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始伝~顔を喰らう者 ~その一

この作品は今連載している妖狐のオタ日和~現代妖怪伝奇譚~の数年前に書いたものです。

この話がプロトタイプになっていますので、多少(かなりかな?)キャラの性格が壊れてるかと思いますが読んで頂けたら幸いです。

この作品は某SNSサイトの日記フォームを利用して書いたもので、設定等の少々の修正を加えて、こちらに再投稿させていただきます。

全部で5話の予定です。

 『では次のニュースです。

 昨夜未明にまたもや若い女性の顔の一部を切り落とされるという事件が起きました。 女性は、両耳、唇、鼻を鋭利な刃物で切り落とされ、警察ではここ最近、発生している若い女性を狙った連続傷害事件として捜査を進めているという事です。』

 TVから流れる朝のニュースを聞き流しつつ、一人の青年が得意気にフライパンの上に卵を落とす。

 「よう、ねぼすけキツネ。」

 眠そうな目を擦りながら、金髪の女性がリビングに入ってくるなり、青年が声をかけた。

 「ぉふぁ・・・・・・よぉ・・・・・・帝・・・・・・ZZZ・・・・・・」

 青年の名を呼びつつ立ったまま寝る女性。

 「年寄りの癖に朝が弱いとは・・・・・・」

 帝と呼ばれた青年はそう言って、テーブルにドリップが終わったコーヒーを一つ置くと、すぐにキッチンに戻る。

 「ぬしも知っておろうに・・・・・・我は夜行性じゃ・・・・・・朝が弱いのは至極当然じゃろうに・・・・・・」

 そう言って、テーブルの前に置かれたソファにボフっと座る女性。

 「キツネ全般が夜行性だが、お前は妖怪だろうが。」

 女性の言葉に帝が返す。

 「妖怪とは言えキツネには変わるまい。ふぁ~・・・・・・むむっ! 先ほどからなにやらおいしそうな匂いがしているが、もしや朝食か?」

 女性の言葉に、帝はやれやれと言わんばかりに、焼きあがった目玉焼きを皿に載せて、テーブルに置いた。

 「さすが、我の嫁じゃ! 毎日、こうも香ばしい朝食を作ってくれるとは、主を娶って本当に良かったぞ。」

テーブルに置かれた、目玉焼きを美味しそうに見つめる女性に変化が現れた。頭にはキツネのよう耳がポンと出て、お尻からはキツネのようなふさふさした尻尾が九本生えたのだ。

 「タマ、耳と尻尾をしまえ。 人前で耳を出すなと何度言ったらわかるんだ。 それに、俺はお前の嫁になった覚えはない。お前を娶るぐらいなら二次元の嫁達の方がよっぽどマシだ。」

 帝はそう言って、女性の名前を呼び、テーブルの前に座ると朝の仕事が一つ片付いた息抜きにタバコを吸い始めた。

 「このヲタクが・・・・・・ん? 主よ・・・・・・皿が足りないぞ! なぜ一人分しかないのだ?」

 「ヲタクで結構だ。

 これは俺の食事だ。 お前のはほれ、そこにあるだろ。」

 帝はそう言って、ソファの横にタマと書かれたペット用の皿にてんこ盛りにされた固形のペットフードを指差した。

 「・・・・・・主よ・・・・・・」

 「なんだ? おかわりはないぞ。」

 青筋を立てるタマに帝は美味しそうに、自分で作った朝食をパクパクと食べていた。

 「なんじゃこれは?」

 「お前の朝食だ。 喜べ、今日はペディ●リーチャムの新製品だ。 最近のペットフードの内容物はすごいな。

 最高級神戸牛の霜降り肩ロースに牛タンが入ってるぞ。人間様はこんな素朴な朝食なのにペットはセレブ的な食事じゃないか。

 あー、俺も獣の妖怪になりてぇ~。」

 帝はそう言って、コーヒーを飲む。

 「主よ・・・・・・これはいぢめか? いぢめなのか?」

 タマはそう言って、握り拳をフルフルと震わせていた。

 「いぢめ? 違うなこれは躾だ。」

 帝はそう言って、理由を言い出し始める。

 「妖狐のくせに低級妖怪一匹捕らえられないどころか、あと少しというところで、日曜の朝に放映している、女児向けの某アニメシリーズ番組の7作目のコスして、『大地に咲く一輪の花、キュ●ブロッサム!』とかノリノリでポーズつけて言っている間に、妖怪を取り逃がし、新たな犠牲者を出して、その後、家に帰ってきたら、がんばったからご褒美くれと俺を誘惑して、既成事実を勝手に作ろうする死に遅れの嫁き遅れ(いきおくれ)な自称十七歳の一万歳をとうに過ぎた老害的な化石淫乱バカキツネに対して、自分の立場を再認識させている事がいぢめではなく躾だと思うのだが?」

 帝は言い終わるなり冷め切った目でタマを見下ろした。

 「我だって、反省はしているのじゃ、主と同じ物が食べたいのじゃぁ~。 いつもなら、失敗しても、ちゃんとした食事なのに、今回のはあんまりなのじゃ! ふぇ~ん。食べたい! 食べたぁーいっ!」

