【魔の森〈後編〉】
天魔の邂逅
第4話【魔の森〈後編〉】
常に燃え続ける山岳地帯までやってきていた天魔は真上で輝く魔石に苛立ちを覚えていた。
これを破壊したところでこいつは死にはしない。
この魔石はただ輝いているわけではなく、太陽などの恒星のように熱も放っている。
魔石に近いここでは丁度いい?くらいだったあの場所よりも暑い。
頂上まで行ったらどうなるのだろうか。
「暑い………。結界を張っても暑い………」
現在、結界外の気温は185℃。
結界内の気温は35℃ぐらいだ。
結界外の気温は水星の平均温度と考えていい。
また、氷属性の魔法や水属性の魔法を使ってもすぐに元の気温に戻ったり、即蒸発したりするのでこの状況で結界以外の魔法を使うことを推奨しない。
だが、もちろんここにも魔獣は存在している。
炎龍と契約した頃、ケルベロスが暴れていたのを覚えているだろうか。
あのケルベロスよりも3倍強いケルベロスが燃えながら襲ってきたり、火の中級精霊が余所者を見つけ次第襲ってくるのも恐ろしい。
また、魔獣に関しては放っておけば燃え尽きたり、干からびたりするので放置していても問題ない。
山岳地帯に到達してから50分経った今、漸く頂上にたどり着き、地上へ下っていっているところだ。
ここはあの魔石の効果が届きにくいのか、涼しくなっている。
山の下に視線を向けると、日記に書かれていた遺跡がすぐ見つかり、その周辺は氷に閉ざされていた。
「今度は極寒地帯かよ……この空間どうなってんだ……っていうかよくこれで亀が生きているものだ」
更に1時間ほど進んでようやく遺跡周辺までやって来た。
遺跡の周りを見ようかと思っていたが、厚い氷の壁に覆われていたので行けなかった。
「何処に扉があるんだ?」
周りを探しまわるが、一向に見つからない。
「仕方ない。離せ世界よ、空間切断」
遺跡の壁に穴を開けてそこから侵入を試みた。
結果は入れなかった。
「それなら、震わせ世界を、衝撃波!!」
すると、遺跡の壁が崩れ落ちた。
「騒がしいと思ったら人間か」
「何だ、喋れる爬虫類か」
目の前に喋れる爬虫類がいた。
「爬虫類!?私をそんな奴らと一緒にするな!!私は47台目竜王に仕える氷の竜の族長、イオ・フロストだ」
「俺は魔王城の居候、天魔だ!!」
「魔国所属の者が何故龍神様の治めるこの国に!?戦争は終わったはずだろう!!」
「何言ってんだ。ここは魔王ラグナが治める魔国領、魔の森だ」
「魔の森……?天魔よ、今、魔の森と言ったな?」
天魔は頷いた。
「竜大陸から魔大陸まであの亀が動いたというのか……?
じゃあ、今頃地上では………」
「時間が進んでいるだろうな。ところで、お前はこいつの腹のなかで何をしている?」
「天空都市の謎を解明するためにここに来たのだ。
島亀の腹の中はこのように小さい世界が存在している。
その小さい世界には天空都市の遺物が発見されている。島亀が天空都市を飲み込んだと最初は思っていたが、数人が調査したところそれぞれの島亀の中には天空都市に付いて描かれたものが存在しているのがわかった。
天空都市に付いて知っているか?」
「意図も簡単に世界を征服できる兵器の塊ということだけ知っている」
「その通りだ。今、天空都市と戦争して生き残るのは異世界の技術を取り入れたりしている人間の国数国と魔国と龍国の者たちのみだろう。
そこで、疑問に思わないか?
