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【40万PV感謝】罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~  作者: 水無瀬 霧乃
歪んだ筋書き

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第10話 カシリアは気になった

「殿下、リリス様に辞退の件をお尋ねになるのではなかったのですか?」


「……そうだったな」


カシリアは曖昧に返し、わざと歩調を早めた。


この話題を続けたくなかった。


「だが、結果的にリリスは辞退しなかった。それなら私も復習に戻るだけだ。まだ勝負は終わっていない」


「…………」


ナミスはすぐに返事をしなかった。


殿下がここまで話題を避けるのは珍しい。


まして、あの“完璧な公爵令嬢”が手にクリームを付けていたという異常事態――。


「殿下。先ほど、リリス様と何かあったのですか?」


「……何もない。私は、ただ通りかかっただけだ」


わずかな間を置き、カシリアは言葉を選び直す。


「奇妙なことなど、何一つなかった。……お前の方はどうだ。何か気づいた点はあるか?」


「左手に、菓子のクリームと思われるものが付着しておりました。性格上、不自然です。加えて、本日は食堂にも姿を見せていません」


「……他には?」


「“他”と申しますと?」


「精神状態だ。動揺や不安の兆候は?」


「表面上は、完璧でした」


ナミスはわずかに口角を上げた。


――だからこそ異常なのだ、と言わんばかりに。


「……そうか」


カシリアは黙り込んだ。


「ナミス。公爵家の継承者は、他にもいたな」


「宰相ロニーロ公爵のご子息ヤリク閣下と、トゥーラン公爵家のランス閣下です。両名とも卒業済みで、成績は中位程度でした」


やはり、そうだ。


本来、上位貴族の継承者が学業で突出する必要はない。


爵位という“安全装置”がある以上、無理をする理由がない。


「成績上位十名の身分構成は?」


「殿下とリリス様を除けば、伯爵一名、子爵二名、男爵三名、平民一名です」


「……普通だな」


王族は制度的に有利だ。


下位貴族は上を目指す理由がある。


平民は生存を賭けて努力する。


だが――


「公爵令嬢が、社交界の頂点に立ちながら、学業でも首位を独占し続ける」


常識から外れている。


「……不自然だ」


バラ園で見た、崩れ落ちる背中。


震える肩。


必死に押し殺していた感情。


「代償が、あるはずだ」


ぽつりと、誰にも聞こえない声で呟いた。


ナミスは沈黙したまま殿下を見つめていた。


「ナミス」


「はい」


「もしお前が、公爵家の継承者だったら……今のように、私に仕えていたか?」


「……いいえ。おそらく、ここまで努力は続けておりません」


即答だった。


「上を目指す必要がない者は、努力を“選ばない”のが普通です」


利益。


合理。


それが、この世界の本質だ。


「ならば……」


すでに全てを持つリリスは、なぜ自分を削り続けている?


「ナミス。命令だ」


「何なりと」


「王に知られず、家にも悟られず、人を使わず――タロシア公爵家の近況を調べろ。明日から、毎日報告しろ」


「……理由を、お聞きしても?」


「大した理由ではない」


カシリアは前を向いたまま、静かに言った。


「ただ――知りたいだけだ」


なぜ、泣いていた。


なぜ、壊れそうだった。


なぜ、あそこまで自分を追い込む。


それを知らずに、彼女と“対等な勝負”などできない。


そして。


その理由を知った時、


自分がどう変わるのか――それすら、今は分からなかった。

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