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魔王が喜んで何が悪い!

 とりあえずフィラッシュのことを問題無しと判断したエイネルは直ぐにステージ裏に戻り、出入り口付近で腕を組みながら目を閉じていたリンカードを見て足が止まった。

 戻って来た気配を感じたのかリンカードは瞳を開くと棒立ちするエイネルを睨み、一歩一歩と近づいて彼女の頭を鷲掴みにする。

 リンカードのちょっと焦る姿を見たかったが為にからかっただけならまだ良かったが、彼が見張っていろと言ったにも関わらず思い切りその場を離れて違うことに意識を集中させていた。

 全く楽しそうではないリンカードの黒い笑みがエイネルを凍りつかせ、頭を掴んでいるのとは反対の腕で首をロックされるとずるずると引き摺られて舞台セットの中へ。

 ベンチに座らされたエイネルを目の前に立つリンカードが仁王立ちして睨み付け、彼女の髪の毛の一部をちょんちょんと引っ張りながら問い掛ける。


「俺は見張ってろと言ったよな? それがどう言う訳かなー戻って来たら誰もいねーよ」

「ちょ、ちょっと花を摘みに行っていたのだ。し、仕方ないことでしょう」

「トイレなら反対側にあるはずだがな。一丁前に嘘つきやがって、この間に何か起きてたら俺は金だけもらってろくに仕事しない駄目自称勇者のレッテルを張られてたかもしれねーんだぞ。おい、別に構わないが分かってるのか」

「べ、別に構わないなら良いじゃないか! それに何も起きなかったし、もう許してよ。さっきからかったことは謝るから。ごめんなさい」

「全く。とにかく俺も中の様子を監視する方に移るから、お前も気を引き締めろよ」


 溜息を付きながらステージセット内の警備に回ったリンカードは再び何かトラップが設置されていないか探しに行き、緊張が解けたエイネルは息を吐くとベンチから立ち上がって警護に集中する。

 エイネルやリンカードの気を使った警護を余所にライブは順調に消化されて行き、正午に差し掛かった辺りで最後の演目が終了した。

 ソフィア達はステージの上に立ったファンに向けて握手をしながら盛大な歓声が送られ、長い間衣装を変えたりトークをしたりと忙しかったはずだが舞台裏に戻って来た彼女達の表情には疲れのようなものは見えない。


「やっぱり凄いよね、人間って」

「何がだ?」

「いや、魔界にも居ないわけじゃないんだけどさ、色々と……ね」


 人間と魔物では潜在的な身体能力において当然大きな差が生じるが、気力や精神力の問題となると実はそれほど人間と大差が無かったりする。

 長時間様々な衣装に切り替えて何曲も連続で歌いファンに笑顔を振りまく気力、寿命が長く趣味らしい趣味や仕事らしい仕事と言ったものを持つ者が極端に少ない魔物からすれば人間の持つ精神力は驚嘆に値するのだ。

 エイネルやフィラッシュの様な高級な魔物や配下の上級魔族はしっかりとした思考能力や理性を持っているが、下級の魔物となると大した知能や理性を持たずただ生きるためだけに存在するものも決して少なくない。

 寿命が短いからこそ今この瞬間の密度が魔物とは比較にならない程に高い、父親から聞いていたことではあるがこうして直にそのような人間を間近で見ると言われたこと以上に肌で実感できる。

 だからこそ今を懸命に生きているソフィアを迫っている脅威から護りたい、いかなる理由があろうと目の前でむざむざと傷つけされるわけにはいかない。

 気を抜かず決意をもう一度固めているエイネルの横でリンカードは眠くなって来たのか先ほどまでの溌剌とした態度が無くなっており、大きく欠伸をしながらソフィア達の反省会を見つめていた。


「リンク、やる気あるの?」

「ありまくりだろ。さっきも言ったけど、自称勇者でも駄目勇者ってレッテル貼られるのは嫌だからな」

「じゃあもう少しやる気を出してよ。真面目に頑張ってるこっちが馬鹿みたいに見えるじゃん」

「お前は居るだけで意味があるから良いんだよ。てかさ、途中でヘンリカに変質者扱いされたんだけど俺。何なんだよ、なあ? 鎧にマント羽織った奴がステージセット内に居ただけで『変質者』だぜ。ありえなくね」

