始伝~顔を喰らう者 ~その二
外伝第二話です。
今更ですが、ここの話を本編に持ってきても良かったかとおもします(;´・ω・)
ここは、タマのマンションからそう遠くない公園。
帝はその公園のベンチに座り、煙草を咥えながら、雲一つない空をボケーと見ていた。
「あ~、これからどうするかな・・・・・・」
独り言のように呟く帝。
「謝ったらどうですか?」
突然現れては、帝の顔の間近でフヨフヨと浮いた手の平ぐらいの小さなおかっぱ頭で和装の少女が彼の左肩に乗って言った。
「勝手に出てくるな。 座敷童女。」
帝はそう言って、咥えていた煙草を右手で取ると、口の中に充満していた紫煙を吐いた。
彼の肩に乗っているのは座敷童という妖怪だ。本来は家に憑く妖怪だが、どういうわけか、この座敷童は帝に憑き、式神の一体として彼といる為、名を与え、座敷童女となった。
「マスターの霊力が強過ぎるんです。
私達、式神は普段、影にいますが、使い手の霊力の強さによって、私達は召喚されなくても自らの意思で実体化できるんですよ? お忘れですか?」
座敷童女の説明を帝は忘れていたわけではない。
「次期当主ともあろう者がこんなんでは困ります。
住んでいたボロアパートの家賃を滞納して追い出されるなんて、本家の者達の耳に入ったらいい笑い者です。」
座敷童の言葉に帝はフィルター近くまで燃える煙草を携帯灰皿に押しつけて消すと口を開いた。
「笑わせたい奴は笑わせておけばいいさ。俺はすでにあの家とは無関係だ。」
帝の家は平安時代以前から栄える有能な陰陽師の家系で、帝はその家の長男にして次期当主の立場にあるが、本家では忌み子として周囲から冷遇されていた。
その理由は、現当主の妾の子として生まれた事が一番の要因だった。
彼の一族は、時代の流れの中で廃れ絶えいくしかない陰陽師の家系を守るため、江戸以前の時代から人知れず、近親相姦によって子を生し、強い霊力がある者を産み、育て、有能な陰陽師として輩出してきたのだ。
そうして、己が一族の血を濃くする事により、現当主よりも強い霊力を持つ者が当主となり、家を守り、人々の生活を妖怪達から守ってきたのだが、ごく稀に突然変異とも取れる事が起きる事もあった。
一族では禁忌とされる、一族以外の者との間に、霊力が強い者が産まれる事があった。
それが帝であった。
帝は生まれながらにして強い霊力を持ち、幼き頃から精霊、聖獣との対話、そして何よりも、長けていたのは、その存在達を惹きつける圧倒的な魅力があった為、母と無理矢理離され、虚空家の長男として迎えられた。
「本当の事を言ったら許してもらえますよ。」
「腹違いの妹との結婚を断ったら、バカな妹が逆ギレして、アパートの不動産会社に本家の暗部が侵入して、俺の家賃データ書き換えて、手記の帳簿データも改竄し追い出されたと?」
幼少の頃の思い出から現実に戻された帝はそう言って、新たな煙草に火をつけた。
「あのクソ女狐が、国家予算の5倍以上の資産と貯金がある事ぐらい知っているし、下手に手を出して国のバランス崩すほど本家もバカじゃないだろ。」
帝はそう言って、また空に向かって口の中の紫煙を吐いたその時だった。
「・・・・・・あの・・・・・・」
目の前の女性に声をかけられた帝は、見上げていた顔を正面に向かせた。
「マスター! この者は・・・・・・」
女性を見るや、座敷童女が戦闘態勢に入る。
「やめておけ・・・・・・どうやら戦いに来たわけじゃないらしい。」
帝はそう言って、座敷童女を諌めた。
女性の顔は映画や小説に出てくる透明人間のように包帯を巻き、サングラスをかけていた。帝が女性と判断できたのは、透き通るような声のおかげだった。
「一目で解るんですね。」
「妖気を感じれば、妖怪だってわかるさ。」
女性の問いに帝はそう言って、煙草を吸い続けた。
「切り裂き魔が何の用だ? てか、白昼堂々と出歩くなよ・・・・・・素性が公表されてないとは言え、世間じゃ立派な犯罪者だろうに・・・・・・それにどうやって俺の居場所がわかった?」
「霊力が高い人間がそうはいませんから、すぐにわかります。それに切裂き魔は私じゃないのでご安心ください]
女性が言うと帝は煙草を携帯灰皿に押し込んだ。
「・・・・・・その件でお願いがあってきました。」
彼の行動に敵意を感じなかった彼女はそっと耳元でそう囁いた。
女性は昨夜、被害者の女性が襲われた現場近くにいた妖怪であり、帝とタマに出会っていたのだ。
「ここではなんですから、詳しくは私の家でお願いします。」
帝は女性の言葉を聞くと、ベンチから立ち上がった。
