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第56話  意外な一面と意外な才能




私は、アイラとナタリーを探して、ブルング宮殿の広く整備された庭をひとりで歩いていた。


ふたりに渡す為、町で昨日買ったお土産のクッキーを、いっぱい入れた(かご)を持って―――。


昨日、常軌(じょうき)(いっ)した鬼ごっこに巻き込まれて、アイラとナタリーに渡すはずだったお土産のことを、私は、すっかり忘れてしまっていた。


朝の講義中にそのことを思い出し、終了予定時刻よりもかなり早く終わったから、早速、お土産を持って、あの子たちの所へと向かったって、訳なんだけど―――、


「あれ?確か、この辺だって聞いたんだけどな。あの子たち、……どこ?」


(なんで宮殿の庭は、こんなにも無駄に広いのかしら?)


木陰から目を凝らしていると、ようやく見覚えのある背中を見つけた。


「あっ、いた!アイラ~っ!!」

「あっ!シャロン様!」


ダッシュで駆け寄ってくる!


まるで、ご主人を見つけた小型犬のようだ。


ナタリーも気づいたようで、こちらへ歩いてくる。


「はぁ、はぁ、いかがなさいましたか?ご用がございましたら、すぐ伺いましたのに」


全力で走り、息を切らせながら、アイラは、膝に手をついた。


「うん。ふふ、サプラ~イズ!」

私は、後ろに隠し持っていた籠いっぱいのクッキーをアイラに見せた。


「うわっ!!クッキーだ!どうしたんですか?これ!」

「昨日、殿下と行った町で買ってきたの。いつも私の為に頑張ってくれている、あなた達へのお土産!」


「えっ?!いいんですか?」

ほどなく、私達の所へ着いたナタリーの顔を一応、そぉ~と見てから、ナタリーが頷いた瞬間、籠に飛びついた。


(ホント、小型犬みたい)


「他のメイド達にも、あげるといいわ。殿下があなた達にもって事にしておけば、皆喜んでくれると思うし」

「わかりました!ありがとうございます。シャロン様!!」


今度は、ダッシュでメイド仲間の元へ―――。


あっ、転んだ!


相変わらずのドジっ子ね。


アイラがクッキーを配るのを見ながら、私は、ナタリーに話しをしようと隣へ座るよう(うなが)した。


ナタリーは分をわきまえ、立ったままを()いはしたが、私にしつこく催促(さいそく)され少し距離をとってようやく座った。


(もちろん、私は、お尻ふたつ分ほど詰めてやったけどね)


「―――どう?こっちの生活には慣れたかしら?」

「あっ、はい」


何だか、チョットむずがゆそうにしている。


「何してたの?」

「落ち葉や小石、伸びた雑草などの除去をしておりました」


「へ~、あなたにしては、簡単な雑務ね」

「はい。私とアイラは、基本シャロン様のお世話係なので、シャロン様が勉学中は、こういった雑務がほとんどですね。アイラは、いろんな人と話しができて楽しいようですが」


ナタリーは、苦笑いした。


そう言えば、最近、気が付いたけど、ナタリーは、アイラの事を話す時、必ず口元が緩む気がする。


今度、聞いてやろうかな?


「『ふふっ、言い訳が、楽しみだわ!』おっと……」

「は、はい?」


不意に吐露しちゃったが、ここはスルーして焦らず話題を即変える!


「ナタリーは、他の使用人達と話しをしたりしないの?」

「えっ?あ~、いえ、話さないのではなく、話せないので」


「話せない!?どうして?」

ナタリーは、少し考えてから話しを始めた。


「シャロン様は、ロキアという国をご存知でしょうか?」

「ロキア?ごめんなさい、勉強不足ね。知らないわ」


「ここより北に見えるピルマ山脈のさらに北、冬が、とても厳しい土地にあります」


ナタリーが指さす先に、薄っすら山々が見えた。


「実は、私とアイラ。それに、ここにいるメイドのほとんどが、そのロキア出身なんです」


ナタリーは、山々を遠目に見て、淡々(たんたん)とした口調で説明してくれた。


「ロキアは、多種族、多民族国家で住んでいた土地を追われたり、行き場をなくした者たちが最後に訪れる国で、別名『最後の楽園』と呼ばれています。この国は誰でも受け入れる代わりにある条件がありまして、その条件とは、毎年の税率が徐々に上がっていく事と入国から10年で国を出ないといけないという、ふたつの事。将来、国を出ることを約束に移住が認められる特別な国なのです」