「あぁそうか、私は護衛って認識されてたけどその時にリンクは居なかったんだっけ」

「面倒臭いから新人の警備員って適当に言っておいた。まぁ、その方が動き易くもあったからな。上手く騙されてくれたし、ハハハ……人を変質者扱いしたあの女、必ず後悔させてやる」


 意外に根に持っているのか表情は笑いながらも射殺す様な眼光でヘンリカを睨み付けるリンカードを横にして、エイネルは彼が何か変なことをしでかさないか少し心配になって来た。

 自身に向けられた殺意に気付いたのか体を震わせたヘンリカは慌てたようにきょろきょろと周りを見渡すが、それに合わせてリンカードが目を伏せたのでその原因には気付けない。


「どうしたのヘンリカ、何か変なことでもあった?」

「気のせいだったのかしら、変な気配を感じたんだけど」


 ソフィアへの脅迫状の件もあり神経質になっている他のメンバーも同じように周りを見渡すが、解体準備を勧めるスタッフや事務所関係者以外の怪しい人影は見当たらない。

 多少の雑音があるもののエイネルが神経を集中する限り隠れている様な者もおらず、ベンチから立ち上がったリンカードは何も言わずにその場を離れるとソフィア達の横を通り過ぎてどこかへと向かう。

 先ほど罠が張られていた場所にまた同じようなものが無いか確認に行ったのかもしれないが、既に解体作業が始まっていて多くの人が動き回っているのだから再びセットされている可能性は低い。

 これで本日の『SaY HellO』のライブは終了となり既にアンコールも終えたので観客も退場を始め、最初に設置された黒ワイヤー以降は犯人も何故か分からないが全くもって動く気配が感じられなかった。

 契約は今日のライブ中の護衛であり目的はほぼ達成されたと言って良いが、このまま解決の糸口を何一つ見つけられなければそれはただ問題を先延ばしにしているだけに過ぎない。

 勿論リンカードからすればそれで問題はなく依頼料金だってもらっているのだから別に良いのだろうが、魔王とは知らないにしても自分のことを友達と言ってくれたソフィアのことを何としても救いたい。


「でもどうすれば良いんだろう。ここにいる人たちを一人一人尋問するわけにもいかないし……」

「どうしたのエイネル、考え事かしら?」


 反省会が終わりしばらくのフリータイムに入ったのか未だに止まらない汗をタオルで拭きながらソフィアがエイネルの隣に腰掛け、エイネルは申し訳なさそうに俯きながら覇気の無い声で返す。


「うん。ソフィアの護衛が今日の目的ではあるけど、結局犯人が誰かは分からなかった。ごめんね、役に立てなくて」

「そんなことないよ。貴方達がいてくれたおかげで何事も起きなかったわけだし、犯人は……そのうち私自身で見つけてみせる。いえ、本当は……」

「やっぱり人間って逞しいね。ソフィアの様な人に出会えただけでも、旅に出た甲斐があったかも」

「ありがとう、そんなに評価してくれて。それよりリンカードさんにも……まあ、一応本当に少しはお礼を言っておきたいんだけど、どこに――」


「おら、エイネルとソフィア! 変質者呼ばわりされた自称勇者が呼んでるぜ、早く来い!」


 遠方から聞こえて来たリンカードの声にエイネルとソフィアだけでなく周りのスタッフ達も大いに驚いたが、二人は素早く反応するとベンチを立ち上がって声がした方へ走り出した。

 作業に支障をきたしてもまずいのでソフィアは念のため今の大声は個人的に依頼した護衛の物であることを周りに説明してから駆け付け、エイネルから少し送れて声がした更衣室に入る。

 扉を開けるとエイネルの他にも近くに居たであろうヤーニャが驚きと戸惑いの表情で目の前の状況を見つめており、ソフィアもその光景を見て一瞬自分の目を疑った。

 ソフィアの使っているロッカーの前でワイヤーと小型の四角い箱を手に取るヘンリカがリンカードの手によって取り押さえられており、ソフィアに見られて顔から血の気が引いたヘンリカは必死に暴れようとするが微塵も体が動かない。

