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ラブコールは銀河から――僕が地球代表だそうです  作者: 羊宮 玲(旧 羊)


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サシムの事情

 そう思った時、デッキの端に、他のクルー達と雰囲気の違う女性がポツンと座っているのが目に入った。クルーと似たような服を着ているが、手を前で縛られている。


 バタバタと走り回る人々には無関心に、ぼんやりと静かに座っている。非常に美しいが、生気が無い。

 場違いな女性の様子に、興味を惹かれ、近寄ってみた。


 そこに一人のクルーが駆け寄り、彼女を立たせて、デッキから連れて出た。山田はその後を付け、彼女が部屋に押し込まれるのを確認した。


 質素な部屋の中で、彼女は溜息をついていた。

 彼女はベッドに肘を置き、祈るような姿勢をとった。

 目を瞑って口の中で呟く言葉の中に、「サシム」という名が聞き取れた。


 山田は、彼女の姿をしっかりと目に焼き付けてから、身体に戻れと念じた。

 目を開けると、立花の心配げな顔が目に飛び込んできた。横にサシムが立ち、同じように山田を覗き込んでいる。

「よかった。戻ってくれてよかった」


 立花がほっとしたように、その場にしゃがみこんだ。

 山田は頭を振りながら椅子から立ち上がろうとしたが、立花に押しとどめられた。


「僕はどのくらい出ていましたか?」

「だいたい二十分くらいです。本当にあの艦の所に行ったのですか?」

「ええ、敵艦のメインデッキに飛び込んでみました。言葉がわからないので、何を言っているのかわからないけど、だいぶ焦っているようだった。僕が来たのが分かったみたいだ。牽引ビームは外れましたか?」


