始伝~顔を喰らう者 ~その五
第5話です。
完結まであと2話です(笑)
「このアニメ、面白いの」
タマはそう言って、帝が胡坐をかいている足を枕にしてにテレビを見ていた。
「まぁ、なのはシリーズがどこから見ても面白いからな。って、タマ・・・・・・狐姿になるな・・・・・・毛が落ちるだろ」
帝はそう言って、呆れ気味に言った後、優しくタマの頭を撫でながら、アニメを見つつこんな時間がいつまでも続くと青年と妖狐は思っていた。
妖気にのみ込まれた秀仁を見つめながら帝が呟いた。
「あのバカ・・・・・・・・・・・・次から次へとよく覚えてるもんだな」
半ば呆れ気味の帝。
放った妖気の波動は修羅鬼を飲み込むもあまりダメージが入ってないよう見えた
「うぅむ・・・・・・ディバインバスターではだめか・・・・・・やはり、あれか・・・・・・一秒間に十六連打した方が良かったか?」
元の姿に戻ったタマは平然と立っている秀仁にそう言った。
「あの人はどこの高橋名人ですか・・・・・・」
「突っ込んだら負けだ・・・・・・アキノ」
「流派、東方不敗の名の下に!
我のこの手が真っ赤に燃える 勝利を掴めととどろき叫ぶ!
爆熱! ゴッドフィンガー・・・・・・石破っ!天驚ぉぉぉ拳っ!!」
お誂え向きに全身金色になり、某有名ロボットシリーズの最強技を放つタマ。
それを受けて、ものともしない秀仁。
「先程から玉藻さまは何をしようとしているんですか? 見ていると、攻撃がすべて紙一重で急所を外しているように見えますが・・・・・・」
アキノの疑問に、帝は苦痛に顔を歪めつつ答え始めた。
「戻そうとしているんだよ。あいつを人間にな。本来、修羅鬼になったら人の手によって戻す事はできない。人間が妖気を吸うなんて事は出来ないからな――だが、妖怪ならいや・・・・・・神にすら匹敵する力がある妖怪にならそれは可能なんだよ・・・・・・タマはアイツの妖力を吸い込みつつ、体力を削ってんのさ・・・・・・スタミナが切れれば、妖怪化も解ける。」
そう言うと、帝は立ち上がった。
「まだ無茶は・・・・・・」
「しなくちゃならんだろ・・・・・・惚れた相手が一生懸命戦ってくれてんだ・・・・・・動けるなら頭だけになろうが、這いずってでも、それが少しでもあいつの力になるならな・・・・・・」
帝はそう言って、激痛が走る左腹部を右腕で抑え、ジャケットのポケットから取り出した札を左手に持ち、歩き出そうとするも、足元がふらつき数歩、歩いただけで倒れ込んだ。
「大人しく寝ているのじゃ! ダメ嫁!」
タマがそう言って、秀仁の攻撃をかわし、迫る秀仁を蹴り飛ばしたり、殴り飛ばしたりしつつ、タマは帝の様子を見るとこれ以上時間をかけられないと思い、勝負に出る事を決め、タマが秀仁との間合いを取ると深く深呼吸した。
「些か削り切れんかったが十分じゃろ・・・・・・さて、嫁の容体がよろしくないようじゃからの。
悪いが遊びもこれで終いじゃ・・・・・・」
タマがそう言うと、凄まじい妖気が彼女の周囲を取り巻き、その妖気は無光へと集まって行く。
「愛の心にて、悪しき空間を断つ。名付けて、断空光牙剣! やぁぁぁってやるぜ!」
タマは某ロボットアニメの決め台詞を言うと、刀身に自分の妖気を収束させ、その刃を秀仁に向けて斬りかかった。
「グギャァッー!」
秀仁の悲痛な叫び声と共に、袈裟切りに斬られた傷から赤い飛沫と膨大な妖力を放出した後、彼は元の人間に戻り、その場に膝をついた。
「秀仁さん!」
アキノはそう言ってかけ寄り、膝をついた秀仁を抱きかかえて涙を流し始めた。その様子を見たタマは無光を鞘にしまうとアキノの右肩に手を置いてこう言った。
「大丈夫じゃ・・・・・・我が斬ったのは修羅のみじゃ。」
秀仁の傷口を指差すタマ。
「傷口がな・・・・・・い?」
アキノは改めて、秀仁の体を見ると、斬った傷がどこにもなかった。
「妖狐剣術最終奥義、秘剣・燕返しじゃ!」
「んなわけあるか! さっきと技名が違うだろ!」
タマの言葉に脇腹を抑えながら、歩み寄ってきた帝が突っ込みをいれた。
「仙狐妖術の一つじゃ。悪意ある気を一気に斬る事でその気を大気に分散させ、霧散させる技じゃ。二、三日は起きられないと思うが・・・・・・心配ないのじゃ」
「妖狐様、ありがとうございます・・・・・・」
秀仁がタマに向かって礼を言うとタマの顔が紅潮した。
