343.勝利の宴
眩しい光を放つシャンデリアの下、私は華やかなドレスの海に沈んでいた。
「サリス様。カスト様とのご婚約、誠におめでとうございます」
「アルバレス男爵家の姫君が、よもやこれほど美しく成長されるとは。タロシア公爵家も素晴らしい宝石を見つけられましたわね」
「今度、私どものお茶会にもぜひいらしてくださいませ。サリス様のお好みのお菓子を用意してお待ちしておりますわ」
色とりどりの扇子で口元を隠し、香水の匂いを漂わせる高級貴族の夫人たちが、私を囲んで次々と祝いの言葉を投げかけてくる。
昔なら、私がいくら笑顔を作って挨拶をしても、視界の端にも入れてくれなかった方々だ。
私服の裾が少し擦り切れているだけで冷笑を浮かべ、男爵家の娘という身分の低さを理由にあからさまな無視を決め込んでいた夫人たちが、今はこうして私の周囲で媚びた声を上げている。
その見事なまでの態度の変化に、私は内心で盛大に拍手を送っていた。
素晴らしい。
皆様、本当に見事な手のひら返しですわ。
私は上品な微笑みを崩さず、控えめに頭を下げて感謝の言葉を返す。
か弱く、控えめで、美しく。
それが今の私の武器であり、カスト様に見初められた理由の一つでもある。
夫人たちが私に媚びを売る理由は、私が一番よく理解している。
彼女たちは、アルバレス男爵令嬢である私自身を祝いに来たわけではない。
私の視線の先、少し離れた場所では、さらに地位の高い大貴族たちに囲まれているカスト・タロシアの姿があった。
未来の公爵である彼に向かって、誰もが敬意とすり寄りの笑みを向けている。
夫人たちの真の目的はそれだ。
彼女たちは、未来の公爵であるカスト様の婚約者という『地位』に対して祝辞を述べているに過ぎない。
その婚約者の席に座っているのが誰であっても、彼女たちの態度は同じだ。
タロシア公爵家の威光にすがりつき、少しでも自らの家の利益に繋げようとする。
それがこの貴族社会の絶対的なルールであり、生き残るための法則だ。
知っている。
痛いほどに思い知らされている。
私は手に持ったグラスの水面に視線を落とした。
揺れる水面に、
かつての泥にまみれた自分の顔が重なって見えた気がした。
時間を遡る。
過去の記憶を紐解くと、そこには辛く、惨めで、息の詰まるような生活しかなかった。
本当に、苦しかった。
アルバレス男爵家。
肩書ばかりは立派な貴族だが、その実態は倒産寸前の貧乏家門だ。
聞いた話では、現在の当主である父が親族との爵位争いに巻き込まれ、財産をほぼ全部騙し取られたらしい。
爵位を奪われそうになった父は、莫大な借金をしてなんとか男爵の地位だけを維持した。
その結果、待っていたのは地獄の返済生活だ。
私が幼い頃の日常風景は、両親の怒声と涙で構成されている。
「また今月も利息が払えない。どうするつもりですか」
「うるさい。少し黙っていろ。私がなんとかする」
「なんとかするって、いつも口ばかりではありませんか。子供たちに食べさせるパンすら買えない日もあるのですよ」
古い家具が並ぶ薄暗いキッチンで、毎日のように繰り返される言い争い。
母が泣き崩れ、父が頭を抱えて唸る。
私は部屋の隅で膝を抱え、その光景を冷めた目で観察していた。
借金を返済するため、父が思いついた手段は極めて単純で、貴族としては王道のものだった。
それは、子供たちを金に換えること。




