第9話 控室での出会い
優ちゃんがステージへ向かっていったあと、私は待機スペースの椅子に座り、落ち着かない気持ちで足を揺らしていた。
(優ちゃん、ちゃんと歌えてるかな……)
そんなことを考えていると、控室の扉が開き、数人の候補生が出てきた。
その中に、さっき優ちゃんに声をかけてくれた心愛ちゃんの姿があった。
「あ、さっきの……!」
私は思わず声をかけた。
心愛ちゃんはくるっと振り返り、ぱっと花が咲くような笑顔を向けてくれた。
「ひよりさんだよね? 優ちゃんの友達の!」
「うん! 覚えてくれてたんだ!」
「もちろん! 優ちゃん、すごく緊張してたから……ひよりさんがいてよかったね」
心愛ちゃんは、まるで本物のアイドルみたいに柔らかく微笑んだ。
(この子……本当に癒し系だなぁ)
私は思わず見惚れてしまった。
「心愛ちゃんは、緊張しないの?」
「するよー! でもね、緊張してる顔を見せると、周りも不安になっちゃうから……
できるだけ笑ってるようにしてるの」
「え、めっちゃプロ意識高い……!」
「えへへ……そうかな?」
心愛ちゃんは照れたように頬を赤くした。
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そのとき、後ろから低い声がした。
「桐生、次の準備しないと」
「あ、玲央ちゃん!」
振り返ると、さっき書類を拾ってくれた三条玲央が立っていた。
腕を組み、冷静な目で心愛ちゃんを見ている。
「あなた、話してると時間忘れるでしょ。行くよ」
「はーい!」
心愛ちゃんはぴょこっと返事をして、玲央の隣に並んだ。
玲央は私の方をちらりと見た。
「……あなた、天野日和さんだったよね」
「うん!」
「白石さんの付き添いなのに、他の候補生とも普通に話せるんだね」
「え? だって話しかけてくれたし!」
「……あなた、コミュ力の化け物?」
「褒めてる?」
「褒めてる」
玲央は淡々とした声で言った。
(この子、クールだけど優しいな……)
そんな印象を受けた。
「じゃ、行くよ。桐生」
「うん! ひよりさん、またあとでね!」
心愛ちゃんは手を振りながら控室へ戻っていった。
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私は席に戻りながら、ふと控室の奥を見た。
そこには――
黒髪ロングの女の子が、静かに座っていた。
さっき目が合った子。
圧倒的な存在感を放っていた子。
彼女は誰とも話さず、ただ一人で目を閉じている。
でも、その姿は孤独というより、研ぎ澄まされた静けさだった。
(……あの子、やっぱりすごい)
胸の奥がざわつく。
名前も知らない。
声も聞いたことがない。
でも、なぜか目が離せなかった。
そのとき――
彼女がゆっくりと目を開けた。
黒い瞳が、まっすぐ前を見つめる。
(……綺麗……)
息が止まりそうになった。
彼女は立ち上がり、スタッフに呼ばれるままステージへ向かっていく。
その背中は、まるでステージの光を浴びるために生まれてきたようだった。
(あの子……誰なんだろう)
胸の奥が、じんわり熱くなる。




