっ!この汚らわしいムジナがっ! 触れていいのはお義兄様だけぞっ!」
そんな言葉を無視してアキノは止まる事無く進んで行き、そして蓮の目と鼻の先で止まる。
少し押せばキスが出来そうな近距離だ。
「ひぃぃっ!
お義兄様・・・・・・助け・・・・・・て」
蓮の思いと想い、その声は帝に届かなかった。
届く筈もなかったのだ。自分が妖怪を見下してる限り、帝は蓮に振り向く事はない・・・・・・そして、この先妖怪との態度を改めたとしても彼が自分に向き合ってくれる事はない。 蓮はそれほどまでに虚空帝と言う男を怒らせたのだと実感する。
「心配かけたな。」
「全く・・・・・・お主と言う奴は・・・・・・」
治療を終え、タマの頭をぐしゃぐしゃと撫でまわして言う彼の表情は今まで連には一度たりとも絶対に見せない表情だった。
「う、嘘・・・・・・そんな・・・・・・なんで・・・・・・そんな顔してるの・・・・・・お義兄様は私の・・・・・・もの・・・・・・なのに」
「蓮と言ったな? 帝はなどんな時でも妖怪と対等でいてくれる。人としては稀有な存在じゃ。
対等でいられるだけの力を持っているのじゃ。そして、当の本人も対等でいようと努めておる。
好意をもって接する者を妖怪は決して見下したりはしない。それは人でも妖でも同じ事じゃ。」
帝に抱き抱えられたタマは涙を流す連に対し、好意を持つ者とは対等に接すると言葉を聞きあうあうと口をパクパクさせるだけだった。
「蓮・・・・・・俺がお前にしてやれる事はもうないが・・・・・・最後の慈悲はくれてやる。
アキノ、腸が煮えくり返る程の怒りはわからんでもないが、そんなクズを殺すだけ無駄だし、ジャンクフード以下の人間食って腹壊したら面白くもないだろう?」
それは帝が連に対してできる最後の優しさであった。
「そうですね・・・・・・ではこうしましょうか・・・・・・」
アキノがそう言うと、何もなかった顔の口の部位から耳まで裂けた大きな口が禍々しく出現した。
「いやっ!やめてっ!ゆるっ!?
ひぎゃああああああああっ!!」
バクンと蓮の左顔半分に噛みついたアキノはそのままジュルジュルルルッーというコップの底に溜まった最後のジュースをストローで吸う音に似た吸引音が終わり、アキノは蓮の顔から離れ、ポケットから出したハンカチで口元拭う。
「ゲスな人の顔はまずいですね・・・・・・ゲテモノは美味というのは都市伝説なんでしょうか?」
そう言って、普段の顔になり、少し残念そうに言った。
「都市伝説か知らないが、イナゴの佃煮やハチの子やザザムシなんかはうまいぞ。」
「ぎゃあああああっー! いだいっ! いだいよぉぉっ! がおがぁっ! あだじのがおがぁぁっ!」
アキノが連から離れると同時に蓮を拘束していた結界を消すと蓮はすぐに左顔半分を抑えて悶える。
抑えた手の隙間から筋肉組織的な部位が垣間見られる。
「痛い・・・・・・痛いよぉ・・・・・・お義兄様ぁ・・・・・・」
悶えながら這いずりながら帝の左足をまるで藁か蜘蛛の糸でも掴むように力一杯縋りついたが彼は振り払った。
「タマ、もう少し待っててくれ。」
静かな声で囁き、タマを降ろした帝は今しがた払い除けた蓮に向き直る。
「あぁ・・・・・・やっぱり、お義兄様は優しいです!」
希望が見えた言わんばかりの連の顔は確かに希望で満ち溢れていた。だが、それはすぐに絶望に変わる。
「それはアキノがくれた慈悲だ。 そして・・・・・・これが俺からの慈悲だ・・・・・・」
音もなく無光を引き抜くと、帝は無光の形を変えた。
「お・・・・・・義・・・・・・兄様?」
無光は無数の細長い針へと変わり、その針は蓮の真上に浮いていた。
「・・・・・・俺はお前に兄らしい事を一つもしてやれなかった・・・・・・それは本当にすまない・・・・・・許せとは言わん・・・・・・」
膝を付いて、連の右半分の顔を申し訳なさそうに撫でる蓮はそう言って立ち上がって、彼女に背を向けると同時に呟く。
「・・・・・・貫け・・・・・・」
その呟きは本当に小さな声だった・・・・・・かろうじてタマは消え入りそうなその声を聴いた。
無数の針は帝の言葉を聞くと重力を取り戻した針は容赦なく蓮に降り注ぎ顔以外の部位を貫いた。
「ぐぎゃああああああああっーーー!」
響く連の叫びが終わると痙攣したようにその身体をビクンビクンと引き攣らせ、そして彼女の意識はなくし、無光を鞘に戻した。
「命に別状はない・・・・・・だが、二度と力は使えないように全霊門を再生できない程に破壊させてもらった・・・・・・・・・・・・・・・本当にごめん・・・・・・蓮・・・・・・」
最期の蓮への謝罪はタマですら聞こえない程の声であった。
もし、自分がもっと連と向き合って対等に付き合っていたとしたら?