「よ・・・・・・よさぬか・・・・・・我はただ、無駄な殺生をすると帝が怒って、また朝食がペットフードになるのが嫌なだけじゃ。勘違いするでないぞ。決して、主らの愛が強かったからとか座敷から聞いて話が羨ましかったからじゃないからの!」
耳まで真っ赤になったタマはそう言って、夜空に浮かぶ月を眺めた。
「それに、恋というのは、騙し騙されの世界じゃ。要は騙したもんの勝ちじゃ!」
と色々と言っているうちにタマの身長が縮んでいく。
「お・・・・・・おい、タマ・・・・・・お前・・・・・・」
「なんじゃ? わぁ! 暗い・・・・・・なんじゃこれは?」
タマの身長は縮み、衣服がブカブカになり、脱ごうとする最中にタマの身長は最終的に小学3年の平均身長になった。
「ん? 帝よ、お主、少し背が伸びたのではないか?」
「いや、縮んだのはお前だ、お前」
「は?」
アキノがさっと出したコンパクトの鏡に映る自分を見て、タマは絶句し固まるが、すぐに自分の術が失敗した事に気がついて叫んだ。
「数百年ぶりに使ったせいか、妖力を分散させすぎたー!」
タマが使用した術は自分の妖力をも分散できる術で、一つ間違えれば、自分も消えるという事もあった。分散した妖力が戻るには時間がかかる事を聞いた帝が口を開いた。
「自業自得だ・・・・・・でも良かった・・・・・・その姿になるだけで・・・・・・」
タマの頭をなでくり回す帝を見たアキノはクスクスっと笑っていた。
「お二人共、本当にありがとうございます」
アキノが立ち上がって、改めて帝達に頭を下げた。
「別にいいさ。人に危害を加える妖怪がいなかっただけ・・・・・・俺はただの痴話喧嘩に巻き込まれただけさ」
帝はそう言うと、タマがニヤリと笑みを浮かべてこう言った。
「ただの痴話喧嘩に巻き込まれた割には、深手のようじゃの?」
タマは言葉と同時に肘で傷口を小突くと帝は悶絶し、痛みを堪えながら、体裁を整えて、アキノにこう言った。
「とにかく。後は、あんたの心次第ってことだ」
帝の言葉を聞いたアキノは秀仁をじっと見つめて口を開いた。
「戸惑う事も多いかも知れませんが、なんだか、あなた達を見ていると私にもできると感じてきました・・・・・・」
「世の中、ヘビースモーカーのアニヲタで『俺の嫁は二次元にしかいない!』とか、好意を抱いてる女に向かって堂々と言ったり、しつけとか言ってリアル嫁にペットフード喰わせようとしたり、逆夜這いにいったら、侵入禁止の結界が張ったり、風邪なのに獣医に連れて行こうとしたりするうつけ者の婚約者がいるぐらいじゃ、お主達ならなんとかなるじゃろ。なぁ、帝よ」
タマはそう言って、帝の顔を見上げた。
「誰の事だか・・・・・・話があるんだろ? 帰りがてらに聞いてやる」
帝はそう言って、痛みを我慢し得タマをお姫様抱っこで抱えて歩き出した。二人の後ろ姿を見送るアキノは再度、ありがとうと言って深々と頭を下げると、二人は振り返らず、歩き、やがて、二人は夜の闇へと吸い込まれた。
「ところで、帝。夕刻、国税局の者達が来て、我の住居どころか資産から家財道具一式、財布の一円玉すらも差し押さえていったのじゃが、なにか心当たりがあるか?」
タマがそう言って帝の顔を見上げる。
「あー・・・・・・やっぱり、そうなったか・・・・・・」
予想が着いていたように帝はそう言った。
「どういう事じゃ?」
「いや・・・・・・実はな・・・・・・」
帝は抱き抱えたタマをおろし、最終のバスが行ったバス停のベンチにドサッと座る。
雲一つなく三日月の月光がベンチに座る二人を照らし出すと雨が降り出した。
『雨か・・・・・・そういえばこいつと会ったのも、雨だったな。 昼間だったがな・・・』
雲一つない晴天の元、一隻のタンカーが港に着いた。
「世話をかけたな。」
キャスター付きトランクケースをどんと桟橋に置き、白いワンピースをまとい、砂金のようにきめ細かな金髪を風になびかせた女性が、ヨットハットを目深に被り、パイプを咥えている男にそう言った。
「いいって事よ、たまたま、この港に寄港する事があったからついでにお前さんを乗っけたまでだ。」
そう言って、ニカっと笑う男。
「そうじゃな・・・・・・そう言ってもらえると助かる。」
女性の言葉使いはどこか、古めかしく、どことなく気品があった。
「これから、どうするつもりだ?
