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第39話 御伽噺の姫様

「君は……その――」


「そういえばさ、あんたも私と同じで、ここでこっそり食べてるの?」


カシリアが口を開くより早く、耳を疑うような言葉が飛んできた。


――は?


なにを言っている。


からかっているのか?


カシリアは生まれてこの方、ここまで無遠慮な言葉を投げつけられたことはなかった。


だが、この少女は悪意というより、本当に世間知らずの子供のようにも見える。


彼は大きく息を吸い、気持ちを落ち着かせた。


「……君は、この学院の生徒なのか?」


彼女の問いには答えず、逆に質問を投げ返す。


生徒でなければ、どうやってこの場に入り込んだというのか。


もし生徒だとすれば――いったいどんな教育を受ければ、ここまで礼儀が崩壊するのか。


いや、下手をすれば、普通の平民の方がよほど作法をわきまえている。


「え、私?今はまだ違うけど、これからそうなるみたい。高等部二年生になるって言われたよ。で、あんたもここの生徒?」


……なんという馬鹿げた質問だ。


この国の王子を知らないとでも言うのか。


貴族であれば、どれほど愚鈍でも顔くらいは知っている。


仮に顔を覚えていなくとも、王家の紋章入りの礼服を見れば一目で分かるはずだ。


「……君は、オレが誰か知らないのか?」


苦笑を浮かべながら、探るように尋ねる。


「知るわけないじゃん。今、初めて会ったんだし。でも服がすごいから、きっと偉い貴族なんだよね?」


――貴族、だと?


あまりに大雑把な評価に、さすがのカシリアも脱力した。


本当にどこの家の令嬢だ。


保護者を呼び出して説教したい。


だが、このあまりにも天然なやり取りに、なぜか胸の奥が少し軽くなった。


思わず笑いが込み上げそうになる。


カシリアは答えず、少女の様子を眺めながら必死に表情を抑えた。


「……ねえ、なんで黙ってるの?失礼じゃない?」


少女は唇を尖らせ、不満そうに言った。


――こんな貴族、本当に存在するのか。


ついに我慢できず、カシリアは小さく笑い声を漏らした。


「君は、ひょっとして……オレの名前すら聞いたことがないのか?」


「あるわけないでしょ。あんた、なんて名前?」


即答だった。


嘘をついている様子もない。


……まあ、知っていてこの態度なら、それこそ一族ごと処罰ものだ。


「カシリアだ。……君は?」


「カシリアね。ふむふむ。で、苗字は?」


少女は首を傾げる。


――本気か。


呆れを通り越して、逆に少し哀れにすら思えてくる。


「次は君の番だ。自分の名前くらい分かるだろう?」


「私?私はエリナ。ちゃんと覚えてね!」


少し誇らしげに胸を張る。


「……名前だけか?ファミリーネームは?」


「ふふ~ん、秘密。あんたも教えてくれなかったでしょ?だからおあいこ!」


あまりにも予想外で、しかしどこか予想通りでもある返答に、カシリアは苦笑するしかなかった。


――自分と同格の家柄だとでも思っているのだろうか。


大きくため息をついたが、不思議と気分は軽かった。


この少女と話しているだけで、張り詰めていた心がほどけていく。


理由もなく、ただ楽しい。


【本当に、奇妙で、そして面白い少女だ。】

もし、少しでも心に残ったら、

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