 どうして目の前の様な事態になっているかは分からないが、分かることはソフィアのロッカーへ細工を施そうとしていたヘンリカを先回りしていたリンカードがその場で取り押さえたという事実。


「放せ! ソフィア、助けて! こいつ変質者だよ!」

「ぐだぐだ五月蠅いんだよ! 往生際の悪い奴だなおい、現行犯で捕まりながら良くもまあ今まで自分が脅して来た相手に助けを求められるもんだ」

「ちょっと待ってリンク! ヘンリカさんってソフィアの小学校からの親友なんだよ、彼女がそんなこと――」

「親友? なんだ、親友ってのは絶対に罪から逃れるための合言葉なのか? 馬鹿言ってんじゃねーよ。親友だろうが英雄だろうが赤の他人、誰かに対して罪を犯さない理由にはならない。こいつがソフィアを脅そうって思った原因は知らねーけどな」

「五月蠅い五月蠅い! 放せ! 放さないならこの腕を?み千切るわよ!」

「ちょ、ちょっとヘンリカ。落ちつきなさいって!」


 事情が全く飲み込めていないヤーニャは暴れるヘンリカと強固に拘束するリンカードを交互に見遣り、一歩前に出て来たソフィアにリンカードが視線を向ける。


「リンカードさん、放してあげて。お願いします」

「……まぁ、現行犯で抑えた以上はこいつも言い訳できないだろう。良かったな、苦しい体勢からは脱出だ」


 腕一本まともに動かなかった状態から解放されたヘンリカは反発していた力で勢い余って地面に倒れ、自分が持っていたワイヤーと箱を見て自分がどうしようもない状態で捕まったことを再認識した。

 肩で息をしながら血の気が引いた蒼顔で震えながら顔を上げたヘンリカは目の前にいたソフィアを睨み付け、悲しみを抑えていたソフィアの表情が僅かな恐怖に変わる。


「何よ、そんな目で見て……そんな目で見ないでよ。そんな同情する様な目で見ないでよ! 怒りの目で見られるならまだ分かる。けど、そんな目で私を見ないでよ!」

「待ってよヘンリカ! 私はその、そんなんじゃなくて……何で、どうして? 私達、親友なのに」

「それが同情してるって言うのよ! そうよ、そこの変質者の言う通りよ! 親友だろうが何だろうが赤の他人、私がアンタに危害を加えない絶対の保証なんてものはない。私は! 私は……警察でも何でも呼べばいい、もう言い逃れなんて出来ないんだから」

「答えてヘンリカ。私は貴方が犯人だって、実は少し思っていたの。でも言えなかった、怖かったから。間違っていたらどうしようって、でも本当の理由は――」

「嫉妬してたのよ、貴方に」


 先ほどまで怒鳴って心の中の靄を発散ためか呼吸は相変わらず乱れているが顔に少し赤みが戻り、荒々しかった言葉遣いも少しばかり落ち着いて四つん這いの状態から上体を持ち上げて地面に座る。


「理由は単純、私はリーダーになりたかったの。私はいつだって一番が良かった、学校の成績だって苦労してずっと一番を取って来た。アイドルユニットを作るときも、私はリーダーになれるよう沢山努力した」

「ヘンリカが人一倍努力してるのは皆知っているわ。だけど、ソフィアだってリーダーの責任を背負うぐらいに、しっかりと努力してるのよ」

「ヤーニャの言う通り。いえ、私だって分かってるわよそれぐらい。ただ幼少のころからずっと一緒で、だけどソフィアを支えている気になっていた高慢な私は我慢できなかった。『何で私じゃないの?』って、『何で後ろばかり付いて来たソフィアがリーダーなの』ってね。酷い話でしょ、私は……親友面引っ提げた最低の女よ」

「何だ、良く分かってるじゃねーの」

「リンク、ちょっと黙ってた方が良いよ」


 空気を読まずに加害者をいたぶる様な発言に対してエイネルはリンカードを睨みながら注意するが、今のヘンリカには同様じゃ優しさの言葉よりも攻められる言葉の方がよほど心地良い。