 サシムが無言でうなずく。今は、自由に走行し、敵艦の周囲を回っているようだ。


 ケリーとフロン、サージの艦からも、交信が入っているようで、様子を聞く声が重なり合っている。今まで、ずっとこの状態だったようだ。

 立花が答えた。


「今、戻りました。牽引が解けたので大丈夫だと思っていたけど……良かった!」

 むちゃくちゃ、気持ちがこもっている。


 ケリーたちの声も、心配と不安が顕わで申しわけなくなってきた。

「ごめん、無事に帰ったから」

 その言葉に、サージが母親のような調子で返す。

「すぐ、戻ってきなさい」


 ケリーは泣いているみたいだし、フロンは怒っていた。

 その入り乱れて入って来る交信を、立花はぶちっと切った。勇気あるな、と改めて感心する。


「何があったのですか?」

「僕がいたせいで、計器が乱れたようだった。それでクルーが駆けまわっていたから、後を追うどころじゃないだろう」


 サシムが、何かたじろいでいる様子だ。おずおずと尋ねてくる。

「相手の隊員の制服とか、何か覚えている物があれば、教えていただけませんか」

「茶色に黒のストライプが二本入った制服だった。艦長は、禿げ頭の男だったよ」

「ああ」


 サシムの表情が強張った。ぐっと歯を噛み締めている。

「多分、アンドロメダの精鋭部隊でしょう。普通の軍服はストライプ一本です。ハゲ頭はそこの隊長で、残酷なので有名な嫌な奴」


「サシム、向こうのメインデッキに若い女性がいた。彼女が君の名を口にしたのを聞いた。プラチナブロンドのストレートヘアでグレイの瞳の女性だ。君が探している女性か?」

 サシムが怖い顔で、いきなり山田の両腕を掴んだ。


 その殺気に反応して、立花がその手を叩き払い、山田を引き寄せた。

 山田が手で押しとどめ、サシムに向かい合った。怒りと緊張で、顔が真っ赤になっている。


「サシム、落ち着いて。向こうの艦は、まだ混乱しているだろう。もし助け出すなら、この隙だ」

 そう言ったら反応があった。落ち着いたか、と見守る内にサシムの体から力が抜けた。

「我が星の王女です。誘拐されて脅迫されました。国民には内緒です。誘拐犯から指名されて、俺が護衛に名乗りを上げました。全く柄じゃないのに」


 しばらくして、ぽつりと言った。

「……やるしかなかった」


 サシムは自分が皆を裏切っていたと、話し始めた。

 女性は、彼の星の王女ミーシャ。

 護衛の話が来た頃に何者かに誘拐され、ジェイを引き渡すのと交換で、王女を返すと言われたそうだ。サシムの強さは有名だったので、狙われたらしい。


「戻りましょう。サージの艦に戻って相談すべきです」

 山田がかいつまんで話を伝えてから、全員が本艦に帰還した。


 戻るとすぐに、ジェイはもみくちゃにされ、立花は一斉に攻撃された。交信を切ったのが、かなり恨まれたようだ。

 それを全て躱す立花は、やはり武芸の心得があるとしか思えない。


 サージと立花と山田、護衛三名で船長室に向かった。

 立花が振り向き、マナに声を掛けた。


「すみません、マナ特使。申し訳ないが少しだけお付き合い願います」

 マナはげっそりした青白い顔で、首を縦にふり、こちらにやって来た。軍人ではない彼女も、連続のワープがこたえているらしい。

 立花が、高橋を手招きした。

「俺もっすか? 軍事面の話は、全くの担当外、とは言わないけど……」

 高橋は、なぜかワープの影響が無いようで、当たり前のような顔で、通信席の一つに座って仕事をしている。

「入っておいてください。色々とこの先、力を借りる事がありそうです」


 サシムは手を組んで胸に強く推し当て、何事かを声を出さずに呟いている。

 立花は、彼の肩に手を置いた。

 黙ったままのサシムに代わり、フロンが声を上げた。


「ねえ、ジェイ。あっちの艦はバリアを張っていなかったの? 計器の乱れってどの程度? 艦内はどんな感じだったの?」

 フロンが具体的なことを聞いてきた。


「バリアは精神エネルギーの状態だと効かないみたいだ。内部は機器に乱れが出ているようで、非常警報らしき音が鳴っていた。どの隊員も走り回っていたよ」


「それは、またすさまじい」

 高橋がぼそっと言う。


「こちらから通信を送り続けていましたが、それが全く不通になったから、通信は使えなくなっているでしょう。牽引ビームが外れたことからして、兵器の使用も厳しいか。ましてや緻密な計算が必要なワープなんて出来っこない。宇宙に漂っているような状態かもしれないな。それならジェイはどこにでも移動出来て、どこにでも入り込める……いや、阻止できない人間兵器ってことか」


 言われてみて初めて、ぐっと胸に堪えた。

 計器類に異常が起こったことを言ってしまったのは、うかつだったと気づくが、もう遅い。

 更に、気にダメージを与える事ができると知られたら、自分は人間の枠をはみ出してしまうかもしれない。


「あ、すみません。ジェイ。あなたの事を悪く言うつもりはないんです。だけど敵からは、そう見えるかなってことで。ごめんなさい!」


 高橋が頭を思いっきり下げた。

 ケリーがその頭をバシンと叩く。


「ちょっと、人間兵器はないわ。ジェイはしないでしょうから、私が罰しておく」

 ケリーは腕を組んでぷんとした。


 一瞬空いた間の中で、立花が皆を落ち着かせるように、静かな声で話し始めた。

「その話は帰国後に置いておきましょう。今はサシムの件を話し合いたい」

 そして、誘拐された王女の事を説明した。


「叩くなら今よ。必要だったら、私の部下を貸せるけど、どうする?」 

 そう言いながら、フロンは何か小さな通信器を操作している。


「え、叩くって何?」

 山田が聞き返した。


「そりゃあ、口封じよ。ジェイの能力をアンドロメダに報告されたら厄介なことになるわよ。どうせ敵はアンドロメダでしょ」

「そうだね。私も同意だ。やろう」

 ケリーが同意すると、サージも、マナまでもが揃って同意する。


 びっくりしていたら、立花までもが、まさかの返答をした。

「力添えをお願いします」


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