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恋を発酵させて  作者: howari
9/9

二人の未来

私はお腹に手を当てながら、布団の中でうずくまって泣いていた。隼人くんに一方的に別れを告げてしまった。きっと彼は納得がいってないだろう。胸が引き裂かれたみたいにズキズキと痛む。



隼人くんが大好きだった。



彼と出会って私の人生は、色鮮やかなものに生まれ変わったと思う。毎日苦しかったのに彼に出会って恋人になって、毎日楽しくて幸せに満ちていて。たくさん私を愛してくれて。だから、本当は別れたくなかった。でもこの選択肢しかなかったんだ。彼はまだ若いし未来があるんだから……。両目を手の甲で拭った時、ドアチャイムが孤独な空間に響いた。





「利香さん、隼人です!話したいから開けて!」




……隼人くん?

声を聞くだけで涙が溢れそうになり、思わずドアの近くまで歩み寄った。会ったらきっと決心が鈍ってしまう。だから、開けちゃだめだ。




「会いたくないならそこでいいから聞いて」





「利香さんが妊娠したの美沙さんから聞いた。どうして言ってくれなかったの?後藤さんとの子供かもしれないから?でもそんなの関係ないよ。もし後藤さんとの子供でも構わない。一緒に育てよう」








「利香さん、結婚しよう」






〝結婚しよう〟


その言葉に涙がたくさん溢れ落ちた。

すごく、すごく嬉しい。隼人くんに今すぐ会いたい。

私は震えた手でドアを開けた。





彼は部屋に入ると、私を優しく抱き寄せた。




「どうして別れようなんて言ったの?絶対別れてなんかやらないから」




「まだ隼人くんは若いから、これからもっとステキな人に出会える。だから私の妊娠なんかで、隼人くんの人生を壊したくなかったの」



「何でそんな事考えたの?いつも自分はおばさんだからって思ってるでしょ?僕は今の利香さんが好きなの」



だって、本当にそうなんだもん。いくら好きって言われても自信なんかないよ。でも、何でそんなに……。




「何で、そんなに、私なんかの事……」



彼は珍しく頬を赤くして、私の目を見つめて話続けた。




「一目惚れしたの!めがねが壊れたあの日、利香さんの素顔を見て一目惚れしたんだよ。今更恥ずかしいけど……」



珍しく今度はプイッと顔を背けている。

あの時に一目惚れしたの?全然知らなかった。あの日から私の事を?嬉しすぎて胸の奥の方がキュンと音を立てる。




「隼人くんと喧嘩した日、後藤さんが来たの。それで好きって言われて抱き締められたんだけど、何か違うなって気付いた。キスもされそうになったんだけど、無意識に体が反応して後藤さんを突き飛ばしてた。その時、やっぱり隼人くんじゃなきゃ嫌だって思った。やっぱり私は隼人くんが好きなんだって思ったんだ」

 



「え?じゃあ、あの日何にもなかったの?」



「うん」



「じゃあ、お腹の子は……」



 

「あなたの子供だよ」




「なんだ〜良かった〜!」




彼は安心した様に眉を下げて笑った。でも次の瞬間、また眉が少し上がり真剣な顔へと戻った。

そして、私の両手をぎゅっと握りしめて呟いた。








「利香、愛してる。結婚して欲しい」






答えなんて一つしかない。






「はい。私も愛してる」




涙でぐしゃぐしゃの頬を温かい両手が包み込む。今日のキスは、今までの中で一番幸せに溢れたキスだった。

瞼を閉じると、あの日初めて見た彼の笑顔を思い出す。爽やかな風の様な笑顔。それは今も変わらない。あの時からきっと、私の運命は回りはじめていた。



あの日あの場所から始まった出逢いが、まさかこんな事になるなんて思っても見なかった。タイミングが少し違っていたら、私はどっちを選んでいたのだろう。それでもきっと隼人くんを選んでいたと思う。この先、大変な事や苦しい事もあると思うけど、きっと彼となら超えていける気がする。




私たちの未来にはきっと幸せが待っているから。





◇◇




「おはよう」




「おはよ」




私はキッチンで三人分の朝ごはんを作っている。隼人くんが大きくなったお腹を撫でながら話しかける。




「元気に生まれてくるんだよ」



「隼人くんに似た男の子がいいよね」



「僕は利香に似た美人な女の子がいいな」





「朝から何イチャイチャしてんの?」

娘が制服姿でトーストをくわえながらこっちを睨む。





「さぁ、二人共早くご飯食べて行かなきゃ!」





「いってきまーす!」


娘が急いで靴を履きながら出て行く。


「いってきます」


次に作業服に着替えた隼人くんが出て行く。



二人を見送ってから洗濯機の方へ向かおうとした時、後ろから「忘れもの!忘れもの!」と隼人くんの声が聞こえてきた。

 




「何?忘れも……」





チュッ





「なっ!!」




意地悪そうな顔をした彼はまたドアを開けて出て行った。

何するの?!もう!

顔が熱いまま私は洗濯物を干しに行く。



ベランダから見えた青空は、群青色に澄んでいて永遠に広がっている。

私はお腹に手を当てて目を瞑って願った。




私たち4人の未来が、これからも幸せに満ち溢れていますように——。




〈end〉

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