「危険過ぎま・・・・・・」
その行動を見た座敷童女が声をかけようとした瞬間、帝は、座敷童女をしまい、口を開いた。
「躾がない童女ですまない。」
帝はそう言って、彼女に頭を下げた。
「いえ、特に気にしてません。こちらへどうぞ。」
彼女はそう言うと、彼を車に案内させ、車中へと招き入れた。
「煙草・・・・・・吸っていいか?」
彼女が運転席に座り、エンジンをかけると同時に帝がジャケットの胸ポケットから出した煙草を見せて聞いた。
「すみません、禁煙車です。」
彼女はそう言ってゆっくりと車を出すと同時に、帝は煙草をしまいこんだ。
二人はずっと無言のまま車は彼女が住んでいる、高級マンションの地下駐車場に着くと帝は無言のまま、車を降りた。
「こっちです。」
女性がエレベーターにある方向に向かって歩くと帝もそれに続いた。
エレベーターに乗り、目的の階に着くと、一番日当たりがいい部屋だろうと思う所で、彼女は扉を開けた。
「汚いですが、どうぞ。」
「邪魔する。」
綺麗に掃除された部屋に上がると、帝はリビングに案内された。
帝が見渡すと、飾られた写真に目が移った。
(彼女に顔がある・・・・・・それに・・・・・・一緒に写ってるのは男か・・・・・・)
「お待たせしました。どうぞ。」
彼女はそう言って、コーヒー入れたカップを帝に差し出した。
「んで、俺に話というのはどういう事だ?」
帝は差し出されたコーヒーを一口飲んで、そう言った。
「私の正体にはもう察しがついていますね?
単刀直入に言うと切裂き魔を止めて欲しいのです。」
彼女はそう言って、サングラスを取り、顔に巻いた包帯を解いた。
「のっぺらぼう・・・・・・それが私です。」
包帯の下にある、顔を晒して女性はそう言った。
彼女の顔を見るや、帝はゾッとした。
彼女の何もないはずの顔には、ひどく爛れた跡があったのだ。
「普段は、雑誌やテレビに出ている人の顔のパーツを使ってこじんまりとした顔をモンタージュして過ごしていますが、この顔になってからは、それもままならい状態です。
病院で医師をしていまが、同性には受けが良くなかったみたいです。
そんな時、私は職場の看護師から、ワザと硫酸が入った瓶を落とされて、中に入っていた液体を浴びてしまい、今の顔になりました。
私には彼氏がいます・・・・・・とてもいい人間で気さくな人でした。
そんなある日、私は彼からプロポーズされました。
プロポーズされた時、私は妖怪だと言って、正体をさらしても、彼は『それでもいい、僕はそのままの君が好きだ』と。」
彼女の説明は長く続くので、掻い摘んで説明する事にしよう。
彼女の名は、秋乃。
切裂き魔の正体はアキノの彼氏である秀仁と言う男である事。
動機は復讐だった。
アキノはある日、勤め先で彼女は同僚の女性からワザと硫酸をかけられた事は事故として処理され、それを知った彼氏が犯行に及んだという事だった。
「妖怪が人の社会に溶け込むのは難しい事ですね・・・・・・もう私では彼を止める事はできないのです・・・・・・だからあなたにお願いしているのです。」
アキノはそう言って、婚約指輪に右手を添えた。
「悪いが、これは俺の仕事じゃない・・・・・・人間の犯行なら、警察の仕事だ。
俺の仕事は人間社会で悪事をする妖怪を倒す事だ。
わざわざ、妖怪のあんたに惚れたんだ。 その覚悟をあんたは不意にして、自分の顔を傷つけてまで諦めさせようとしたが男は諦める事ができず、あんたに恨みを思ってる連中を襲撃し始めたんだ。
痴話喧嘩もここまでくれば犬どころか退魔師ですらそっぽを向く。
男も男だがな。 ま、自分の愛しい人が傷つけられたら、俺もその男と同じ行動にでるがな・・・・・・」
「そ・・・・・・そんな事は・・・・・・」
「ないとは言い切れないんだろう?
それに、その顔、妖力が低くなっていたとしてもそのぐらいの傷なら簡単に治せるだろう?
暴走した婚約者が自分の手に負えないからって、誰かに婚約者を止めることはできない・・・・・・止められる者は、あんたしかいない事も判っているだろう?」
帝の言葉はまだ続く。
「あんたは、永い時代の中を生き抜いた事で、人を殺せる妖力をも身につけているはずだ・・・・・・彼を今でも想ってるなら、あんたは彼を殺してでも止めないといけないと言う覚悟をしないとダメだろ。」
帝はそう言って部屋を立ち去り、アキノのマンションを出た後、煙草に火をつけて、深い溜息と共にその煙を吐きだした後、携帯電話を取り出し、電話をかけ夕闇迫る町へと消えていった。