もっと連に対し優しくできていたら?
連に対し、もっと家族として接していれば?
今とは違う結果になったのではない?
もしかしたら、俺と同じように妖怪や精霊と仲良くなり、タマや座敷童女の様に俺と共に並んでくれたのではないか?
いや、それ以前にちゃんと蓮を見てなかったのは他ならぬ俺自身ではないのか・・・・・・義理とはいえ、妹を手にかけ、再起不能にした・・・・・・そんな思いが今、彼自身を縛り付ける。葛藤する・・・・・・答えは出ない・・・・・・出したとしてもそれは自己満足でしかない・・・・・・
「帝さん。 後悔して・・・・・・いるのですか?」
アキノの問いに帝は何も言わずタマを抱き抱える。
「み・・・・・・かど?」
いつもはピンと立つ筈のタマの耳は寝ていた。
「心配ない・・・・・・アキノ、後悔はしていないと言ったら嘘になる。」
帝の言葉を聞いた二人はやっぱりという表情をする。
「あんたに偉そうなご高説を言っといてこの様だ。 だらしないな・・・・・・俺は・・・・・・」
そんな事ないとタマとアキノが口を開こうとした瞬間。
「だが、俺は俺だ・・・・・・この先も・・・・・・俺は俺であり続ける・・・・・・」
それは自分自身への決意だった。
「じゃあな・・・・・・旦那とうまくやれよ。 それとそこの奴は放っておいて大丈夫だ。
潜んでる本家の連中が回収するさ。」
アキノに向かいそう言って、帝は歩き出す。
「そして聞け!
俺は家に戻る事も属する事もない! あのクソ親父に伝えとけっ!
俺や俺の家族、友人、仲間に手を出したら何者であろうが俺の邪魔をするのであれば遠慮はしないとな!」
大きな声で叫ぶと同時に無言で無光の形状を変化させて蓮の時と同じく無数の針に変える。
その針の数は蓮の時とは違い数千、数万本になっている。
右腕でタマを抱き抱えて塞がっている為、左腕を高く振り上げ、そして振り下ろすと、物陰、木陰、茂みと潜んでいる人間の向かい体中に突き刺さる。
「「「「「「「「「「ぎゃああああああああああああああああああっー!!」」」」」」」」」」
樹上に隠れている奴は落ちて悶え、隠れていた奴はその場でゴロゴロと転がって悶え、そして茂みから体中が針だらけになり悶え転がった一人の男が帝の前に来た時、帝はその男の髪の毛を掴んで顔を近づけた。
「今の言葉、忘れずに伝えろ。いいな?」
「うぅぅ・・・・・・」
呻き声しか上げない男はこくんと頷くと帝は手を放し、歩き始め、やがて二人は夜の闇へと消えて行った・・・・・・それから、しばらくして夜な夜な、大きなキツネに跨り片手に日本刀を持った青年が都会の街を疾駆する噂が某掲示板のオカルト板で話題を呼び始めたのは別の話。
お読みいただきありがとうございました。
これにて外伝は完結となります。
稚拙な駄文にお付き合い誠にありがとうございました。
ではではまた本編の方でお会いしましょう(´・ω・`)ノシ