まさか、この国で余生を過ごすなんて事はあるまい。」
男はそう言って、慣れた手つきで、マッチを擦り、パイプに火をつけた。
「それもよいものじゃな。」
女性はそう言って、ニコッと笑い、八重歯を見せた。
「おいおい、玉藻御・・・・・・いや、仙狐ともあろう者がそんなんで大丈夫か?」
「冗談じゃ、飽きたらまたどこかへ行こうと思うておる。仙狐と言われようが、我が平安の時代にここでした事がバレてしまえば、それまでじゃよ。海を渡ると決めたらまたお主に頼むかもしれんな・・・・・・なあ、スミノエよ。」
女性はそう言って、男の名を呼んだ。
また、スミノエとは日本に古くから住む航海の神であった。
「我はこれにて、失礼する。」
「達者でな。藻女よ。」
みずくめと言われた女性とスミノエと呼ばれた男は互いに背を向け過ぎ去った。
一方、ここはあの二人が別れを交わした港からそう遠くない通り。
海沿いに産業道路が走り、その道路の上には高速道路が走っていた。
近くの高校の制服を纏った青年が、産業道路の脇にある歩道を卒業証書が入った筒をだるそうに持ちながら 煙草を咥えながら歩いていた。
「マスター、学友の皆さんとお別れしなくていいんですか? というか未成年が喫煙しないでください!」
おろおろと、周囲と見回す、妖精サイズの和装をした少女が、青年の右肩に乗ってそう言った。
「堅苦しい学生生活が終わったんだ。好きにさせろ。
それにな、今生の別れでもあるまいし、生きていてもいなくても、縁よって、道が交わるのならまた逢える。」
青年はそう言って、口の中に溜まった紫煙を吐くと同時に、突然の雨が降り始めた。
「マスター・・・・・・これって・・・・・・」
「落ち着けよ。ただの通り雨だ、狐の嫁入りとも言うが心配はない。すぐに止む。」
青年がそう言って、火が消えた煙草を携帯灰皿に押し込むと雨は一層強くなり、青年はずぶ濡れになりながら、道を歩いていた。
雲一つない空の下で突然の雨に戸惑う事もなく、道を歩き続けると、青年を刺すような視線があった。
「っ!?」
青年は妖気に気がついた。
妖気の正体は、先ほど港にいた女性だった。
「おや、お主よ・・・・・・面白い者を連れておるな。」
先ほど、女性がそう言って、青年を見つめていた。
「マスター!」
青年の肩に乗っていた少女が青年の前に浮かび、臨戦態勢入る。
「座敷童女にしては勝気な嬢ちゃんじゃの?
案ずるな、我は長旅で疲れてる故、何もしない・・・・・・ところで、ここらでうまい飯処はないか?
三百年ぶりにこの地に戻ってきたものでな、随分と市井が変わり、困っておった所じゃ。」
女性は妖艶な瞳を青年に向けたままそう言った。
「俺はそれよりも、服を乾かして、煙草が吸いたいな・・・・・・この雨のせいでで、火をつけはじめた煙草がポシャったからな・・・・・・」
「ふふふ・・・・・・あはは、主よ、我を目の当たりにして随分な余裕じゃの?
気に入った・・・・・・主よ、我の嫁になれ!」
それが帝とタマの初めての出会いだった。
お読みいただきありがとうございました。
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