 ヘンリカの怒鳴り声に反応したスタッフや監督達が集まって来たのか部屋の外に複数の足音が響き渡り、まだ事情が飲み込めていないヤーニャはソフィアの肩を叩くと部屋を出て行った。

 出て行ったヤーニャが適当に誤魔化してくれたのか部屋の前から人の気配が消えて行き、ついでに自分も居ない方がソフィアとヘンリカのためにも良いと思ったのか、彼女もまた人の流れに乗ってその場を離れる。

 護衛であるエイネルとリンカード、そして当事者であるソフィアとヘンリカだけが部屋に残り、気まずい空気の中でとりあえずエイネルは二人に刺激の無い会話を選びリンカードに尋ねた。


「ねえリンク、どうして彼女が犯人だって分かったの? 内部犯の可能性はあったけど、現行犯で捕まえることが出来るなんて」

「面倒臭いからこいつらの荷物全部物色したんだよ。最初の荷物でいきなりヒットしたのは幸いだったな」

「なっ! リ、リンカードさん私達の荷物全部漁ったの!? そりゃ護衛を依頼したけど、いくらなんでもそれは色々やり過ぎよ! もしも間違いだったら貴方がただじゃ済まなかったかもしれないのに!」

「良いじゃないかよ、結果的に犯人見つかったんだから。それに何も根拠なくやったわけじゃない、俺なりに理由があってやったんだ」

「理由? リンク、適当じゃなかったんだ」


 そこまで好い加減な性格だと思われていたことに少し異を唱えたかったリンカードだが、今はエイネルのボケを無視して説明の続ける。


「第一にスタッフは臨時だ、入れ替わりが激しいから何度もライブ内の関係者として狙うのは難しい。第二に今日の最初の罠が更衣室に付近にあった、更衣室付近をうろついても疑われない奴は限られる。第三は決定的だ、俺たち護衛の存在を察知した人間である可能性が高いってことだ」

「護衛の存在って……あっ、そう言えばヘンリカにはエイネルのことを護衛だって教えたわ。リンカードさんのことは言ってなかったけど」

「途中で俺もエイネルからその件は聞いた。ヘンリカが護衛の存在を知ってから、怪しいまでにまるで犯人の動きが無かった。ほぼ決定だ、多少無理した甲斐があった」

「その変質者、掃除用具入れの中に隠れてたのよ。全く、さすがの私も呆れたわよ」


 エイネルとソフィアが開きっぱなしになっている用具入れを見ると黒ずんだモップや雑巾が吊り下げられており、よく見ればリンカードのマントの所々が濡れて染みになっている。

 先ほどまで気にならなかったが注目して見ると嗅覚の強いエイネルは少しばかり臭さを感じ、思わず鼻を塞いでしまいたくなった。


「いつも私の後ろにいて、護っている気になっていたらいつの間にか前を歩かれていた。滑稽よね。自分の努力不足を棚に上げて嫉妬するだけ嫉妬して、最後は逆恨みの愚痴の連打。失望させて……ごめんね、ソフィ――」

「もうこれ以上謝らないで! 謝るのは私の方……ごめんね、親友って言っておきながら……気付いてあげられなくて」


 俯き謝罪の言葉を言い掛けていたヘンリカに涙を流しながらソフィアが正面から抱き付き、謝られるべきソフィアがヘンリカに嗚咽を飲み込みながら謝罪した。


「ヘンリカが苦しんでたこと、本当は真っ先に私が気付かないといけなかったの。貴方が不満を抱えているかもしれないって、何となくは分かってた。だけどヘンリカはいつもやっぱり笑顔で、強くて……そんな貴方に、私は甘えてた」

「ソフィア……ありがと、そんなに私を信用してくれて。でもね、私もやっぱり」

「分かってる。分かってた! でもヘンリカは、私の中ではいつまで経ってもヒーローだったの。子どもの頃からずっと……だから確かめられなかった。私の勝手な理想が、崩れそうで」

