導くモノ
前半部分は連邦国側の話です。
天魔の邂逅
第2話:【導くモノ】
最恐の神の攻撃を受けた都市は原型を留めていなかった。
そこに街があったと思えない大穴。
そこには討伐不可能な魔獣が発生していた。
今回の出来事を全て獣人のせいとした皇帝は旧連邦国領土を視察しに来ていた。
「ほう。ここが旧連邦国の精霊の祠か」
「それが陛下………」
近くにいた視察団の団長が事情を話す。
「何!?精霊の祠が使用不能じゃと!?」
「はい………。恐らくエルフのせいかと。それと冒険ギルドよりレフィス様のご遺体が届けられました」
「レフィスがか……誰がやったのだ?」
「冒険者の話によると天魔という少年に敗れた模様。その天魔という少年は少々厄介でして……」
天魔によって勇者達が壊滅的被害を被ったこと。
魔王と通じている可能性が高いこと。
龍と契約していることなどを話す。
「あの都市が壊れたのはその天魔とやらが原因か」
「と、勇者は証言しています。如何なさいますか?」
「国中に伝えよ。天魔という名の冒険者を見かけた者に金貨30枚、捕縛した者には神金貨1枚をくれてやろうとな。それと、勇者を殺せ」
「よろしいのですか?あれはまだ戦力になりますが?」
「構わない。替えは幾らでもある」
皇帝はそう言って護衛を引き連れて去っていった。
その様子を遠くから観察していた男がいた。
7代目勇者の1人雪代 涼夜。
天魔にフルボッコにされた勇者だ。
「現グレムフィア皇帝、ユガロ・ヒア・グレムフィア……。噂は本当だったのか」
涼夜はことごとく負けた日、ある傭兵に助けてもらった。
その傭兵の話を聞く限り神聖グレムフィア帝国皇帝はろくな奴じゃないそうだ。
今までにも多くの国民を使い潰しては奴隷などを買い占めて補充などをしていたらしい。
「帝都には仲間がいる……助けないと……」
勇者はそう呟いて帝都に向かって必死に走った。
元々体力が少ししか残っておらず、体が傷だらけだったので直ぐに力尽きてしまった。
「くそっ。こんなところでくたばっちゃいけないのに……」
「兄ちゃんどうかしたか?って勇者様じゃないか。こんなところにまだ居たとは…………」
「退いてくれ……」
「誰が退くか。いやラッキーだ。お前をさっさと始末して俺は一生楽しく暮らすんだ」
剣を抜いて力無き勇者の腹に突き刺す。
「おいおい……俺たちはこんな雑魚に税金を捧げていたのかよ……寄生虫はさっさと死ぬんだな!!」
(どうしてこんな目に遭わなければならないんだ……。みんなの役に立つと頑張ってきたというのに!!)
血を吐きながらそう思う。
走馬灯のように今までの思い出が思い出される。
(皆……)
意識が失せていく。体には力が入らない。
(ここまでか……)
瞳を閉じようとした時、あたりが騒がしくなった。
それと同時に体が温もりに包まれているのがわかった。
痛みはだんだん無くなっていき、意識が戻ろうとする。
「いやー、危なかったぜ」
「君は───?」
「自己紹介は後だ。とりあえずこの場を切り抜けるぞ!!」
目の前にいる青年は剣を抜いて次々と兵士を倒していく。
「こっちだ」
何らかの魔道具を使って目くらましをしてこの場から去った。
「お前は……?」
「僕の名前はアギト。
帝国が探している天魔という少年の知人であり、帝国を滅亡に導く者」
「お前は……」
「まあ、誰の味方でもないね。君の復讐は手伝わない。普段人を助けるなんてことは依頼以外ではしないんだけど、僕は僕の目的があるからね」
「帝国を滅亡に導くのか……?」
「もちろん。帝国は嫌いだ」
天魔と共に戦っていたことは伏せて帝国によって同志が殺されたことを語る。
「だから僕は帝国を壊す。そのために君に手伝って欲しい。ああ、強制はしない。嫌なら嫌と言ってもらってもいい」
「一つ聞いていいか?」
「勇者の処遇かな?心配はいらない。勇者は被害者だからね。解放するさ。で来てくれるかな?」
「わかった」
「そう言ってくれると信じていたよ。じゃあ、案内するよ。僕の仲間のところにね」
アギトはそう言って転移魔法を唱えた。
「ここが僕らの拠点さ。僕はここにいる雇い主に雇われているんだけど彼女なら君を快く受け入れてくれると思うよ。呼んでくるね」
建物の中に入っていって一人の少女を連れてきた。
「私の名前はユナ。帝国に両親を殺されて今までずっと一人暮らしをしていたただの少女だよ。
君のことは聞いている。
ただ誓ってくれるか?」
絶対にこの組織のことをバラさない。
絶対に裏切らない。
困ったことがあればすぐに組員に相談すること。
この3つを絶対に守ること。
と告げる。
「誓います」
「そう?じゃあ、よろしく」
「よろしくお願いします」
勇者は反帝国組織に加入したのだった。
その頃、魔大陸の方では……。
「ここからこっち側は私の領土だ。だから入ってこないでよね」
「誰が入るか!!そっちこそ入ってくんじゃねぇぞ!!」
天魔とフィーはお互いの領域を決めて不可侵条約を結んでいた。
王女の部屋だけあってかなり広い。
広さ早く20×50の1000m2だ。そのうちの2割が与えられていた。
境界線には結界が張られていた。
「何か勿体無い気がするけど寝るか」
翌朝、ラグナの元に呼び出された。
ラグナは天魔とフィーを強制的にひっつけ用としたのを認めた。
本人が嫌がっているのを承知した上である依頼を受けた。
反対派の貴族を認めさせるためにとある大会を開くそうだ。
その大会に優勝したものにフィーと結ばれる権利をやろうというものだった。
本来ならば断るつもりだったが、断れなかった。
「大会まで1ヶ月ある。それまで魔の森で訓練をするといい。共に戦ってもいいのだが、自然への影響が計り知れないし、他の奴らに気付かれる可能性がある。戦うのは大会後にしよう」
「別に構わないが、誰に気付かれるんだ?」
「聞かなかったことにしてくれ。大したことはない。ただ知ってしまったらお前の面倒ごとが増えるだけだ。それと、お前には異世界文学や技術を学んでもらうからそのつもりで」
「えぇー……拒否権は?」
「ない」
これから面倒ごとがこれだけであってほしいと願いながら魔王城を去ってどこかに出かけていった。