魔獣に襲われる心配が全くないというのに何故天空都市の軍事力は凄まじいのかを。
先ほど言った通り天空都市はすぐに世界を征服できる。しかし、征服しようとしたことは全くない。天空都市同士の戦争は何度かあったらしいが、そんなに力は必要ない。
じゃあ、何のために力を持ったのか。
ここからはあくまで龍国の推測ではあるが、神を殺すために力を持ったのだろうと思う。
神はエネルギーの塊と考えていい。
天空都市を維持するために力を保持しているのだろう。
確かに、天空都市では魔法は使わないと聞く。だが、魔法の力を使わないでして天空都市を維持することはできるのだろうか。
電力にしろ、それを作る施設が必要。原子力発電所が100基あったところであれほどの質量を浮かすには足りない」
「へぇ〜。で、調査とかは終わったのか?」
「いや、天空都市を調べているうちにこの島亀についてもわかった。
島亀は魔獣ではない。
いや、一応魔獣なのかもしれない。
ある代の魔王が作ったスライムを知っているか?
あれと同様、人の手によって作られた"人造魔獣"だ。
この"人造魔獣"が生きている……いや、動いているのならその天空都市が近くにあるということだろう。
じゃあ、これを壊せばどうなるかわかるか?」
「もちろん」
──天空都市が崩壊する。
天空都市が崩壊したらどうなるか。
すぐにとはならないだろうが、戦争が始まるだろう。
「そのことを踏まえて私はこの亀を殺そうと思っている。条件はわかっている。私では力不足だが、君となら間違いなくできる」
「協力しよう。条件は?」
「条件は、この遺跡の中央にある魔石に魔力を送り、上位神級の魔法を発動する」
「発動したらここはどうなるんだ?」
「魔の森の一部が吹き飛ぶ。が、心配するな。生きて帰れるさ」
「わかった。案内してくれ」
遺跡の中央へ向かう。
「彼処だ!!」
氷の扉を破った先には直径5メートルくらいの球形の魔石が浮いていた。
魔石は薄っすらと輝いている。
「ここに魔力を注入するんだ!!」
ゆっくりと魔力を流し込む。
魔石の中の魔力量が増えるにつれ、魔石が輝きを取り戻していく。
「最恐の神が命ずる、今この世界を終焉に導き、元の世界へ帰属させよ、地域崩壊」
イオ・フロストが言葉を紡ぐ前に、魔石の魔力を使用して魔法を発動させた。
天魔が発動させた瞬間、魔石を中心に光が放たれた。遺跡の床が蒼く変色していき、何かが崩れた音がした。
地響きがして外へ出てみると、天井に穴が開いてそこからヒビが入っていることが見てわかった。
「硬いな」
「何が………?」
「再生機能もあるんか……。なら、地方崩壊」
塞がりそうになっていた穴が大きく開き、ヒビが大きくなり、島亀が真っ二つに割れた。
真っ二つになった体を元に戻そうとするが、元に戻らない。
尻尾側の方が砂になって消えていき、頭側の方も徐々に弱っていき、力尽きた。
「うわー、これは酷い」
島亀が倒れたこの場所は魔力の流れが乱れていたり、大量の魔獣の亡骸が落ちていたり、とにかくいろいろなものが混ぜられた地面があった。
「何が起こったんだ………?」
「ちょっとした魔法?を使っただけだ。怪我はないか?」
「問題ない。にしても………これは酷いな」
「そうだな……」
再び2人で島亀の遺骸等を見る。
しばらくして、魔王がやってきた。
「何か強大な魔力を感知して神でも降臨したかと思ったが……お前か」
「悪かったなラグナ。島亀の死骸、いるか?」
「あの状態だともう使えん。ところで、その竜人は何だ?」
ラグナは天魔の隣にいるイオの事を問う。
「彼は島亀に飲み込まれた竜人だ」
「私の名前はイオ・フロスト。38代目竜王に忠誠を誓ったものだ。私はこれから現竜王に報告しなければならない。よって今すぐにでも帰らなければならないのだが……魔王よ、許可してくれないだろうか?」
「いいだろう。お前の処遇に関しては竜王に任す」
魔王はイオにそういった。
「今度竜大陸に来た時、いいものをあげよう」
「楽しみにしている」
イオは去っていった。
それを見届けた後、魔王が口を開いた。
「旧連邦国領で天空都市が見られた」
「それが何か?」
「いや、別に大したことではない」と言って魔王はここから去っていった。
天魔も同じようにここから去って魔王城に帰還した。
次回
【国都イビルノヴァ〈1〉】