「だから失望したでしょ。ヒーローなんかじゃない、私は……自分の欲と嫉妬のために親友を傷つけた最低な極悪人よ」

「失望なんてしてない! 私の我儘だった。ヘンリカだって人間なんだよね。当たり前のことなのに、私に勇気が無いせいで確かめられなかった。だけどもう我慢しないで、一緒に話し合って行こうよ。私達、親友なんだから」

「ごめん……ほんと……ごめんね……ごめん……」


 二人が泣きながら互いを抱き締める姿を見たエイネルは両者の溝が埋まったことに喜びながらも、やはりここまで出来る同年代の友達と言うものが自分にはいないのが少し悲しくもなった。

 本来なら警察に突き出すべきなのだろうが依頼主のソフィアにその気が無いのならリンカードがエイネルがする必要もなく、問題も解決したので二人を置いてリンカードは一足先に部屋を出て行く。

 エイネルも首を突っ込むのは藪蛇やぶへびだと思いその場を後にしてリンカードの後を追い、未だにスタッフが忙しく舞台の撤去作業をする横を通り過ぎて裏口から舞台の外へ。

 南の空で容赦無く照り続ける太陽が二人を歓迎し、ソフィアとヘンリカの関係を羨ましく思いながら俯くエイネルの頭を横に並んだリンカードが上から抑え、慌てたエイネルはその手を振り払った。


「なにすんのさ!」

「いやなに、少ししょげてる様だから元気づけてやっただけだ」

「私は魔王だよ、しょげてなんてない。プンスカ」

「そうか、それじゃあこれは俺の勝手な独り言として言っておこう。さっき三つめの要素が決定的と言ったが、他にもヘンリカが犯人だと決めつける決定的な要素があった」

「ふーん。横でリンクが何か独り言を言ってる様だから、興味本位でさり気なく聞いてあげる」

「内部犯の確率は確かに高かったが、外部犯の可能性はどうしても捨てきれなかった。だがお前が怪しい部外者はいないと断定してくれた。だから俺もかなり無理な方法を取れた。割とお前には感謝してるんだ、ありがとうな」

「ま、まあ魔王だからね私は。役に立って当然であ――」

「いたいた! 二人とも!」


 舞台から離れて行くエイネル達に裏口から出て来たソフィアは大きな声で呼び掛け、二人は立ち止るとそれぞれエイネルは全身で、リンカードは首だけで振り返る。

 別れの挨拶に大きく手を振るソフィアの目はまだ赤く染まっていたがその表情にはもう暗い影は無く、ステージ上の時同様眩しいまでの笑顔が浮かんでいた。


「護衛を引き受けてくれてありがとう! あと、ヘンリカとは何とか仲直りしてやっていけそう! 私一人じゃ怖くて確かめられなかったけど、強引でも知ることが出来てよかった! 貴方達に頼んで良かった!」

「俺は金をもらったから強引でも何でも結果を出しただけだ。仲直り後、精々また喧嘩しないように気をつけるんだな」

「私は……その、ソフィアは友達だから力になりたいのは当たり前だよ! 役に立てたならよかった!」

「ありがとう、エイネル! 私も貴方が親友であることを誇りに思う! そしてリンカードさん! もしも旅先で出会うことがあれば、是非私達の歌を今度は観客として聞いて行って! 貴方達の目指す勇者の道に、大いなる栄光があらんことを!」


 大きく手を振るソフィアにエイネルも大きく両手を振って小さくジャンプして返し、リンカードはぶっきら棒に軽く手を振って再び歩き出した。

 通りに差し掛かり人混みの中に紛れたエイネルはソフィアが見えなくなるとゆっくり両手を降ろし、前を行くリンカードの横に並びながら満面の笑みを浮かべる。


「なんだ、随分と嬉しそうだな」

「魔王であることは、やっぱり言えない。知られれば絶交されるかもしれない。でもやっぱり……親友って呼んでもらえるのは素直に嬉しい」

「そんなに人間と仲良くなって良いのかよ。一応自称勇者の俺が言っておいてやるが、お前は人間が恐れる魔王様だぞ」

「私は魔王だけどそれ以前に一人の少女、人間と友達になれるのは素晴らしいことだ。大体、魔王が喜んで何が悪い!」


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