ナタリーは、少し苦い顔で私の方を見た。


「―――ですが、期日を過ぎればとてつもない重税が課される為、皆、必死で仕事に就き、次に住む場所を探します。だからロキアは、上手くそこに付け込み、月に4回、諸外国や有力者向けて、その人達の移住先の斡旋を行っていますが、その現状は合法的な人身売買と言えるでしょう」


私は、仕方ない事なのかもしれないけれど、あまり、気持ちのいい話ではないと思った。


「私は8才の時に、アイラは物心ついた時には住んでいたようで詳しくは分かりません。あの子は、私と出会ってからずっと一緒にくっついてきて、今なお、共に過ごしている次第です」


「へ~ぇ、そうなんだ。あなたたちってそういう繋がりの関係だったのね。ん!?でも、それとあのメイド達が話しが出来ないのと、どういう関係があるの?」


「ロキアは、国家としては珍しく多種族多民族国家なので、住んでいる地域ごとに同じ種族が集まりやすく、こと、言語に関しては統一性がありません」

「多種族、多民族国家なのに、統一性が無いって、それ凄く不便じゃないの?」


「不便ですが標準言語を憶えるよりも、次の移住先の言語を優先させたり、憶えるよりも早く移住先が決まったりするなどで、標準言語を話せる者は、そう多くないですね」

「なるほど、じゃ、あのメイド達は、働きだして日が浅いから、まだ標準言語を話せないんだ」


「はい、ですから、私もあいさつ程度しか話しをしません」

「えっ!でもアイラはめちゃくちゃ喋ってない?」


「あぁ、あの子は、えぇ~と、何と言いますか、日常会話であれば30ほどの言語が話せるので―――」

「さっ、30!?そんなに話せるの?あの子が!!」


「はい、意外ですよね。さすがに読み書きは出来ないようですが」


(何?その妹自慢するお姉ちゃんみたいな顔!)


そんな顔もするのね―――。


「でも、それは凄い!尊敬に値するわ。本人には絶対言わないけど」

「えぇ、それは言わない方がいいですね」


私達は、ふたりで声を潜めて笑い合った。


ナタリーは、アイラの事なのに、なんだか嬉しそうにも見える。


クールなナタリーが見せる、あまりにも温かで豊かな表情。


しばらくして、他のメイドに配り終えたアイラが、また、ダッシュでやって来た。


アイラは、あれだけあったクッキーが、たった一枚しか残っていない籠を私達に見せた。


「ナタリーさん、どうしよう。一枚だけになっちゃった……」


先ずは自分!じゃないところが、この子のいいところだけど、いつの時代も、こういうタイプの子は必ず損をするわね。


「じゃぁ、これが私のね」

そう言って、ナタリーは最後の一枚を籠から取り出した。


「あっ!……」

と、半泣きのアイラ。


「いただきま~す」

絶望に染まっていくアイラの顔を面白がるように、ナタリーはわざとらしく最後の一枚をつまみ上げ口に運ぼうとした。


「フッ、冗談よ。ほら……」

そう言ってナタリーは、クッキーを半分にし、アイラに渡してあげた。


アイラの顔がみるみるほころんでいく。


「ありがとうナタリーさん!」

「お礼は、シャロン様に言いなさい」


「ありがとうございます!シャロン様、美味しいです!!」

もう、口に入れている。


「えぇ、また今度、機会があれば沢山買ってくるわ。それじゃ私は戻るわね」

私は、アイラから籠を返してもらうと、立ち上がりその場を後にした。


今日は、ふたりの意外な一面に触れた。


少しだけ空が明るく、この広い庭園が美しく見える。


そんな朝でした―――。




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