 ゴロゴロと床を転がり、泣きじゃくる狐の妖怪に帝は溜息をしつつ、テーブルにおいてあった新聞をおもむろにどけるともう一人分の食事が出てきた。

 「悪かった・・・・・・俺も少しイラついているんだ。」

 帝はそう言って、自分が食べた皿をキッチンに下げに行った。

 「いや・・・・・・昨日は我が悪いのだ…凡俗な妖怪や人間達から仙狐などと言われ天狗になっていたのじゃ…平安の時、白面金毛九尾の狐と恐れられた我じゃ・・・・・・この始末は我がつける。」

 タマはそう言って、食事を口に放り込み、コーヒーを飲んだ。

 「おいおい、お前だけで始末をつけてどうするんだ? ここは『俺達が始末をつける!』だろ。」

 帝はそう言って、タマが食べ終わった食器をキッチンに持っていくと洗い物をし始めた。

 「お主・・・・・・」

 「俺はお前の嫁なんだろう? なら、俺はお前の為に力を合わせる。それでいいじゃないか。」

 「だから、我は主が大好きなのじゃ! 虚空帝!」

 タマは嬉しさのあまり、またもや尻尾と耳を出して帝に抱きついた。

 二人のやり取りを見ればわかると思うが、昨夜、二人は連続障害の犯人と思しき者と遭遇し、その際、相手から放たれた気を妖気だと感じ取り押さえようとするもタマのせいで逃したのだ。

 ゴミ出し、掃除に洗濯と、帝は家事を一通りこなし落ち着いたところで、ワンピース無双をしているタマに話しかけた。

 「それで、タマ、昨夜の妖怪の正体は?」

 「のっぺらぼうじゃ。」

 帝の問いにタマが答える。

 「正体はムジナかタヌキか?」

 帝はさらにゲームに興じるタマに質問をぶつける。

 「我も最初はそう思うたのじゃが…一般的なのっぺらぼうはムジナやタヌキが妖怪化し、妖力を得た者達が人を驚かせる程度のものじゃが、昨夜の奴はあやつらとはまた違う…ましてや、人を襲うどころか、あの妖力ならば、人を殺める事も不可ではない…あれは恐らく…」

 「人間達が語っていく、のっぺらぼうが妖怪化し、妖力を得た、現代妖怪か…人を驚かせるだけの妖怪が人を傷つけるか・・・・・・」

 タマの言葉を終わりまで聞かず、帝が推測を言った。

 「妖怪というのは、昔からいる者であり、時代、時代によってその容姿、性質を変えていくものじゃ。キツネも今は、稲荷神として扱われる始末じゃからのぉ…日本は近代化が進むにつれて諸外国の神々や妖怪達も浸透していったから、何が起こっても不思議はあるまい。」

 「日本の自然神信仰が裏目に出たという事だな。」

 「そういう事じゃ。」

 帝の皮肉を肯定するタマはゲームに飽き始めた頃だった。

 「ふと、思ったのじゃが・・・・・・主はいつまで、ここにいるのじゃ? ここは我の家じゃろ? ここに来てから一月半ほどか・・・・・・」

 「ん? この件が終わるまで・・・・・・かな? 最悪、ずっといるかも知れんが…」

 タマの疑問に帝はあやふやな答えを言った。

 「それはどういう事じゃ? 晴れて、主と我が正式に夫婦になるという事か?」

 「それはないから安心しろ。 大体、人間と妖怪の入籍が認められるかっての!」

 タマの言葉に帝はそう返して、頭をボリボリと掻いて、口を開いた。

 「家賃不払いで住んでるアパートを追い出された・・・・・・」

 「は?」

 帝の言葉にタマは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、コントローラーをその場に落とした。

 「主よ・・・・・・ちなみに、どれほど溜め込んだのだ?」

 「半年分。」

 ブチンッ!

 この時、タマの中で何かが切れた。

 「こんのうつけ者がぁっ! 出て行けっ! 今すぐ出てけっ!

 三ヶ月なら大目に見てやろうかと思ったが、半年じゃと! 今すぐ、職安に行って来い! マグロ漁船でもなんでも乗って仕事して来い!」

 早朝の時とは違い立場が逆転した。

 「だから、悪いと思って毎日、食事を作ってるんだろうが! 大体、1万歳なら料理の一つや二つまともに作ってみやがれ!ほっとけば稲荷寿司や油揚げばっかり食いやがって、いっその事、属性転換して日本全国の御稲荷様の元締めにして祀ってやろうか?」

 帝が開き直る。

 「上等じゃ、クソガキ! 我とて白面金毛九尾の狐と言われた妖狐ぞ! 小童こわっぱ如き、赤子の神の首を捻るより簡単に殺めようぞ! 本当に今日という今日は、愛想が尽きたわ!主を一度でも我が夫にと惚れた我が愚かじゃった!」

 売り言葉に買い言葉、タマは妖力をあふれ出し、帝をにらみつける。

 「婚約解消か? それならちょうどいい、俺も妖怪相手におさんどさんなんて飽きたからな! 開放されるなら丁度いい!」

 彼はそう言って、タマに背を向けて玄関に歩き、乱暴にドアを開け出て行った。

 「・・・・・・ばか者が・・・・・・我に言えば金なぞいくらでも出してやると言うのに…」

 彼がいなくなった部屋にぽつんと立ち尽くすタマはそう零し、涙を流した。

 「たく・・・・・・あの老害妖狐が・・・・・・金があれば解決できるって問題じゃないんだよ…」

タマのマンションを出てきた帝はそう呟いて町の雑踏へと消えて行った。

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