第10話 日和、初めて“自分が緊張している”と気づく
優ちゃんの審査が始まってから、私はずっと落ち着かなかった。
付き添いなのに、胸がざわざわする。
手のひらがじんわり汗ばんで、足がそわそわ動く。
(……なんだろ、この感じ)
私は普段、緊張なんてほとんどしない。
テスト前も、クラスの発表も、文化祭の司会も、全部“なんとかなるっしょ”で乗り切ってきた。
でも今は――
胸の奥がぎゅっと締めつけられるような、不思議な感覚があった。
「ひよりちゃん、大丈夫?」
隣に座っていた付き添いのお姉さんが声をかけてくれた。
「あ、うん……なんか、落ち着かなくて」
「そりゃそうだよ。友達の審査って、自分のことより緊張するもんだよ」
「そういうものなの?」
「そういうものなの」
お姉さんは笑った。
(……そうなんだ)
私は胸に手を当てた。
優ちゃんが頑張っていると思うと、自然と心臓が早くなる。
応援したい気持ちが、こんなにも強くなるなんて知らなかった。
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そのとき、控室の扉が開いた。
「次のグループ、準備お願いします!」
スタッフの声が響く。
数人の候補生が立ち上がり、ステージへ向かっていく。
その中に――
黒髪ロングの女の子がいた。
(……あの子)
私は思わず立ち上がりそうになった。
彼女は無表情のまま、静かに歩いていく。
でも、その歩き方には迷いがなかった。
まるでステージに立つことが当たり前のような、そんな雰囲気。
黒瀬瑠歌――
このときはまだ名前を知らないけれど、
**彼女の存在感は、他の誰よりも強かった。**
(なんでだろ……目が離せない)
胸の奥が、またざわついた。
優ちゃんの審査で緊張していたはずなのに、
瑠歌を見た瞬間、別の意味で心臓が跳ねた。
(……なに、この感じ)
初めての感覚だった。
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瑠歌がステージへ向かっていく背中を見送ったあと、私は席に戻った。
でも、心臓のドキドキは止まらなかった。
「ひよりちゃん、顔赤いよ?」
「えっ、そう?」
「うん。緊張してるんじゃない?」
「……かも」
私は自分の胸に手を当てた。
(緊張……なのかな)
優ちゃんのことも心配。
でも、それだけじゃない。
さっき見た黒髪の子――
あの子の姿が、頭から離れなかった。
(なんで……?)
自分でもわからない。
でも、確かに胸がざわつく。
そのとき、ステージの方から音楽が止まり、拍手が聞こえてきた。
「優ちゃん、終わったのかな……!」
私は立ち上がり、控室の方へ向かった。
でも――
その足は、なぜか少し震えていた。
(……私、こんなに緊張するんだ)
初めて知った。
誰かを応援するって、こんなにも心が揺れるものなんだ。
そしてこのあと、
**その揺れはもっと大きくなる。**
優ちゃんの結果でも、
瑠歌の歌声でも、
私の人生は大きく動き出す。




