第11話 ステージのざわめき
優ちゃんの審査が終わったらしい拍手が、ステージの奥から聞こえてきた。
私は思わず立ち上がり、控室の方へ向かう。
(優ちゃん、どうだったかな……)
胸がぎゅっと締めつけられる。
自分のことじゃないのに、こんなに緊張するなんて思わなかった。
控室の扉が開き、優ちゃんが出てきた。
「優ちゃん!」
「……ひよりさん……」
優ちゃんは、ほっとしたような、でもまだ不安そうな顔をしていた。
「どうだった?」
「……歌は、ちょっとミスしちゃったけど……ダンスは、なんとか……」
「すごいじゃん! よく頑張ったよ!」
私は優ちゃんの肩を軽く叩いた。
優ちゃんは小さく笑った。
「……ありがとう。ひよりさんがいてくれたから……」
「任せて!」
そのとき――
ステージの方から、ざわ……っと空気が揺れた。
まるで、会場全体が息を呑んだような、そんなざわめき。
「……なんだろ?」
私は思わずステージの方へ視線を向けた。
スタッフが慌ただしく動き、審査員たちが前のめりになる。
そして――
控室の扉がゆっくりと開いた。
黒髪ロングの女の子が、静かに歩いていく。
(……あの子)
胸の奥が、またざわついた。
彼女は誰とも目を合わせず、ただ真っ直ぐステージへ向かっていく。
その背中は、まるで光を吸い込むような存在感だった。
「次の審査、始めます!」
スタッフの声が響く。
会場の空気が、さらに張りつめる。
私は息を呑んだ。
(……なんでだろ。まだ歌も聞いてないのに)
胸がドキドキする。
手のひらが汗ばむ。
優ちゃんが不思議そうに私を見た。
「ひよりさん……?」
「……なんか、すごい子が出てきた気がする」
「すごい子……?」
「うん……なんか……空気が変わった」
優ちゃんは首をかしげた。
でも私は、視線をステージから離せなかった。
黒髪の女の子が、ゆっくりとマイクの前に立つ。
その瞬間――
会場のざわめきが、ぴたりと止まった。
(……なに、この空気)
まるで、誰もが息をするのを忘れたみたいだった。
私は胸に手を当てた。
(……やばい。なんか、すごい予感がする)
まだ歌っていないのに、心臓が跳ねる。
このあと、 私の人生を変える“声”が響くことになるなんて。




